NTTドコモ東北 携帯・自動車電話250万契約突破記念 久石譲with新日本フィルハーモニー スペシャルシンフォニー (Be HISAISHIST!! Volume.6)

昨年(2001年)の暮れにコンサートがありましたが、NTTドコモ東北が久石さんのコンサートを主催するということで、間髪開けずに続けてシンフォニックコンサートが開かれました。今回は東北地方をツアーでも回るということで、郡山市民文化センターで行われたコンサートの模様をお伝えしようと思います!

この公演で演奏された「青少年のためのオーケストラストーリーズ となりのトトロ」はCD化されました。上記画像はアマゾンリンクになってます。

日時2002年3月23日(土) 18時から
会場郡山市民文化センター 大ホール
チケット抽選
出演者久石 譲(ピアノ)
金洪才指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
ソリスト 蒲原史子
コーラス 安積黎明高校合唱部、安積高校合唱部、FCT郡山少年少女合唱団

TOUR SCHEDULE

3月17日(日)岩手岩手県民会館
3月18日(月)山形山形県県民会館
3月20日(水)秋田秋田県民会館
3月21日(木)宮城宮城県民会館
3月23日(土)福島郡山市民文化センター
3月25日(月)青森青森市文化会館
4月2日(火)東京すみだトリフォニーホール
(ドコモ東北ツアー終了後、ほぼ同内容のコンサートを開催した)
手作り感満載のチラシ?
手作り感満載のチラシ?

今回行われるコンサートはNTTドコモ東北の携帯電話契約が250万を突破した記念ということで応募型キャンペーンという形で行われた。そのため、入場料がいっさい無いものの、NTTドコモ東北と契約がない場合、また契約があってもチケットが当たらない場合は、コンサートを鑑賞できないといった特殊な形式のものであった。

私も職場の方に頼んだりと数通応募したのだが見事にはずれてしまった。しかし、様々な方のご厚意により、今回のコンサートの郡山公演に参加することができた。やはりチケットを頂いたからには進んで何かをしなくてはいけないと思い、今回は会場にずいぶん早い時間に入った。なぜかというと、NTTドコモ東北から送られてきた招待券と引き替えにチケットが引き渡されるのだが、どうも前の列から順に渡されるという情報が入っていたため、一番乗りをすれば最前列に座れるのではないかと考えたからだ。ちなみにチケットの引き替えは午後3時からだったが、私が会場入りしたのは午前11時55分頃。もちろん、その時間に観客らしき人影はひとつもなかったのはいうまでもない。

郡山市民文化センター内の大ホール前の椅子に座って待っていたのだが、合唱で参加される安積黎明(あさか・れいめい)高校、安積(あさか)高校、FCT少年少女合唱団の皆さんが私の前を何度か団体で通り過ぎていく。おそらく、私のことを「誰だろう?」と思っていたに違いない。ひとりで待っていた間は、少し肩身の狭い思いを感じていたのは事実だ。

少し経ってから、前回のコンサートでもご一緒した師匠と、ファンの間ではかなり有名なスイートピーさんがいらっしゃった。このお二人はすでに同コンサートの他公演を鑑賞しているため、今回も連続しての参加となる。お二人の話によると今回は、趣向を凝らしたものが観れるということで、私はずっとその内容に頭をめぐらせていた。

談笑をしていると、いつの間にか時間が経っていたのだが、ふと周りを見渡すと他の観客もチラホラ姿を現しはじめた。それでも、どうも郡山会場の出足が鈍いような感じがした。午後2時(引き渡し1時間前)ぐらいも、チケット引き渡しのため待っていた観客は100人にも満たなかった。やはり福島県の県民性なのだろうか。そんな私も福島県民の一人なのだが…

そして、東京方面から駆けつけてきたネットの友人である渋谷さんたちと合流し、一括でチケットを引き替えた。引換券6枚、チケット計12枚という暴挙に… 個人的にはちょっと後ろに並んでいる方々に申し訳ないなという気持ちが多分にあったわけだが、背に腹は替えられず、1階席最前列の真ん中のブロックを全部占拠(?)する形となった。

郡山市民文化センター入口より

大ホール内に入る前に郡山市民文化センターの印象について話そうと思う。私の地元にも同じように「市民文化センター」があるのだが、そちらとは全く比較にならない建物だった。確認は出来ていないのだが、通常、県内の市に建てられている「市民会館」の機能をこの文化センターに持たせている感じだった。私の地元は「市民文化センター」と「市民会館」が別に建てられているため、市民文化センターの方は多少お粗末な作りにならざるを得ないのかも知れない。

