SUPER ORCHESTRA NIGHT まさに”スーパー”なひととき……(from Be HISAISHIST!! Volume.5)

またまた大変お待たせしました! お待ちかねのコンサートレポートがとりあえず完成しました。早速、アップしたいと思います。しばし、コンサートの雰囲気、あるいは記憶を呼び起こして楽しんでみてください。前回も言いましたが、今回のレポートは最高の出来になったと、またまた確信をしてます。

あと、今回のレポートの書き方はこれまでのものと少し変えてみました。ちょっと落ち着きのある口調にしてみたのですが、どうでしょうね。出来れば、ご感想をお待ちしています!

急いでレポートを書き上げたんですが、オフ会の様子や終わった後にちょっと行ったところがあって、のちのちオマケレポートを作り足すかも知れませんので、とりあえずお伝えしておきます。

上のアマゾンリンクはこの公演のライブ盤です。

日時2001年12月7日(金) 19時から
会場東京芸術劇場
チケット全席指定 S席8,000円 A席7,000円
出演者久石 譲(ピアノ)
金洪才指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団

曲目

「千と千尋の神隠し」組曲より ”あの夏へ” ”竜の少年~底なし穴” ”6番目の駅” ”ふたたび” / 「Quartet」より ”Black Wall” ”Student Quartet” ”Main Theme” / Asian Dream Song

    INTERMISSION

「BROTHER」より ”Drifter…in LAX” ”Wipe Out” ”Raging Men” ”I Love You…Aniki” / もののけ姫 / La pioggia / HANA-BI / Tango X.T.C / Kids Return 2001 / Summer (encore) / Le Petit Poucet (encore) / Madness (encore)

コンサート日程 -Concert Schedule-

Performed by Joe HISAISHI on PIANO (ALL PLACES)

10月30日(火) October 30th -Tuesday-
    【名古屋】愛知県立芸術劇場
    Play at NAGOYA, Aichi Prefectural Art Theater
    演奏:セントラル愛知交響楽団 指揮:齋藤一郎
    Performed by Central AICHI Symphony Orchestra  Conductor: Ichiro SAITOH

11月5日(月) November 5th -Monday-
    【大阪】ザ・シンフォニー・ホール
    Play at OSAKA, The Symphony Hall
    演奏:関西フィルハーモニー 指揮:齋藤一郎
    Performed by KANSAI Philharmonic Orchestra  Conductor: Ichiro SAITOH

11月8日(木) November 8th -Thursday-
    【韓国・ソウル】世宗文化会館
    Play at South Korea: SEOUL, Sejong Center
    演奏:コリアンシンフォニー 指揮:金洪才
    Performed by Korean Symphony Orchestra  Conductor: Kim Hang Je

11月18日(日) November 18th -Sunday-
    【相模原】グリーンホール相模大野(相模原市文化会館)
    Play at SAGAMIHARA, Green Hall SAGAMI-OHNO
    演奏:新日本フィルハーモニー 指揮:金洪才
    Performed by New Japan Philharmonic Orchestra  Conductor: Kim Hang Je

11月22日(木) November 22nd -Thursday-
    【大阪】八尾市民文化会館プリズムホール
    Play at OSAKA, YAO Prism Hall
    演奏:関西フィルハーモニー 指揮:金洪才
    Performed by KANSAI Philharmonic Orchestra  Conductor: Kim Hang Je

11月29日(木) November 29th -Thursday-
    【広島】広島厚生年金会館
    Play at HIROSHIMA, HIROSHIMA Kose-Nenkin Kaikan
    演奏:広島交響楽団 指揮:金洪才
    Performed by HIROSHIMA Symphony Orchestra  Conductor: Kim Hang Je

12月2日(日) December 2nd -Sunday-
    【佐賀】佐賀市文化会館
    Play at SAGA, THE SAGA CULTURE HALL
    演奏:九州交響楽団 指揮:曽我大介
    Performed by KYUSYU Symphony Orchestra  Conductor: Daisuke SOGA

12月7日(金) December 7th -Friday-
    【東京】東京芸術劇場
    Play at TOKYO, Tokyo Metropolitan Art Space
    演奏:新日本フィルハーモニー 指揮:金洪才
    Performed by New Japan Philharmonic Orchestra  Conductor: Kim Hang Je

コンサートチラシより

今日は、そう待ちに待った久石さんのコンサートの日。どれだけこの日を待ち望んだことか。前回のコンサートが2000年6月だったことを考えると、1年以上ブランクがある。やはりそれだけ期間があると、期待に胸をふくらませない訳はない。ましてやオーケストラコンサートともなると、また一段と違った気持ちになる。

朝早くの急行列車に乗り、一路、東京へ。コンサート前にオフ会があることや、いろいろと野暮用があるため、少し早く家を出だしたのだ。とりあえず、オフ会の内容については時間があるときにでも書いておこうと思う。

渋谷でのコンサート前のオフ会終了後、一路、東京芸術会場のある池袋へと向かう。時間が押していたのと、途中、一人で道に迷うというアクシデントがありながらも、何とか会場にたどり着き、荷物などを手に会場入りを果たす。

東京芸術劇場は、池袋西口に面したところにあり、池袋西口公園はちょっとしたスペースになっている。ただ、夜になると多少柄が悪い印象を、田舎者の私としては感じるが、公園内でライブをしている人がいたり、池袋西口前でストリートライブを行っていたサックス奏者がおり、様々な意味で文化交流の場になっているようだ。

会場内の大エスカレーターの前にて

劇場内は、まず屋根がガラス張りになっており、自然光が入ってくる作りになっている。昼間などは照明が無くても、十分明るいくらいだ。そして、天井からオブジェがつり下げられている。キューブ状の物体がブドウのようなバランスで配置されており(ちょっと表現が悪いが…)、そういった現代的な内装がまず、コンサートの観客を出迎えてくれる。1階フロアやや西寄りのところだろうか、大ホールへと伸びる長いエスカレーターが2列に並んでいる。それに運ばれること約2分。大ホールへのエントランスへと着く。すでに開場が始まっており、入場口には長い列が続く。仲間とともに、その列に着いて入場を果たす。いよいよだ。

かさばる荷物などを預け、ホール前のスペースへ。そこではパンフレットはもちろん、CDも売られていた。確認はしていないが、おそらく山野楽器が販売を担当しているのだろう。「Le Petit Poucet」も売られていたようだ。また、前々回のコンサートから販売されている、緑色の「Joe Hisaishi」の刺繍が刻まれたタオルも販売されていた。

