「飾りのない明日」の感想
ヤマハミュージックコミュニケーションズ (2016-03-16)
売り上げランキング: 3,464
…ということで、この間買った熊木杏里さんのニューアルバム「飾りのない明日」の感想を書いてみようと思いますが、関東近郊では結構プロモーションが張られていて、店頭でもポップでPRされているようなんですが、地元の数店舗を眺めてみたんですが、アルバム自体置かれていない…(涙) でも、週間オリコンランキングを見ると、2016年03月28日付ランキングで32位とのこと。個人的にはもっと売れて欲しいところですが、ひとまずは善戦しているのかな。普段、CDレビューはしていないんですが、ちょっとでも売り上げが上がる助けになればと思い、書いてみようと思います。ただ、若干提灯記事になりがちになると思うので、読まれる方はお気を付けて(苦笑)。
まず、全体的な印象ですが、今回のアルバムは熊木さんのいろんな歌声が聴くことができる面白い作品だと思います。ボクは最初に購入したアルバム「無から出た錆」でもいろんな声が聞けるんですが、今回のアルバムは意識的に声を作っているとラジオ番組でおっしゃってました。聴く感じでは、ポップで女の子チックな声だったり、ちょっと強めなボーカルだったり、若干ファルセットがかった優しげな歌声だったり。で、もちろん、いろんな種類の曲があって、「熊木杏里」の曲を幅広く楽しめるアルバムになっているのかなと思います。今回は、最後に収録された「忘れ路の旅人」のみ、長野朝日放送の「見つめて信州生テレビ」で披露された曲で、タイアップでは無いですが、テレビ関係で使われたのはこの曲のみでした。
1.ハルイロ
最初のこの曲、ファンとしてはビックリしました。完全にポップ調のラブソング(苦笑)。声もちょっとラブソングを意識して、ちょっと変えている感じ。売れ筋の曲を意識してトップバッターに据えたという感じで、従来の熊木ファンはビックリする曲だと思いますが、新たなファンを開拓する導入曲と考えると、「なるほどそうきたか!」と思える曲でした。そうそう、「邪なボーダーのTシャツ」という歌詞がすごく気に入ってます。
2.くちびるの魔法
2曲目の曲も、新たなファンを開拓するためのラブソングですが、ちょっと落ち着いたテイストでバラード曲となりました。徐々にいわゆる熊木色を強めていく感じでしょうか。「言葉じゃ作れないのが愛」「数字じゃ言えないのが 愛」っていう歌詞が結構印象に残ります。
3.ライナーノーツ
実はメロディが一番ボクの印象に残っている、気に入っている曲です。メロディラインは何となく、歌い回しが懐かしい感じがして、なぜ懐かしいのかよく分からないところが不可思議でもあり、個人的に非常に印象的に感じるところです。「『挫折』や『夢』という言葉など ただの言葉で」っていう歌詞があって、若い人たちに「これまで生きて来れたから大丈夫だよ」って伝えたくて、「夢」や「挫折」など大きなものに感じるけど、それらに縛られすぎちゃって、あまり気にしないでもう少し気を楽にして生きていっても良いんじゃないかという感じで作ったそうです。ただ、なぜタイトルが「ライナーノーツ」なのかなっていうのか分からなくて… 自分自身のライナーノーツということなのかな。
4.飾りのない明日
アルバム表題曲となった曲は、やはりそれにふさわしい曲です。とは言え、普通のアルバムであれば、パワーのある前向きな曲なところですが、このアルバムではバラードということになりました。熊木さんの場合はアルバム全体のメッセージ・コンセプトから、一番ふさわしいものがこの曲だったんだろうと思います。そもそも、いつもアルバムタイトルの曲があるわけではないですから。にしても、ボク個人としてはバラード大好きなので、「いつもここから 抜け出したいと思っていた/私は何ひとつ 変われずに/ただ 息をしていた」という冒頭の歌詞で、ボクにドストライクでした。デビュー当時は尖った曲が多く、自分自身を見つめるような曲が多くて、そういった熊木さんの世界観が好きになったんですが、この曲も自分を見つめつつ、真っ白な明日に色を付けるため進んで行こうよという前向きな曲だと思います。ヤマハミュージックコミュニケーションズからMVとしてこの曲が流れていますので、改めてYouTubeの動画をご紹介しておきます。
5.白き者へ
この曲は子どもに向けた曲なのかなと思いました。「真っ白なあなた」は何者にも染まっていない子どもということなんでしょう。子どもを見て、ひるがえってこれまで生きてきて「不純物みたいに罪が増える」のを自分に感じて、真っ白なことがちょっとうらやましいと同時に、ちゃんと守って行かなければいけないんだなという、結構深い歌なんだなと感じました。そうそう、この曲は3拍子なのが珍しいなあと思いました。熊木さんの曲って、4拍子ばかりだと思っていたので。それだけ、思い入れのある曲なのかなとも感じます。
6.夏の日