エントランスには大きなシャンデリアが迎えてくれる

郡山市民文化センターのエントランスにはいると、天井にはシャンデリアが飾られており、小綺麗な印象を受ける。エントランスから歩き、階段を上ると大ホールと中ホールの間をまたぐスペースがあるのだが、そこには大きなガラス張りの壁が広がっており、デザイン的にもずいぶん凝った作りになっていたし、また陽の光が入ってくるため省エネが施されていた。

大ホール内に入った。大ホールの広さは2000席以上が敷き詰められており、そこそこの広さが感じられた。ホール内は基本的な配置をしていたが、その辺の市民会館より雰囲気は良い方だと思う。

占拠したホール最前列の中央に行くと、ステージの高さにちょっと悩んだ。今までコンサートを鑑賞したホールと較べてしまうと、2客席からステージ床までの高さが20センチほど高い。ちょっと首を持ち上げながらのコンサート鑑賞になってしまう感じだ。コンサートホールというよりも何かの講演会をするために作られたホールだったのだろうか。

最前列からの見た目線で… やっぱり少しステージが高い

音として最前列はあまり良くないのだが、どうも今回のコンサートに限っては最前列が良いらしいということで、チケットをもらうために長い間待った僕は、また久石さんの真正面の席に座らせていただいた。何か申し訳ない。

客席に向かうといつもの事ながら、新日本フィルハーモニーの方々の練習している音色に気持ちが行ってしまうものだ。手元のパンフレットを見ながら、あの曲この曲と思いを巡らせている。

そして忘れてはならないことは、携帯電話の電源を切ることとのど飴を舐めること(笑)。携帯電話はバイブ(マナー)モードにしておけば音が鳴ることはないのだが、演奏中にバイブレーションが起こったときには気が散るだろうから、私は切っておくようにしている。それとのど飴はやはり必須だ。演奏中に咳を我慢するようになるのを防ぐためだ。2度ほどえらい目に遭っているので、個人的には注意しなくてはいけない。

仲間たちと話をしていると会場内に「ジーッ」という、開演を知らせるにはちょっと不釣り合いな、テレビの砂嵐を流しているような音が響いた。いよいよ開演である。

まず、新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんがステージ上に姿を現した。とはいえ、ずいぶんバラバラな入場だった。最初は様子を見ながらステージ両脇からトコトコと入場してくるものだったので、多少違和感を感じたが、やはり全員が揃って席に着くと威風堂々とした感じが見受けられる。今回のコンサートのメンバーは同時期に新日フィルに他のスケジュールも入っていたため、二手に分けたそうだ。そのため、去年(2001年)の12月の「SUPER ORCHESTRA NIGHT」とは若干、顔並みが違っていた。コンサートマスター(※1)も違う方だった。今回のコンサートマスターはメガネに口ひげを蓄えた方で、前回の「SUPER ORCHESTRA NIGHT」では若い方だったが、その方よりは幾分歳をめされているようだ。調べたところによると、今回のコンサートマスターの方は豊嶋泰嗣(とよしま・やすし)さんという方で、非常に評価が高いヴァイオリニストの方だそうだ。後からピアノを学ぶためにアメリカ・ジュリアード音楽院に留学されている祐司さんに、このコンサート中にお話を伺ったところ、今回のコンサートを聴いて、この方の演奏は素晴らしかったとおっしゃっておられた。私はそこまで集中してヴァイオリンの音色を聴いていなかったため気づかなかった…

※1 コンサートマスター
オーケストラの第一バイオリン奏者で、調弦を指示し、合奏を率い、バイオリン独奏部を担当する。練習や演奏会において、指揮者の代行をすることもある。大オーケストラにおいては、複数のコンサートマスターを有している場合が多く、第二バイオリンやビオラ、チェロの首席奏者にも、この名称が与えられることもある。17~19世紀の宮廷楽団においては、ヨハン・マッテゾンが1739年に著した当時の音楽百科事典『完全なる楽長』によると、「器楽音楽の総帥」としてオーケストラ指揮者の機能を有していた。(Lycosディクショナリ・小学館「大日本百科全書」より)

コンサートマスターの豊嶋さんがピアノの鍵盤を弾き、それぞれフィルのメンバーが音あわせに入る。しばらくは様々な楽器の音色が会場内に響くが、程なく会場内の音が消える。それからどのくらい経っただろうか。静まりかえるステージ上に、満を持して音楽家・久石譲が入場してきた。会場から割れんばかりの拍手が起こる。続いて指揮の金洪才(キム・ホンジェ)さんも入場してきた。久石さんは、金さんそして新日本フィルハーモニーのコンサートマスター豊嶋さんと握手を交わし、会場の観客に向かって頭を下げられた。再び盛大な拍手が会場内に巻き起こり、ステージをこだまする。すると、久石さんはさっそくピアノの前に腰を下ろし、楽譜にジッと目をやり、ちょっとした頃合いを見計らって指揮の金さんとコンタクトを取り合い、最初の曲に入っていった。