とにかくパンフレットを購入しホール内へ。ステージ上では新日本フィルハーモニーの方たち数人が練習をしている。とりあえずすごすごと自席へ行ってみる。……あらかじめ分かってはいたことだが、最前列の久石さんのすぐそばだった。距離として3、4メートルくらいだろうか… 表情が手に取るように分かる位置。しかし、指揮の金洪才(キム・ホンジェ)さんの姿がピアノに隠れ、足下と頭しか見えない。そして、フィルハーモニーの方たちの姿も手前にいるヴァイオリンやヴィオラ、チェロの方々しか目に入らず、奥の方はほとんど見えない。一番痛いのは、ステージの段差によって、新日フィルから発せられた音が、頭上をかすめて素通りしてしまうことだった。実際、かなり素通りしていたが、ちょうどヴァイオリンの音は、奏者の方々が良い角度に向いていたため、コンサートマスターの方などが奏でる音は綺麗に聞こえていた。ちなみに私の席のとなりには前回のコンサートから何かとお世話になっている「師匠」がいる。この席もとりあえず知っている人と聴いた方がというお話を頂いて、一緒にチケットを取っていただいた。多謝である。

2年前にもこのホールに来たことがあるが、まず記憶していたものより広く感じた。ほぼ2,000の座席が並ぶのだから、広いのは当然ではあるが、1階席はもうすこし狭かったような感じがしていたのだ。とりあえずホール内の様子を写真に収めておいた。デジカメでパシャパシャやっていると係員が寄ってきて「場内は撮影禁止に…」と何度か言っていた。公演中は撮影しないと伝えると安心して係員は戻っていった。さすがに公演中に写真を撮ろうとは思っていない。

また、会場には映画「Quartet」で出演された袴田吉彦さんや、大森南朋さんがいらっしゃったようだ。元米米CLUBの石井竜也さんもいらっしゃったらしい。直接、お顔を拝見できなかったのは残念だったが、話によると袴田さんはアンコールの前に席を立たれてしまったらしい。スケジュールでも押していたのだろうか。

大きなオルガンが立ち構えるホール内

さて、時計が午後7時を幾分か過ぎた頃、徐々に会場も静かになり、いつの間にか、ステージ上で練習をしていたフィルのメンバーも消え、その雰囲気がいよいよ始まるコンサートの緊張感を伝えていた。場内放送で、開演が伝えられ、程なくすると、新日本フィルハーモニーの方々がステージ両袖の入退場口から揃って入場される。その間、会場内から暖かい拍手が送られた。

フィルの方々がそれぞれ着席されると、第1ヴァイオリンを担当するコンサートマスターの男性が立ち上がり、会場に向かって一礼をされた。開場から再び割れんばかりの拍手が起こる。その拍手が一段落すると、コンサートマスターはスタインウェイのピアノの鍵盤をポンと弾いた。その音に合わせて、フィルのメンバーが自らの音を調整していく。それが終わると、会場内にまた静寂のひとときが戻ってきた。

どのくらい経っただろうか… すると、舞台袖の入り口が開き、久石譲その人が入場してきた。続いて指揮を担当する金さんが入ってこられた。一段と強い拍手が巻き起こる。強い拍手が会場内を渦巻く中、コンサートマスターや指揮の金さんに固い握手を交わした後、会場に向かって深々と頭を下げた。一段と強まる拍手。その拍手の嵐の中、久石さんはスッとピアノの前に腰を下ろした。

サッと拍手の音が引いて、また静かな時間が過ぎる。その間、久石さんはピアノの鍵盤をジッと見つめている。気持ちの中の高ぶりが熟すのを待っているように… そして、また今度は目を閉じた。自分に暗示をかけているのだろう。「オレは出来る。世界一だ」とでも……

その傍らで指揮台に立っている金さんが久石さんのアクションを待っている。

「じゃ、行きます!」

小さな声ながら、はっきりした声で久石さんはうなずきながら金さんにそう伝えた。さあ、スタートの一曲が始まる。

・あの夏へ 千と千尋の神隠し組曲より
まず最初は宮崎駿監督の大ヒット作『千と千尋の神隠し』のナンバーから、映画の冒頭を飾る曲が、同じようにコンサートの冒頭を飾った。

あの映画の最初の曲が、会場内に響き渡る。非常に力強く、また柔らかいピアノの音色だ。サントラのヴァージョンでは、優しいピアノの音色なのだが、今回のコンサートではその音色が非常に力強くなっているように感じた。久石さんの表情にも非常に力が入っている。曲に入り込んでいる表情と、力を込めて弾いているための表情が混ざり合ったような、いわゆる般若のような形相で弾かれている。間近で観た私にはそう感じられた。このように曲へ入り込んで弾かれている姿に惹かれている部分もあり、それが目当てで生のコンサートで曲を聴くといった意味合いもあるのかもしれない。

しかし、最初の曲からこんなに飛ばして良いものなのかと、少々心配になった。「ピアノを弾く」という感じよりも、「鍵盤を押し込んで強い音を鳴らす」といったような弾き方と表現すれば良いだろうか。私自身、力強い音色が好きなため、非常に好みにあった演奏なのだが、この辺は少しだけ引っかかっていた。しかし、このことはコンサート後半の久石さんの話から明らかになる。

とにかく久石さんのピアノが続く。出だしの和音から、右手だけでメロディの演奏をする部分があり、その辺りなどもその力強さがハッキリと出ていた。本当に力強い。オーケストラに全く負けていない音色だ。この後、徐々に曲調全体が強くなり始め、オーケストラ全体の音がホール内に鳴り響く。やっぱり生のオーケストラの音は違う。迫力がある。音が迫ってくるような感じで、足下の床もその音量で震えていたくらいだ。ただ、惜しむらくは席の関係で直接音を浴びることが出来なかったこと。やはりそこまでは欲張りか…