この「夏の日」は、以前、ライブで披露されていた曲だそうです。これは男目線で書かれたラブソング、というより別れ歌ですかね。前に作られた資生堂企業CMソングの「新しい私になって」の対になっている曲なんでしょうか。彼女のことを思い出しながら、「世界が終わってもいい時だった」と感じられたんだけど、別れてしまって、彼女を忘れられずにいて、それでも生きていかなければいけなよねっていう歌詞だけみると、失恋のどん底にいるような男性を歌っているような…(苦笑) にしても、この男の人が「世界が終わってもいい時」ってのが「夏の日」に例えられているんでしょうね。別れ歌なんだけど、結構さわやかな曲に感じられます。
7.幻
この曲は、携帯のファンサイトで実施されていたデモ曲配信で配信されていた曲です。この曲もどちらかというとラブソングですね。「夏の日」もそうですけど、「幻」も熊木さんが結婚する前に作られた曲だと思うんですが、その時の感情とか状況とかが歌詞ににじみ出てきているのかなと勝手に思ってます。ただ、ボクにはハイレベルすぎて、まだちょっと分からない歌です。「幻」って、女の子自身が、相手の男の子が女の子の「幻」を見ていると思っているんじゃないかと感じていることを言っているのか、その逆で女の子が思っていることがなぜか男の子に伝わっちゃうことが「幻」なんじゃないかということを言っているのか、どっちもなのか。なかなか難しい歌詞です。
8.灯び
熊木さんのボーカルと、ピアノだけのシンプルな曲です。ちょっとボーカルにリバーブが入っていて、教会をイメージして、灯っているろうそくの火が「命の灯火」に感じて作った曲だそうです。いろんなものに両面性があり、ある人には助けになることもあれば、傷つけるものになることもあり得る。いろんな見方があるから、「正しいことじゃない話だとしても/夢を聞かせましょう」ということに繋がっていくんでしょうね。
9.今日を壊せ
今回のアルバムの中では、一番パンチの効いた曲ですね。タイトルもキャッチーですからね。毎日が同じわけないんだから、夢を思い描いて、まずは今日をぶっ壊して、少しずつでいいから動きだそう、というもの凄く前向きな曲です。アルバム全体の印象から、若干抑え気味な曲調になってますけど、もしかしたらライブでは結構盛り上がる曲になるんじゃないかなと思います。
10.忘れ路の旅人
アルバム最後の曲は、落ち着いたバラード曲です。先に書きましたけど、テレビ番組の企画で熊木さんの出身地である長野県で自給自足の生活を送られている小谷村を訪れて、物が溢れすぎている都会の生活とのギャップがあって、どちらが良いかどうかはあるけど、都会での生活は溢れすぎていて、いろんなものを忘れてしまうのかなということを感じて作られた曲だそうです。山奥の生活は、あまり便利ではないだろうと思いますけど、自然を感じて生きていけるし、環境が良いから健康的に生きていけるけど、何か緊急事態があれば困る場合もあるし、一長一短なんだろうと思います。
歌詞で一番印象に残っているのは「与えられた幸せに ありがとうが言えない/膨らませた夢の 風船の行き先が分からない」って、身に染みるんですよね。五体満足にこれまで生きてこられて十分幸せなはずなのに、自分自身に満足できなくて幸せに感じられないことを言っているんだろうと思うんですけど、そういった当たり前の幸せを忘れてきてしまっているのを改めて振り返ってみることも大切なことなんでしょうね。
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アルバム全体のサウンドプロデュースは扇谷研人さん。辛島美登里さんや、坂本真綾さん、西野カナさんなどのコンサートやレコーディングに携わっているピアニスト・キーボーディスト・作編曲家さんとのことで、メロディがピアノを軸としていて、非常に心地よいアレンジがされていて、個人的にはすごく好きです。熊木さんの歌声にもピッタリでした。
熊木杏里ファンって、男性ファンが多いんですけど、この作品は是非とも女性の方に聞いて欲しいなと思います。ボクにとっては2作目のアルバム「無から出た錆」を、このアルバムに感じられた結構メッセージ性の高い硬派なものを感じられたんですけど、女性にも聞いてもらえれば、いろいろと感じ取ってもらえるんじゃないかなと思うんです。ヤマハミュージックコミュニケーションズには、中島みゆきさんとか矢井田瞳さんとかがいるので、肩を並べられるくらいになってほしいなと思うし、そのポテンシャルは十分持っているはず。何かの切っ掛けで、顔と名前が売れてくれればなあと感じているところです。
拙い感想で全然良さが伝わらないような気がしますが(汗)、それでも気になった方は店頭で手にとってもらったり、ネットショップで購入して頂ければ嬉しいです。
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