・Castle in the Skyより… Prologue~Main Theme
この曲は宮崎駿監督作品「天空の城ラピュタ」アメリカ版のサウンドトラックから、初公開の新曲である。

アメリカ版というのも、ディズニーが徳間書店と提携し、スタジオジブリのアニメーションを世界展開させるため、まず「もののけ姫」と「天空の城ラピュタ」をアメリカで公開をしようとしたものなのだ。そのため、アメリカに適するようにラピュタの音楽を、久石さん自身が再アレンジを施した。しかし、「もののけ姫」があまり振るわなかったことと、アメリカ国内のアニメーション映画の興行不振が重なり、アメリカ版「天空の城ラピュタ」は、現在のところお蔵入りになっているのだ。そんな中で、音楽は先駆けての公開となる。

で、トップの曲は、ちょうど映画の冒頭の空中海賊のドーラ一家がタイガーモス号という奇妙奇天烈な乗り物に乗って、ヒロインシータのいる豪華飛行客船を襲う場面からを思い起こしてもらえると良いと思う。

実際の曲の方だが、出だしは全く映画と違う。良く耳を凝らして聞いてみると、映画で聴き慣れたメロディが含まれていたりするのが分かるが、序盤は全く違う曲に感じる。そして途中から、映画でいうところのヒロイン・シータが飛行船から落ちてしまった後に流れるメインテーマ「空から振ってきた少女」の美しいメロディがピアノから流れ出す。美しい。全く美しすぎる。最初の曲で思い切りやられてしまった、そういう感覚があった。思わず涙がこぼれてきそうな、そんな曲だった。

私くらいの年代だと、この「天空の城ラピュタ」という映画作品が好きで、この映画をきっかけに久石さんの音楽も好きになったという方も大勢いらっしゃると思う。私もその一人で、その小学生の時の思い出が蘇ってくるようでもあった。

・Castle in the Skyより… Levitation Crystal
「Levitation Crystal」というのは訳すと『飛行石』のことを言っているようだ。おそらくパズーとシータがドーラ一家に追いかけられるところから二人が地下坑道へ落ちていくシーンに流される部分の新曲ではないだろうかと思う。途中、ドーラ一家と坑夫がケンカをしているシーンに流れる、サントラに収録されているような知っているメロディも流れていた。でもそのような知っているメロディでもアレンジが変わっている。ここ最近の久石さんのオーケストラアレンジは金管楽器なども効果的に使うアレンジが施されており、非常にアレンジがパワーアップし、円熟味が増している。

この曲が終わった後、久石さんが客席の奥の方に向かって、手招きをした。ふと後ろを振り返ると客席がぞろぞろと入場してきて、席に着き始めた。おそらく時間に遅れた客が入場できなかったようだ。にしても遅れた客が多すぎるような感じがする。この最初の2曲とも素晴らしいものだったのに、非常にもったいない。

・Castle in the Skyより… Castle in the Sky
映画のタイトルと同じ名前の曲だ。この曲の場面は、ちょうどパズーとシータがラピュタの中のお墓を見つける場面から流れてくる音楽だと思う。ただ曲の後半が大幅に付け足され、全く違った曲になっている。やはりアメリカで公開することを考えてか、ものすごく張りのある曲だ。特に出だしのピアノの音は素晴らしい。

ちなみに、「天空の城ラピュタ」の英語題が「Castle in the Sky」で、なぜ「LAPUTA」という文字が抜けているのかというと、このlaputaというのはスペイン語ではあまり良くない表現らしいためで(「くろねこ亭」の情報より)、わざわざ外したようだ。

・Castle in the Skyより… A Huge Tree
これを訳すと「大樹」ということになるだろうか。この曲はおそらく天空の城ラピュタの裏のメインテーマといっても過言ではない曲だと思う。ラピュタに降り立ったパズーとシータが、城に広がる巨木を見上げている時に流れてくるメロディを想像していただけると良いだろう。ただ、やはりサウンドトラックとはまた違ったアレンジが施されている。これほどまでラピュタの曲が変わっていると、既成の楽曲と言うより、明らかに新曲と考えざるを得ない。