オーケストラの音が綺麗に鳴りやむと、一斉に拍手が鳴り出した。会場の観客に向かって、座りながら軽く会釈する久石さん。そのまま次の曲へ…

・竜の少年~底なし穴 千と千尋の神隠し組曲より
ミニマルミュージック(※1)っぽいピアノのフレーズから始まる。サントラだとハープから曲が始まっているようだが、コンサートヴァージョンということで、曲全体が大幅に付け足され、アレンジされ直されていた。「底なし穴」の後半などはサントラには全く収録されていなかったはずだ。小気味良いテンポの演奏が続き、久石さんも曲にノリながらピアノを弾いている。”ジャン!”という音で曲が終わるとともに、久石さんが左手で「よしっ!」と小さくガッツポーズをしたのは見逃さなかった。聴いている私にも、「決まったっ!!」というような感じが伝わってた。この日はコンサートの間、終始、久石さんはフィルの方々や、金さんに向けてにこやかな表情を向けられていた。今回のパフォーマンスが素晴らしいものだということの表れであろう。

※1 ミニマルミュージック
同時にいくつかの短いフレーズを繰り返し演奏し、それを徐々にズラしていくことによって生まれる音楽の総称。元々はアフリカ民族音楽に由来する。

・6番目の駅 千と千尋の神隠し組曲より
静かな出だしから始まるこの曲は、映画のCMなどにも使われた優しげで、でも少し寂しいメロディの曲だ。映画の中では、6番目の駅に向かうため、千尋とカオナシが電車に乗っている場面に使われている曲だったろうと思う。この曲もサントラとはまた違ったアレンジが施されていた。

・ふたたび 千と千尋の神隠し組曲より
映画の最後の場面に流れる曲だ。この曲は元々「千尋のワルツ」というタイトルがつけられてあって(『同イメージアルバム』より)、そのとおり、この曲は3拍子の曲となっている。ヴァイオリンが静かに音色を醸し、そこにオーボエのメロディーが入り込んでくる出だしとなっていたはずだ。そこに久石さんのピアノが絡んでくる。序盤はゆったりとした曲想で進んでいくが、中盤の盛り上がる場面ではオーケストラの強さがものすごく感じられた。普段、CDでしか聴かれていない方には一度、生のオーケストラで聴いていただきたい、そう思う。音が自分に迫ってくるような感覚を覚えられることだろう。もちろん、この曲が終わった直後、盛大な拍手が久石さん、金さん、新日フィルの面々に送られたのはいうまでもない。

ただ、コンサートの前半では、ほんの少しだけ拍手のタイミングが早いように感じられた。これは致し方が無いのかも知れないが…

千と千尋の神隠し組曲が終わり、盛大な拍手を送られた久石さんは、椅子から腰を上げ、再び会場に向かって深々と頭を下げられた。その拍手の中、また腰を下ろし、左手にマイクを持って喋りはじめられた。

「こんばんは、久石譲です。」

再び、会場から拍手が起こる。

「『千と千尋の神隠し』から4曲、聴いていただきました。『千と千尋の神隠し』はご存じの通り、おかげさまで大ヒットしています。昨日か… いや、一昨日だったかな? ”千と千尋の神隠し大ヒット記念パーティ”に出席してきました。2,100万人の方に観ていただいているそうです。東京ドームでは年間400万人の観客の方々が入場するそうで、その何倍もの方が映画を観に来られたわけです。そんな映画に携わることができて、本当に誇りに思っています。」

『もののけ姫』もいろんな意味で”化け物映画”と言われたが、『千と千尋の神隠し』はさらにその上を行く好成績をあげ、あの難攻不落といわれた『タイタニック』を軽々と飛び越えてしまったのは、予想が難しかった。それだけに、あれだけのヒットは関係者としては喜びもひとしおだろう。

「この『千と千尋の神隠し』が公開されたのは夏場ですよね。そしてこの秋に私が初監督をした、映画『カルテット』が公開されました。秋口から公開したのですが、残念ながらお客さんの入りが悪く、木枯らしが吹く前にはもう終わってしまいました(苦笑)。でも、『カルテット』より先に公開されている『千と千尋』はまだ公開中なんですよ!」

会場からチラホラと笑い声が… というより、笑って良いのかちょっと会場内も困っている様子。あ、私自身は笑ってしまったが…

「はぁ~あ…(笑いながら深いため息)」

このため息で会場内が大爆笑となった。一生懸命に作った映画が興行的に失敗に終わり、ちょっとガックリと来ているはずであろうが、それを笑いに変えてしまうのは反骨精神の表れであろうか。久石さん自身、「2勝1敗で行ければすごい勝率ではないか」という言葉を、とあるテレビ番組で語ったことがある。何事も失敗することはあるから、失敗を長い間悔いることは無いのであろう。

「私が監督した『カルテット』は映画音楽です。音大生がいい加減にカルテットを組むというところから映画が始まります。音大が舞台なので、様々な曲を作りました。

今回、まず演奏する”Black Wall”は現代音楽がちょっと入っています。その次の曲”Student Quartet”はモーツァルトばりばりの曲です。そして”Main Theme”と続きます。

映画の中でも演奏しているシーンがあって、オーケストラが演奏しているところは、この新日本フィルハーモニーの方々が演奏しています。指揮も俳優さんが出ている場面がありますが、実際に指揮を振っているのはここにいる金さんです。ここに袴田吉彦扮する相葉明夫がコンサートマスターとしていれば、まさにデジャヴなわけです。」

私自身この話を聞いて、実際にこの場にいる新日本フィルハーモニーのコンサートマスターがどんなことを思っているのか少し気になった。表情を見る限り、別に何も思ってなさそうだったが、私だったら「あれ、自分は邪魔なのかい?」と突っ込んでしまいたくなる。また、会場に袴田さんが来ていらっしゃった訳だが、袴田さんも「オレが行った方が良いのか?」なんて… まあ、思うはずは無いだろうが…

こんな話をされている中、舞台袖から一人の男性がトコトコとやってきて、ピアノの上蓋を閉めている。突然の事なので、なぜそんなことをするのか、分からない方もいただろうと思う。

「最初の曲は私の出番がないので、舞台袖で聴いています。」

そう、ピアノの出番がないので、蓋を閉じていたのだった。

「それでは、金洪才指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏による”Black Wall”、お聴き下さい!」

盛大な拍手とともに、久石さんは舞台袖に下がっていった。フィルの方々と、指揮の金さんだけで演奏が始まる。

・Black Wall Quartetより
曲としてはサントラと同じアレンジで演奏がなされていた。オーケストレーションは三宅一徳。この方は2000年春のサリン事件のチャリティーコンサートでも一部、編曲を担当され、また「Le Petit Poucet」などにもオーケストレーションとして参加されている。

『Quartet サウンドトラック』ではこの曲だけがオーケストラアレンジがなされている。主人公の袴田さん扮する相葉が、一時は一流オーケストラのコンサートマスターになろうとしたが、その後悩み、仲間と一緒に、弦楽四重奏のコンサートに参加しようと思い直しているシーンで、相葉が一流オーケストラとともにコンサートで演奏している楽曲として映画中にこの曲が流れていた。

指揮の金さんはやはり力強い指揮を披露している。右に左にタクトを振り、うまいタイミングでフィルの方々に指示を与えているのが印象的だ。どちらかというと不安定な曲調のため、指揮も難しいだろうし、また演奏も難しかっただろう。それでもサラリとこなしてしまうのはやはりプロたる所以か。フィルのみなさんは、初めて見た楽譜でもすぐに譜読みして、演奏できるということを聞いたが、私には全く想像が出来ない世界である。この曲中、残念ながら私の席ではピアノが邪魔でなかなか金さんの姿が見れなかった。それがちょっと残念だ。

曲が終わり、観客席から拍手が鳴り響く中、久石さんは手にスコアを持ってやってきた。そして指揮の金さんと軽くバトンタッチを交わして、金さんは舞台袖へ。そう、次の曲は久石さんが指揮を執るのだ。

・Student Quartet Quartetより
題名の通り、学校で演奏されるような、ご自身のおっしゃるとおり、モーツァルトを意識した曲に仕上がっている。この曲は元々カルテットのために作られているため、今回はそれをオーケストラ用に編曲してあった。全体的に綺麗な、ゆったりとしたアレンジになっていたと思う。それにしても、やはり注目は久石さんの指揮だ。手にはタクトを持たずに、フリーハンドの指揮をしていたが、最近のサウンドトラックなどの収録では久石さんが直接指揮を執っているので、ある程度こなれてきた時期なのではないだろうか。指揮の取り方としては非常にオーソドックスな形だったと思う。2000年春のサリン事件チャリティーコンサートでの久石さんの指揮者姿を見ているため、さほど違和感が無かった。コンサート前にも、久石さんが指揮されるのではないかということをある程度、予測はしていたことでもあったのだ。肝心の久石さんの指揮は、教科書の通りの振り方ではあるが、体を左右に揺らしながら、的確にフィルに指示しており、上手だったと思う。感じとしては、佐賀公演で急遽登板した指揮者の曽我さんのような指揮ぶりなのかも知れない。ただ、やはり振り方がパワフルだった。

「Student Quartet」が終わり、拍手が続いている中、ピアノの上蓋を元の状態に戻し、再び金さんがステージ上に戻ってきた。久石さんも所定のピアノの前で腰を下ろし、次の曲が始まる。

・Main Theme Quartetより
曲の出だしは、まさに『カルテット』だった。第1ヴァイオリンのコンサートマスター、第2ヴァイオリン一人、チェロ一人、ヴィオラ一人だけで、演奏しはじめた。ワンフレーズをこのカルテットで演奏し、そこに久石さんのピアノが絡んでくる。この曲のオーケストラヴァージョンも初めて演奏されるもので、やはりサントラとは異なり、迫力がある。また個人的に『Quartet g-moll』のラストの部分が好きなので、この曲のラストにちょっと注目していた。サントラだとメインテーマの方はフィードアウトで終わっているが、今回はフィードアウトし終わった最後に「チャン」と、全弦楽器のピチカート(※2)が付け加えられていた。この辺で、若干拍手をフライングしかけた方もいらっしゃるのでは無かろうか。

※2 ピチカート(ピチカート奏法)
弦楽器の弦を指ではじいて音を出す奏法。

・Asian Dream Song
続けて次の曲が始まった。この曲は1998年の長野パラリンピックのテーマソングになっているが、元々は「Piano Stories II -The Wind of Life-」という久石さんのソロアルバムの中に収録されている曲だ。メロディ的にアジアを意識したようなものになっており、前回1998年のシンフォニックコンサートではアンコールに演奏され、好評を得た曲目でもあった。

実際の演奏だが、基本的に「WORKS II」に収録されているヴァージョンと大きな変わりは無かったように感じる。ただ多少、リズムや和音が微妙に変わっているようなそんな印象は受けた。しかし、やはりピアノのメロディラインは素晴らしいものがある。何とも言えないような、美しいピアノのメロディと、流れるようなオーケストラとのハーモニー、そしてまたその音の迫力は素晴らしく、やはり何度聴いても絶品の作品では無いだろうか。私自身も、メロディを口ずさみたくなるほどで、本当に良かった。

この「Asian Dream Song」がコンサート前半、最後の曲だった。会場内は総出で湧いている。一部の観客は「良いぞー!」「ブラボー」など、声をかけていたようだ。久石さんはその湧いている会場へ一礼をして舞台袖に下がっていった。


…以上、前半8曲が終了した。ここまでの正直な感想は、「時間が短く感じる」という一言に尽きると思う。あっという間に8曲が終わってしまったという感じだ。気がついたら開演から1時間が経ってしまっていたのだ。しかし前半終了直後、ため息ばかりだった。ため息と言っても悪い意味のものではない。「良いなぁ、良い!」というようなため息。良すぎて、聴くのに集中して体力を消耗するというような感覚だろうか。身体中の力が抜けてしまったような感じなのだろうか。自分自身もよく分かっていないが、まあ、そんな感じだった。

隣りに座っている師匠とともに、イスに少しへたり込んでいるところへ、仲間のみなさんが来て下さり、ちょっと談笑をする。思えば、多くの知り合いができたものだ。何もしなければ、私など知っている人なんて数える程度だったろう。本当にコンサートごとにインターネットのありがたみを感じる。今後も、せっかく知り合った方々なのだから、大切にしていかなければならないなと改めて思う。

話もそこそこに、師匠とともにトイレへ向かう。トイレは多くの人が並んでいるようで、最初諦めていたが、良く確かめるとドリンクを飲むスペースがあり、トイレに並んでいると思われた方々はそのスペースでたむろしていた方々だった。それに気づいてあわててトイレへ。ちなみに、トイレ自体はあまり人がおらず、空いていた。