にしても、本当に全く日本版「天空の城ラピュタ」と曲の感じが違う。特に先ほども述べたが、全体的に金管楽器が効果的に使われている感じがする。久石さんのアレンジも、「ラピュタ」当時を越えて、遥かにパワーアップしているということだろう。早く、このアメリカ版「天空の城ラピュタ」のサウンドトラックが出ることを願うばかりだ。

ラピュタの曲が一通り終わると、ひときわ盛大な拍手が起こった。久石ファン以外の福島県民の方が多く鑑賞されている中、非常に親しまれている「天空の城ラピュタ」からコンサートが始まり、出だしは好調といった感じだ。久石さんも、満面の笑みを浮かべながら、椅子から一旦立ち上がり、客席に向かってお辞儀をされた。その後、また椅子に座りマイクを持ってしゃべりはじめる。

「こんばんは、久石譲です」

最初の挨拶でまた、大きな拍手が起こる。

「昨年、こちらで行われた『うつくしま未来博』のナイトファンタジアという作品をプロデュースして、この福島とはなじみが深く、この郡山から未来博の会場まで何度となく足を運びました。しかし、これまで福島県でコンサートを行ったことが一度もなく、今回の郡山でのコンサートが初めてとなります。一生懸命やりますので、よろしくお願いします」

会場からまた拍手が送られた。福島県民の私としては非常に嬉しいことだった。初めて福島でコンサートをやっていただいている訳なので、感謝の気持ちがある。ただ、あわよくば我が地元の市でやっていただきたかったという希望は無かったわけではないが。

そう、福島ではこのようなコメントがされていたが、他の会場では『アメリカ版・天空の城ラピュタ』についての話が出たようだ。どうやら、今年中に映画が公開されるかあるいはDVD化され発売するらしいということをおっしゃっていたらしい。そういうことは、サウンドトラックの発売も近いということだろうか。

「これまで、私は子供向きのコンサートをやってきませんでした。しかし、今回は大人も子供も楽しめるコンサートを目指しました。たとえば後半は『青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ』と題して、となりのトトロを演奏します。となりのトトロは今まで、コンサートでは一度も演奏されていませんでした。今回が初めてです。これからやるVoicesもまた初めてやるということで、プログラムの4分の3は全てコンサートでは初めてやるものとなります。そういうことで、今回はすごく一生懸命頑張っているぞというのを感じていただければと思います。」

不思議なことに、これまでまともに『となりのトトロ』をコンサートで演奏されたことは無かったのだ。最近では、2000年に行われた「Piano Stories 200 Pf Solo & Quintet」で『風のとおり道』が演奏されたくらいだった。こんなに印象的な曲が多いにもかかわらず、非常にもったいないというか、忘れた頃に戻ってくる何とやらという感じだ。

にしても、「一生懸命頑張っているぞ」というコメントの場面で普通は拍手が起こっても良さそうなのに、拍手が無かった。やはり久石さんも気になったのか、笑いながらちょっとひと言。

「拍手がないな、拍手が(笑)。」

観客もこういったコンサートに不慣れな方も多くいらっしゃるだろうし、拍手をして良いものか分からなかっただろうと思う。久石さんの言葉で、会場から拍手が生まれる。と同時に、ちょっとした笑いも出た。

「すみません、拍手を強要しちゃって…(笑)」

この言葉にも会場から暖かい笑い声が生まれた。

「まず、この後、Voicesということで4曲、ボーカル曲を演奏します。最初に、『For You』という大林宣彦監督の映画『水の旅人』の主題歌で、中山美穂さんが歌った曲です。本人が作詞されたオリジナルからお送りします。

その後、『Le Petit Poucet』です。これは「レ・ペティ・ポウセット」と書いて、「レ・プチ・プセ」と読みます。海外の映画で、ちょっと怖いですが、元々は童話で、ものすごくファンタジックに仕上がっています。私が初めて海外の映画音楽を担当したもので、フランス映画です。日本語のタイトルでは『親指トム』という名前になっているそうで、この映画の公開は今年の秋あたりということです。それにしても結局最後まで、脚本に何か書かれているのか全然分かりませんでした。フランス語ですから…(笑)

そして『The Princess MONONOKE』は、文字通り「もののけ姫」です。そして前半最後の曲は、『Asian Dream Song』。この曲は長野パラリンピックのテーマ曲になっていたものです。」

と、ここまでこれからVoicesということで、ソロのシンフォニックコンサートで初めての試みのヴォーカル曲の説明をしたところだったが(サリン事件チャリティーコンサートでもオーケストラとボーカルが入ったものだったが、これはソロコンサートではない)、久石さん、ステージを見回してひと言…

「さて、それでは合唱団の紹介を…… と、まだ入場していない…」

ラピュタの4曲が終わった直後から、ステージ奥に地元合唱団の方々が舞台袖から移動していたのだが、まだその移動が完了していなかったのだ。

「それでは、私はしばらく凍った振りをしてますから…(笑)」

この場面で話すことを全て話しきってしまったためか、合唱団の入場を静かに待つような形になってしまった。その間中、トコトコとステージ奥では合唱団の方々が入場してくる足跡が聞こえてきた。そして、入場が終わると久石さんは再び話し始められた。

「安積の合唱部のコーラスは一度聴いているんです。私は昨年、『君をのせて』を聴かせていただいて感動しました。全国大会でも何度も入賞されているということで素晴らしい合唱部です。

それでは、Voicesでコーラスを担当していただく合唱団を紹介します。まず、安積黎明(あさか・れいめい)高校合唱部。そして安積(あさか)高校合唱部。もう一つはFCT郡山少年少女合唱隊の皆さんです。」

それぞれの合唱団に会場から拍手が送られる。

「そして今回、ソリストとして参加していただくのはソプラノ歌手の蒲原史子(かまはら・ふみこ)さんです。」

久石さんの紹介と同時に、ソリストの蒲原さんがステージ上に姿を現した。もちろんの事ながら、会場から拍手が送られている。ステージ上ではソリストの蒲原さんが久石さんと、新日本フィルハーモニーのコンサートマスターの豊嶋さんと握手をされた。その後、さっそくスタンバイされて、曲が始まる。

・For You
この曲は大林宣彦監督の映画作品「水の旅人(※2)」のテーマソングで、久石さんの紹介にもあったように中山美穂さんが作詞され、また歌も歌っている。元のタイトルは「あなたになら…」だが、久石さんのソロアルバム「WORKS I」において、今回のタイトルでオーケストラアレンジがなされており、タイトルもそれに合わせたような感じになっている。

曲の冒頭はフルートから入っただろうか、短めの前奏の後、ソリスト蒲原さんのソプラノの歌声が入ってきた。私自身、ソプラノ歌手の方の歌声を生で聴くのは初めてだったのだが、やはりプロの方は声が通る。ただ、やはりオーケストラをバックとなると、さすがにそのままでは声が拾いづらく、マイクが使われていた。ただ、私の席位置だとマイクから通ってきた音が全く聞こえず、生の音が直接響いてきた。最前列の特権というべきか。

※2 水の旅人-侍KIDS-
大林宣彦監督の映画作品。1993年の公開作品。一寸法師のように小さな侍(山崎努)と小さな少年がひょんな事から出会い、様々なことに出会っていくというストーリー。

・Le Petit Poucet
続いての曲は久石さんが初めて海外の映画作品の音楽を担当された映画「Le Petit Poucet(※3)」からで、メインタイトルの曲が披露された。密かにこの曲の歌詞がどうなるのか気になっていたのだが、そのままフランス語で歌われ、コーラスはハミングという形となった。歌詞が全く分からないため、多くの人は半分「何が何やら…」というような感じで聴いていたのかも知れないが、曲自体は良いものだと思う。ただ、この曲のヴォーカルアレンジは、私の印象に強く残っていないのは残念だ。

※3 Le Petit Poucet
フランスの新進気鋭の監督オリビエ・ドーハンの映画を、久石さんが音楽でサポート。フランスの伝統的な童話をモチーフとした映画だそうだ。日本での映画公開は2002年秋頃の予定。主題歌はベネッサ・パラディが美声を響かせている。サントラは現在フランス版が出ており、HMVなどから輸入盤として購入することができる。

・The Princess Mononoke
おなじみ宮崎駿監督映画作品「もののけ姫」からのテーマ曲。「千と千尋の神隠し」同様、日本全国の方にすでに親しまれている映画のため、このテーマ曲を知らない人はほとんどいないはずだ。

この曲は非常に素晴らしかった。何と言ってもコーラスが入ってくると非常に綺麗に感じる。今回のコーラスは全国でもトップの内のひとつに入るほどの安積黎明(元・安積女子)高校も入っているので、非常に上手い。上手い歌声に、上手いアレンジと来れば感動しないはずがない。恥ずかしながら、ちょっと目頭が熱くなってしまった。そのくらい良い曲だった。おそらく、この曲自体がコーラスに非常に合っているのだと思う。短めの味のある歌詞、複雑ではないけれど抑揚のついたメロディ。こういう要素があったからこそ、より素晴らしい曲に感じられたのではないだろうか。