その後、時間ギリギリに会場にやってきたため確認できなかった、CDの販売をやっているところを眺める。おそらく山野楽器が担当していたのだろうが、東京会場では「Le Petit Poucet」が置かれてあったと思う。記憶が定かではないので、ハッキリしないが確かそうだったはずだ。また、「NHK人体シリーズ」のサントラなども置かれていた。最近発売された久石さんの曲を収録してある、いわゆる癒し系のCDも置かれてあったようである。とりあえず、私は一通りのものは持っているので、何も買わずにホール内に戻る。

とりあえず、席に戻り、喉がおかしくなって咳が出ないようにのど飴を舐めながら後半に臨んだ。

前半と同じようにステージ両袖から新日本フィルハーモニーのメンバーが入場し、コンサートマスターが音あわせをする。そして落ち着いたところへ久石さんが登場。大きな拍手に迎えられる。

久石さんは会場に向かって頭を下げられた後、サッとピアノの椅子に座り、また前半の始まる前と同じようにジッとピアノの鍵盤の一点を見つめていた。コンセントレーションを上げようとしているのだと思う。短い間、そういう仕草をされた後、金さんに「ハイ!」とうなずきながら合図を送った。いよいよ、後半が始まる。

・Drifter…in LAX BROTHERより
最初はパーカッションから。席の関係で、どのような感じに音を鳴らしているのか全く確認ができなかったが、サントラに収録されているパーカッションとは若干趣が違うような感じがした。リズムは同じなのだが、楽器が微妙に違うような音。ただ、やはりかっこいいアレンジになっているのは明らか。「ドン・パンパ・トン・ドン・パンパ・トン」というようなパーカッションのリズムに乗って、メロディがピアノや、トランペット、フルートなどが奏でていたと思う。全体的にはサントラと同じように静かでゆったりとした曲調だ。

・Wipe Out BROTHERより
『Drifter…in LAX』から間髪入れずにこの曲に入った。というより、私としてはずっと一つの曲のような感じがしており、途切れ目がよく分からなかったのが正直なところ。この曲の序盤では、久石さんのピアノが和音を奏でながら、リズムを刻むというような感じで終始伴奏に徹するような感じだった。

・Raging men BROTHERより
また、この前の曲と続くような形で、パーカッションの大音響がホール内に響く。この部分はリズム感があって本当に格好良い。パーカッションに続いて弦楽器が短いリズムを刻んでいく。この部分はサントラよりも、不協和音が強調されている感じで、これがまた、素晴らしい。何かが起こるのではないかといった緊張感を感じさせるような、そんなアレンジだ。

そして、急に「パン、パン」とクラッカーのような大きな音が場内に響く。不覚にも驚いてしまい、何だったのだと首を傾げた。自分のいる席ではオーケストラ全体を見渡せないため、せっかくの演出が全く確認できなかった。他のコンサートの状況を見る限りでは、パーカッションの方が銃を構えていたらしい。その銃声の直後、久石さんのパワフルなピアノの音がブチッと切れたような感じになった。私自身、音楽に詳しいわけでもなく、また誰もスコアを見たことがある訳がないので、確認が取れないが、このブチッと音が切れたのが狙いだったのか、それとも単なるミスなのかが気になった。

・I love you…Aniki BROTHERより
続いて、ピアノからメインテーマが奏でられる。コンサートヴァージョンということで、ドラムが入ってきて非常にノリがある、格好良いナンバーにあがっていた。そして、静かに曲が終わりを告げる。

この4曲は間をおかずにつなげて演奏されていた。そのため、曲間の拍手も無く、聴いている私の感覚としては4曲が繋がって、ひとつの曲が演奏されたように感じた。続けて聴くと、また格好良いものがある。この「BROTHER」の曲は好評で、非常に評価が高かったパフォーマンスだったと、コンサート終了後にさまざまな方から話を伺った。このことからもどれほど良かったのか、ある程度想像できるであろう。私自身、もう一度聴き直したいと思う。

4曲が演じ終わった後、もちろん会場内から割れんばかりの拍手がわき起こった。久石さんがフィルのパーカッションや、ホルン、フルートの方々などに立つようにうながし、それらソロパートを担当された方々にも大きな拍手が送られた。拍手が一段落した後、久石さんはマイクを持たれ、再びしゃべりはじめた。

「北野武監督の『BROTHER』から続けて4曲をお送りしました。この『BROTHER』は、映画にピッタリ合った音楽を作ることができて個人的には非常に満足している作品です。ただ、映画に合う音楽というのと、このようにコンサートで演奏されるような音楽というのは、基本的に違います。今回の『BROTHER』も全て書き直しました。」

サントラでも十分格好良いのに、それにまた手直しを加えるというのはものすごく大変な作業なのではないかと思う。自分で作ったものを再びアレンジする。これは簡単そうで、実は非常に難しいものなのだ。一度、自分の中で完成型ができあがっているものを壊して、再構築させていかなければならない。以前にTBS系列で放送された「情熱大陸」にて久石さんがフィーチャーされたことがあり、苦しみながらスコアを書かれている様子が映されていた。次の日の朝方までかかってやっと曲が完成したところが放映されていたが、ちょうどこの『BROTHER』のアレンジをされていたらしい。

そんな話をされた直後、ふと久石さん、下を向いて「う~ん」を考え込まれた。何だろうか、と気になった瞬間、ふと顔を上げて再びしゃべり始められた。

「3年前にオーケストラでコンサートをやったのですが、オーケストラと較べてピアノの音が小さく、仕方なくPA(※3)を使いました。しかし、今回、それを使わないでやるため、弾き方を全く変えました。あ、このマイクはPAではなく、レコーディング用のマイクですよ!」

※3 PA (Public Address)
要するにコンサートやイヴェントなどで、音声がちゃんと伝わるようにする音響機器の事。
http://www.twomix.co.jp/club_tm/what_pa.htmより

そう、コンサートの序盤に気にかかっていたことがこれで分かった。いつもよりも力の入った演奏は、PAを使わないためのものだったのだ。オーケストラに負けないピアノの音を出すのは至難の業。それを成し遂げるために、ピアノの弾き方を変え、そして力の入った演奏をしていた。ただそのせいか、コンサートツアーの最中に、左手の小指を痛めてしまうといったアクシデントもあったようだ。この日のコンサート中も、左手を気にされていたようで、オフィシャルサイトのダイアリーにもこのコンサートの後半から痛み始めたようで、痛みをこらえながら演奏をしていたらしいと後日、書かれてあった。