・Asian Dream Song
この曲は1998年の長野パラリンピックのテーマソングで、The BOOMの宮沢和史さんをヴォーカルに迎えての曲だ。NHKのパラリンピック番組で連日流れていたため、ご記憶の方もいらっしゃるかも知れない。また、1999年の日本テレビ『24時間テレビ』で障害者の方たちがオーケストラを組んで演奏した曲でもある。こちらの演奏も非常に感動的で、素晴らしいものだった。

そして今回は、新日フィルと地元合唱団、ソリストという形態での演奏だが、この曲も元々が良いため、非常に好印象だった。基本的な曲の骨格部分は『24時間テレビ』の時のアレンジだったようだが、オーケストラの音色はもちろんのこと、この曲はコーラスもずいぶん全面に出ていたような感じがした。印象に残っているのがコーラスの男性パート。いわゆるバスなのだが、非常にいい感じを受けた。ただ、メロディのリズムがいつもと違うのが、少し気になった。


今回のVoicesは、これまでの久石さんのコンサートにはほとんど観れなかった試みだった。この部分は本当に個人的な感想になってしまうが、楽曲によってコーラスが合う曲と合わない曲があるのではないだろうかと感じた。「The Princess MONONOKE」や「Asian Dream Song」などは素晴らしいコーラスを響かせてくれるが、「For You」や「Le Petit Poucet」はヴォーカルやコーラスがあるよりも、オーケストラで聴かせてもらいたかったという思いが強い。オーケストラとヴォーカル、コーラスが混ざると、そのバランスが非常に微妙なものになってくる。これはレコーディングの場合であれば後から調整が効くものの、生の場合は一発勝負であり、特に音量の調整などで、曲のアレンジの時にオーケストラの音量は絞られてしまうだろう。その辺が少し残念に思えてしまう要因である。

ただ、今回のソリストの蒲原さんは、オペラ界などでの話は私はさっぱり分からないが、普通の一般人にとってはさほど知名度の高くない方だと思う。もしソリストが人気のある歌手などだった場合は、また曲の印象も変わったかも知れない。

とにかくこれにてコンサートの前半は終了。つかの間の休憩に入ることになる。それにしてもいつものことながら、コンサート中の時間は本当に早く過ぎ去ってしまう。ふと演奏中にそれが口惜しい気持ちがよぎるが、それでこそコンサートの価値があるというものなのかも知れない。前半の曲目を思い起こしながら、周りに座っている友人たちと歓談していたのだが、周りの観客から「Le Petit Poucet」の話や、今回の曲目のことがチラホラ聞こえてきて、前半の会場の感じは良好というのが伝わってきた。

休憩時間があっという間に過ぎて、いよいよ「ジー」というブザーとともに後半を迎える。

ふとステージ上にはピアノのチェアの脇に、譜面台とマイクが設置されていた。何が起こるのかサッパリ見当がつかない。歌を歌うにしては譜面台の位置がピアノからずいぶん離れた位置にある。ああだこうだと想いを巡らせる最中、新日本フィルハーモニー交響楽団の方々が入場され、音あわせをされていた。

まもなく久石さんが登場する。もちろん、会場から盛大な拍手が送られたのは言うまでもない。まず久石さんがマイクを持たれた。

「これから演奏するのは、青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ「となりのトトロ」です。演奏する前に演奏者を紹介します。指揮、金洪才……」

久石さんが、指揮の金さんに続き、新日本フィルハーモニー交響楽団を紹介しようとする直前に、会場から拍手が起こってしまった。久石さんが何かを言いかけていたのを感じ取り、観客からの拍手はすぐにしぼんだ。

「演奏、新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんです!」

ここで改めて拍手が指揮の金さんと、新日本フィルハーモニー交響楽団のみなさんに送られた。

「あの名作を、音楽で楽しんでください!」

・青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ 「となりのトトロ」
~さんぽ~
なぜ、久石さんのピアノのとなりにマイクがあったのか、この曲を聴くことによって分かった。まず曲の冒頭は各オーケストラの楽器紹介から始まったのだが、曲中などに久石さん自身がそれぞれナレーションを入れていったのだった。曲中に久石さんがしゃべるというのは初めての試みで、非常に面白い。すみだトリフォニーホールでは久石さんではなく、元米米CLUBの石井竜也さんが務めたが、久石さんが演奏しながらナレーションをするというのも、かなりファンとしては楽しめる要素でもある。

「物語を始める前にオーケストラの楽器を紹介します。まずは木管楽器。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットです」

それぞれの綺麗な音色が「さんぽ」のリズムに乗って響いてきます。以下の楽器紹介も同じように進んでいきます。

「次は金管楽器を紹介します。ホルン、トロンボーン、トランペット、チューバです」

太く力強い音色や、あるいは地を渡るような低い音色で、同じように「さんぽ」のメロディーが流れていきます。

「オーケストラの中で最も人数が多いのは弦楽器です。ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスを紹介します」

久石さんの曲で、メインを飾っているのは何といっても弦楽器だ。やはりそれだけあって、弦だけの編曲も非常に上手いし、また新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんも、本当に綺麗な音色を響かせてくれる。

「オーケストラを彩る様々な楽器の中で、その中心になるのが打楽器です。壮大なクライマックスに向かうときは欠かせません。そして華麗なハープ、ピアノ、チェレスタは様々な色彩をオーケストラに与えます」

それぞれの楽器で「さんぽ」のメロディーが流れる。特に打楽器ティンパニでの「さんぽ」は面白かった。打楽器でメロディを操るというのはあまり見かけないので、少し驚いた。

「最後に言い忘れました。弦楽器のピチカートも大きな魅力のひとつです」

ピチカートというのは、ヴァイオリンなどの弦楽器を弓で弾いて音を出すのではなく、指ではじいて短い音を出すことを言うのだが、案外大きな音が出るものである。

「これで全ての楽器が出そろいました。それでは全員で!

ここで、オーケストラ揃っての演奏となる。またサントラと違って、井上あずみさんのヴォーカルが入らず、オーケストラの迫力で曲を持っていくところが非常に良い。この曲が普通に終わると、会場内から拍手が起こった。ただ、演出的にいわゆる「トトロ組曲」中は拍手無しで、ずっと続けての演奏を考えられているようだった。拍手はそこそこに久石さんのナレーションが続く。

~五月の村~
「それでは物語を始めましょう。お父さんとメイとサツキはのどかな村へと引っ越してきました」

ちょうど、三輪車で3人がオンボロ屋敷に引っ越してくる場面での曲だろうか。のどかななのだが、非常に明るく、元気の出る曲だ。曲が終わった後も拍手が起こったが、やはりここでもそこそこで拍手がやみ、久石さんのナレーションが入る。

~ススワタリ~お母さん~
「新しい家は原っぱの中のオンボロ一軒家。さっそく二人の探検は始まりました」

この曲はサントラで言うと「オバケやしき!」だろうか。弦楽器のピチカートで曲が進みはじめる。

「どうやらこの家はお化け屋敷のようです」

この辺は「メイとすすわたり」あたりの曲から来ているようだ。ただ、オーケストラへのアレンジが大幅に施されており、元の曲がよく分からない。

「暗がりに何かいます。黒くて小さくてトゲトゲしたもの。マックロクロスケです!」

こんな曲、映画で流れていただろうかというような感じで聴いていたのが頭に残っている。サントラで聴き返すと、部分部分で似たようなフレーズが入っている曲が確かにあった。でもどこがどうなっているのかサッパリ分からない。

「サツキとメイはこの古い変な家が好きになりました。二人のお母さんは病院にいます。寂しい。でも二人は元気です。でも、一緒にいたい」

ここはサントラ「おかあさん」の曲がちょっと入ってきた。バイオリンで「おかあさん」のメロディーを弾かれると、心に衝撃が走るような、そんな感じがする。

~トトロがいた!~
「ある日、庭で遊んでいたメイは小さなオバケを見つけました。メイは必死になってそのオバケを追いかけます」

ちょうど、映画でメイが子トトロと追いかけっこをしている場面で流れる曲だ。サントラで言うと「小さなオバケ」だろうか。でも、感じとしてはこのサントラの曲とは全然違うような曲のような感じがしたような、しないような、ちょっと微妙な感じだ。

「小さなオバケを追いかけていたメイは、大きな木の根元のほらあなに落ちてしまいました。ふしぎな世界。そこにいたのは大きなオバケ、トトロでした。メイはトトロのおなかの上で一緒に寝てしまいました。」

~風のとおり道~
となりのトトロの影の主題曲だと久石さんが公言している「風のとおり道」が始まった。やはりピアノの音色でこの曲が響くと懐かしい気持ちになる。この曲は、東京オペラシティで行われたコンサートでも好演されており、また先日も東京FM「LIVE DEPOT」という番組で大江千里さんとのピアノのセッションで共演されているが、シンフォニックコンサートで披露されるのは初めてか、あるいはかなり久しぶりということになるのではないだろうか。

~まいご~
「おかあさんが帰ってこない。おかあさんへ食べさせようと、トウモロコシを持って立ちつくすメイ。病院に向かって走り出しました。その途中、メイは迷子になってしまいました」