話している最中、ふとピアノに備え付けられてあったマイクに目をやり、あわててPAではなく、レコーディング用だとおっしゃっておられたのだが、そうするとこのコンサートのCD化もあり得るのだろうか。売り出すのであれば、もうひと公演くらい、保険をかけるような形でレコーディングしていても良いと思うが。また、記録用のカメラも備え付けられていたようだが、こちらはスタッフの方々の確認用のような感じで、会場内を見た限り小さなカメラ1台しか見あたらなかった。

「とにかく、一からピアノの弾き方を直したわけですが、音は大きくなったでしょうか?」

久石さんは新日本フィルハーモニーの方々へ顔を向けて伺っていたが、間髪入れず客席の方から拍手が起こる。また、「大きくなってるぞ!」というようなかけ声もかかっていた。久石さん、この反応には嬉しかったようで満面の笑みで答えていた。

「えー、とにかく50代で…… 昨日で51才になったのですが……」

そう言い出すと、会場からまた盛大な拍手が送られる。かけ声のような音も会場内に響いていた。ちょっと恥ずかしそうに久石さん、笑っている。

「50代になっても、やればできるってことを言いたかっただけです(笑)。」

このひと言に、またまた盛大な拍手が送られた。歳を取ったら、なかなか思うように物事が進まなくなるというのは良く聞く話だが、やっぱり『やればできる』のだろう。私自身、まだまだ先があるのだが、なかなか行動に移せず、耳の痛い話でもある。やはり、久石さんの曲を聴いている我々も一生懸命やならければならないなと思わされる一節だった。

久石さんはひと通りピアノの弾き方のことを話されると、次の曲の準備に取りかかるように話をパッと切り替えた。

「これまで、初演ばかりの曲が続いたので、そろそろなじみの曲を演奏しようと思います。まずは『もののけ』から!」

待ってましたと言わんばかりに、会場から拍手が送られた。その拍手も、久石さんの準備が終わるとともにフィードダウンしていき、いよいよ曲が始まる。

・もののけ姫
大ヒットアニメ映画メーカー宮崎駿監督の『もののけ姫』のテーマ、と言わなくても分かるだろう。静かなピアノの出だしから始まる曲。大きなアレンジの変更は無かったものの、ところどころ微妙に変わっているのがにくいところだ。特に曲の途中で、ピアノ、ヴァイオリンひとり、チェロひとりのトリオだけで演奏していたところがあったのが印象に残っている。

・la pioggia
この曲は、吉永小百合・渡哲也が久しぶりに共演をした、澤井信一郎監督映画作品「時雨の記」のテーマ曲だ。非常にゆっくり、ゆったりとした曲調が印象的な曲だ。この曲で非常に驚いたのは、オーケストラでも『溜め』ができるというのが分かったことだ。2000年の『Piano Stories 2000 Pf solo & Quintet』でも同じ曲目がピアノとチェロのデュオで披露されたが、この時の、お互い顔を見合わせながら、一つの音を溜めて、非常にエモーショナルな響きを作り上げたのが印象的だった。それをオーケストラでやってのけてしまったのだ。指揮の金さんが、指揮棒を振り上げて、それを振り下げるのをちょっと我慢して『溜め』をつくる。それに併せてフィルの方々が演奏する。いとも簡単にこなしていたが、難しいことだったのではないのかとひとりで感じていた。この曲は、目立たないかも知れないが、個人的には非常に好きな曲の一つだ。

・HANA-BI
今度は北野武監督の『HANA-BI』のテーマ曲だ。ファンの間ではもう、誰もが知っている名曲だ。サントラバージョン、アンサンブルバージョン、オーケストラバージョンと様々なバリエーションで演奏され、それぞれCDにも収録されているが、何度聴いても悲しげなフレーズが徐々にアップテンポしていって、情熱的な演奏に変わっていくアレンジは素晴らしいものがある。特にピアノが奏でるサビの部分で、右手のメロディが駆け上がっていき、逆に左手のベース部分が駆け下りていくところは鳥肌が立つような感覚を覚える。この辺りは、指揮の金さんにも力が入り、体全体で指揮を執られていた。

それぞれの曲の後に盛大な拍手が送られたのは言うまでもない。本当に今回のコンサートは素晴らしい。そこでまた久石さんがマイクを手に取られた。

「いよいよ終わりが近づき、残すはあと2曲となりました。まずは、『Tango X.T.C』です。この曲は私が非常に気に入っている曲で…… そちらを演奏します。そして最後は『Kids Return』。この曲をオーケストラで演奏するのは今回が初めてで、初演になります。アレンジも今回のコンサートのために書いたものです。とにかく、今年最後の演奏となるので頑張ります。それではお聴き下さい。」

・Tango X.T.C
ファンじゃないと読めないタイトルの曲。これは「タンゴ・エクスタシー」と読む。海外に「X.T.C」というバンドがあって、その書き方が格好良かったことから久石さんが曲のタイトルに使用したのだそうだ。肝心の曲の方だが、これは大林宣彦監督の映画作品『はるか、ノスタルジィ』のテーマ曲である。この映画のサントラは2001年10月に復刻されたばかりだ。サントラや、ソロアルバム『My Lost City』、そして『WORKS I』『WORKS II』など、いろんなヴァージョンのアレンジが収録されているため、いろんな形でこの曲を聴いていらっしゃる方もいるはずだ。とにかく、今回はオーケストラアレンジで、特に過去に行われたコンサートなどとは大幅な変更は無かったようだ。

しかし、このゆったりとしたこのリズムは哀愁を誘っていい感じだ。序盤はあまりタンゴという感じではないが、後半はいわゆる”タンゴ”のリズムという感じで、非常にリズミックにオーケストラが音を響かせていた。

・Kids Return 2001
北野武監督映画作品『Kids Return』のテーマ曲である。今回のシンフォニックコンサート用に、『Kids Return』をオーケストラアレンジしたものが演奏された。この曲はアンサンブル形式のコンサートなどでいつもと言って良いほど演奏されている。そんな事もあり、オーケストラには不向きな楽曲ではないだろうかという考えが自分の中にあったが、今回、この曲を聴いた瞬間、そんなものは吹き飛んでしまった。素晴らしすぎるアレンジである。

特にこの曲のサビの部分は、今までのアンサンブルヴァージョンの場合は弦楽器がねばり強く音を伸ばして演奏をしているのに対して、今回のオーケストラヴァージョンはスタッカートっぽく、弦楽器の音色が空間を跳ねるような感じに仕上がっていた。第1、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバスと弦楽器全てが、揃って小刻みに音を切り、そしてまた、大きなアクションで演奏している。曲の緊迫感や迫力が、目にそして耳に飛び込んでくるようだった。

また、久石さんの楽曲は主に弦楽器が主体のものが多く、管楽器が影を潜めていることが多いのだが、この楽曲では管楽器が非常に効果的に、スパイス的な役割を果たしており、また一段と久石さんのアレンジの幅が広がったのではないだろうかと、素人ながら感じた。

ファンの間でも、『BROTHER』と同様に非常に評判が良く、もう一度聴きたいといった話や、高い評価する意見をかなり耳にしたほどで、これはもしCD化された場合、必ず聴かなければならない曲のうちの一つに数え上げられることだろう。

コンサート最後の曲目が終わり、会場から盛大な拍手が送られる。久石さん、客席に向かって深々とお辞儀をされた。会場内からは、聴き取れなかったものの、久石さんに声をかけられていた方もいたようだ。『ブラボー』とでも誰かが声をかけられていたのかも知れない。とにかく、会場内から割れんばかりの拍手が起こっている。

久石さんは一旦舞台袖へ戻ったものの、すぐに引き返してきて、サッとピアノの前に座った。そうすると会場内の照明が消え、ピアノだけにスポットライトが当てられた。会場からの拍手がやみ、まもなく久石さんの手から音が奏でられた。

・Summer (encore)
アンコール1曲目は、北野武監督映画作品『菊次郎の夏』からピアノソロ演奏だ。現在トヨタ・カローラのCMで使用されている曲と言った方が分かる方が多いかも知れない。

久石さんのアルバム『Shoot the Violist』に同じ曲が収録されているが、今回演奏されたのはこの曲調に近かった。スタッカートの効いた感じで、非常に小気味の良く、力の入った演奏で、まさに『夏』と言った感じのアレンジになっていた。多少、演奏中にミスがあったようだが、演奏終了後、久石さんは満足げな顔をしていた。いや、ちょっと苦笑いをされていたのかも知れない…

ピアノの音が鳴りやむのを待って、会場から拍手が送られる。すると、久石さんはマイクを取られた。アンコール中にマイクを持たれるのもちょっと珍しいなあと思いながら、久石さんの声に耳を傾ける。

「えーと、次の曲はフランス映画の曲を演奏します。『Le Petit Poucet』という映画です。オリビエ・ドーハンという方が監督され、現在、フランスで公開されています。14億円をかけた、結構大きな映画です。カトリ-ヌ・ドヌ-ヴやロマ-ヌ・ボ-ランジェが主演し、テーマ曲はベネッサ・パラディが歌っています。ベネッサ・パラディは俳優のジョニー・デップの奥さんと言った方が良いかな?

映画の公開はいつ頃になるか、ちょっと分かりませんが、来年あたりになるだろうと思います。それでは、一足先に『Le Petit Poucet』、お聴き下さい!」

・Le Petit Poucet -Main theme- (encore)
久石さんの説明にもあったとおり、フランス映画を担当され、オリビエ・ドーハンという監督の映画作品『Le Petit Poucet』(久石さんは『レ・プチ・プセ』とおっしゃっていたが、正しくはどう発音して良いか分からない)から、メインテーマがアンコール2曲目として演奏された。

私自身、この映画のサントラをHMVから輸入盤ですでに購入しており、何度も聴き直しているため、良いアルバムだというのは知っていた。曲もかなりいい感じだ。私自身に文章の表現力が無く、具体的に言えないのが非常に口惜しいが、特にメインテーマなどは非常に荘厳な感じのする曲であり、曲自体に何か広がりがあるような感じがする。

今回のアンコールでのパフォーマンスでは、久石さんがピアノを担当されるため、アレンジはもちろん変わっていた。アルバムヴァージョンにはピアノの音はあまり表舞台には上がっては来ないのだが、今回はサビの部分などを担当したりと、久石さんのピアノが大活躍だった。そして曲の最後は、サントラとは異なって、『ジャーン』といった迫力のある終わり方をしていたように記憶している。

会場からは割れんばかりの拍手が起こるが、まだスタンディングオベーションは起こらない。久石さんは、新日本フィルの方々に起立をうながし、フィルの方々にも、指揮の金さんにも、そしてもちろん久石さんにも熱い拍手が送られた。再び久石さんは頭を下げられ、金さんと共に舞台袖へ消えてゆく。そして、もう一度ステージ上に戻ってこられた。場内はまだまだ拍手が続いている。ステージ向かって一番奥の2階席からは、久石さんに向かって手を振る姿が。久石さん、それに答えて手を振り返している。もう一度会場に向かって、久石さんは頭を下げられた。

そうすると、待ってましたと言わんばかりに花束を用意されていた方々がステージ前に集まり始められた。実の事をいうと、このホームページの常連の方はみなさんご承知だろうが、私も小振りな花束を用意していたのだ。てっきり、他の常連の男性の方々も用意しているものだとタカをくくっていたのだが、見事にはずれた。でも、とりあえず他にも男性の方がいらっしゃったので、ちょっと一安心だったが…

みなさん、思い思いに花束を渡されている。何かの贈り物を渡されている方、久石さんと指揮の金さんにも花束を渡されている方、お子さんと一緒に花束を渡していた方、いろんな方がおられ、花束を渡す順番を待ちながら様子を見ていた。もちろん、今、言った中には私が知っている方もいっぱいいるが、誰がどう渡したかは、ご覧になっているみなさんのご想像にお任せしようと思う。

…それだけでは寂しいので、とにかく私自身はどう渡したのかはお伝えしておこう。とある事情から花束を渡す順番が後の方になってしまった。コンサートをご覧になった方は、この話を読んで、「あ、あいつか…」と思われる方もいるだろうが… とにかく、小振りの青い包み紙にくるまれた花束を持って、久石さんの前へ。

「感動しました! ……それと、お誕生日おめでとうございます!」

と言ったはずなのだが、やっぱり舞い上がってしまって、良く覚えていない。とにかく、今年は小泉首相風に挨拶しようとは思っていたのだが… ただ残念なことに、思い切り口が回っていなかったのだけは覚えている……

「ありがとう」

久石さんは優しい口調で私に声をかけてくださり、握手をさせていただいた。前回の2000年のオペラシティのコンサートでも握手をしてもらい、そのときは非常に軽い握手で、ふあっとした感じだったのだが、今回は力が込められてはいなかったものの、大きな手でしっかりと握手をしていただいたような感じがした。

とにかく、手に持ちきれないほどの花束や贈り物を手に、久石さんは満面の笑みで会場に答えていた。今一度、会場に向かって一礼をされた。それに対して会場からはまた大きな拍手が送られる。舞台袖に戻る久石さん。ステージ上には新日本フィルハーモニーの方々と指揮の金さんが残っている。再び久石さんがステージ上に戻ってくる。拍手が一段と強くなる。

すると、金さんが久石さんに何か声をかけていた。声自体は聞こえなかったものの、席が最前列だったため口の動きから推測できた。

金さん「やりますか?」
久石さん「やります!」

こんなやりとりをされていたのだろうと思う。とにかく、アンコール3曲目のようだ。拍手がなっている最中に、サッとピアノの前に座り、拍手が鳴りやむか鳴りやまないかのうちに曲が始まった。

・Madness (encore)
そう、この曲を忘れてはならない。昨年のコンサートでもアンコールで一番最後に演奏された曲目で、久石ファンなら、もう誰もが知っている名曲である。この曲は宮崎駿監督の映画『紅の豚』で使用された曲で、久石さんのソロアルバム『My Lost City』にも収録されている。

『ジャン』と一斉に演奏が始まり、非常にアップテンポな曲だ。小刻みな弦楽器のビートの中からピアノのメロディが流れてくる。アレンジはさほど変わっていない。本当にファンにとってはなじみの曲だ。久石さんは、ジッと目を凝らしながら楽譜に集中している。

そして、曲のラストはもちろん、久石さんの腕が勢い余って後ろに半回転するとともに大音量の『ジャン』で終わった。曲の終わった直後、会場内からこれまた割れんばかりの拍手が起こる。しかし、まだスタンディングオベーションは起こらない。なかなか起こらない。かなりの間、拍手が続いたが、どなたかが席から腰を上げたのをきっかけに、会場内が総立ちとなった。1階席はもちろん、2階席、3階席も席から立っている。オールスタンディングオベーションだ。舞台袖のすぐ上にある2階席に座っている男性の方が、久石さんに向かって手を振っているのが見られた。久石さんは微笑み返されていたようだ。

そんな中、指揮の金さんがまた久石さんに話しかけている。「どうしますか」とでも、言っていたようだが、さすがに久石さんは「もう終わります」と返したようだ。どうも、左手の調子が思わしくないらしい。大阪のシンフォニーホールでは、スペシャルアンコールとして『Friends』が演奏されたようだが、東京会場ではそれは無し。久石さんの誕生日が前日と言うこともあり、密かに『Birthday(※4)』を狙っている方もいらっしゃったようだ。ただ、手の状態が良くないのでは仕方がないだろう。

※4 Birthday
2001年12月にお生まれになった、皇太子様と皇太子妃雅子さまのお子さま、敬宮愛子さまへ向けた曲。フジテレビの特別番組で演奏模様が放映された。

久石さんはステージ中央に立ち、数秒、観客を見据えていた。ラストの公演でオールスタンディングオベーションということもあり、感激もひとしおのようで、間近で見た限りでは少し目が赤くなっているような、そんな気がした。また、汗もかなりかかれていて、熱演の後というのが伺うことができる。そして、また観客席に向かって深々と頭を下げられた。客席からは声援がかかっている。

そうすると、私の隣にいた師匠が感極まって、久石さんに対して周りの拍手に負けないくらいの大きな声で、声をかけた。もちろん、最前列からだ。

「久石さんっ!! 世界一っ!!!」

突然のことで驚いてしまったが、その師匠の声援に対して、笑みを浮かべながら久石さんも拍手に負けじと『ありがとう!!』と大きな声で返事をされた。本当に世界一である。それくらい素晴らしかった。全然、嫌みでも何でもなく、本当にそう思ったから口に出た言葉だろう。それくらい、今回のコンサートが素晴らしかったと私も思うし、会場に来られた方もそう思ってくれただろう。

久石さんは会場から送られている拍手の中、新日本フィルのコンサートマスターの方や、指揮を担当された金さんと笑顔で握手を交わした後、軽く会釈をして舞台袖に戻られていった。その後、新日本フィルハーモニーの方々や、指揮の金さんも会場に向かって一礼をし、それぞれ舞台袖へと戻っていった。ステージ上から全ての人が去っていくまで、拍手は続いた。

久石さんが実際に弾かれていたピアノ。奥にはEVIANのボトルが…

とにかく、コンサートは終わった。コンサート終了後、いつもそうなのだが、自分も何か楽器を演奏できれば素晴らしいだろうなと思った。特に、ピアノは弾けるようになれば格好良いだろうなと思う。格好良いというより、憧れると言った方が正しいかも知れない。

また、この「Super Orchestra Night」では、タイトルにも書いたがホントにスーパーな時間を過ごせたと思う。オーケストラの力強さと、指揮の金さんの力強さ、そしてもちろん、久石さんのピアノの力強さがミックスされ、それがスーパーな感覚を生み出しているのであろう。いや、一つ忘れてしまった。会場にいる観客のパワーを。この4つが揃うことによって今回のコンサートの強さが出てきたのではないだろうか。

今回のコンサートは、全国ツアーだったのでもちろん他の会場でも披露されたのだが、その中でもMCの部分は会場により、若干変わっている部分もあったようだ。大阪のザ・シンフォニーホールでは、2002年春に発売が予定されているアルバム「ENCORE」の話があったようだが、東京ではなかった。逆に東京ではピアノの音量の話があったが、他の会場では無かったようだ。

その辺の微妙な違いもあったようで、このレポート作成も困難を極めた。ただ、東京公演に来られた方に、いろいろ助けていただき、何とか形にすることができた。とにかく、ご協力いただいたみなさんに感謝のひと言である。また、このレポートをご覧になった方々にも、拙文を読んでいただき、感謝申し上げたいと思う。

それでは、次回の機会までとりあえず、ペンを置いておこうと思う。

初校 2001/12/16 18:35 書き上げ
第二校 2001/12/17 21:00 一部修正
第三校 2001/12/24 23:10 一部校正

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