この曲はサントラでは井上あずみさんのヴォーカルが入っているが、もちろん今回はオーケストラでの演奏。このコンサート前に、ある程度の曲目は分かっていたのだが、僕を含めた多くの方は、このとなりのトトロで、ヴォーカルが入ったりコーラスが入ったりするのではないだろうかと思われたのではなかろうか。『さんぽ』『となりのトトロ』『まいご』などはヴォーカル曲としても聴き応えのある曲だろうが、その部分を良い意味で裏切られたという感じだ。おそらくだが、子供たちに純粋にオーケストラを楽しんでほしいという久石さんの演出意図があったのではないだろうかと考えることもできる。

「サツキはトトロに会い、メイを探すのを頼みに行きました。するとトトロは答えました」

金管楽器の低い音、ホルン、トロンボーン、チューバあたりの音で、トトロの声を再現していた。映画のトトロの声にかなり似ていて、少し驚いてしまったのを覚えている。

「ねこバスがやってきました、サツキを乗せたねこバスは走り出しました!」

~ねこバス~
久石さんのナレーションの最後とオーケストラの演奏が少しかぶってしまい、何を言っているのかよく分からなかったが、アップテンポの曲が始まった。オーケストラにしたこの曲も軽快で非常に楽しい。しかも迫力がプラスされている。

「メイを探しだし、メイとサツキは抱き合いました。その後、ねこバスはおかあさんのいる病院へと走りはじめました」

~となりのトトロ~
「病室ではおとうさんとおかあさんが笑いながら話しています。ふたりは窓辺にトウモロコシを置いて帰っていきました」

本邦初公開の『となりのトトロ』は、やはりこれもサントラのヴォーカル曲と同様、軽快なメロディに乗り、オーケストラ全快で楽しげに曲が進んでいくが、場所によってしっとりとした雰囲気へと変わって行き、ピアノをフューチャーした部分も出てくる。全体的には力強く楽しい曲だった。ラストは「バーン」という感じでオーケストラが綺麗に揃って曲を終えた。

会場から拍手が起こる。トトロ組曲として8曲が続けざまに演奏されたが、この曲はどうやらCD化が検討(※)されているということで、実現されればかなり面白いものになるのではないだろうかと期待できる。(※既にCD化されてますね!)

拍手が一段落した後、久石さんはしゃべりはじめられた。

「ピアノを弾いているだけでもしんどいのに、ナレーションなんかやるともっと大変なものが世の中にあるんだということを思い知らされました(笑)」

会場から暖かい拍手と微笑みが送られる。確かにピアノを弾き終わって、椅子から半身回転させてマイクの方に向きナレーションを行い、それが終わったらすぐにピアノに向き直って演奏をし始めるという芸当は、観客から見ても大変だろうと思われた。またしゃべりはじめるタイミングを間違うと演奏とかぶってしまうし、また言葉をかんでしまったりするとこれまた演奏との兼ね合いが悪くなってしまう。非常に神経の使う組曲だったのではないだろうか。

「今月の6日に『ENCORE』というピアノのソロアルバムを発売しました。いつも弦を入れたりしていたんですが、ホントにピアノだけのものを14年ぶりに出しました。去年まで映画の監督だとかいろいろ幅を広げすぎたので、原点に戻ろうということで作ったものです。確か、ロビーでも売っているということですので…(笑)」

会場から笑い声と拍手が起こる。確かにロビーにもちゃんとCDと楽譜が置かれていた。この久しぶりのピアノソロアルバムは非常にいい曲ばかりで、いろんな方に買っていただきたい名盤だ。また今年中にこの『ENCORE』と対になったピアノソロアルバム『Piano Stories IV』も制作される予定だということで非常に楽しみである。

「その中から… えー、この後のプログラム少し変わりました。「Last Summer」を。この曲は『千と千尋の神隠し』の冒頭に使われた曲です。それから「HANA-BI」、この2曲。両方とも『ENCORE』にも入っています。しかし今日はオーケストラと一緒なので、一緒に演奏します。

それから3曲目に「Quartet」という映画のメインテーマ。これは先ほども言いました、映画の初監督作品の曲です。この映画のオーケストラシーンなんかも、新日本フィルハーモニー交響楽団のみなさん、それから金先生も一緒に出て頂いてます。よく考えると、新日本フィルハーモニー交響楽団は、私が共演した初めてオーケストラであり、指揮の金さんとも一番はじめに共演した方で、今回のメンバーは本当に大好きな素晴らしいオーケストラであり、尊敬している指揮者です。改めてこのメンバーに拍手をいただきたいと思います」

会場からフィルのメンバーと指揮の金洪才さんに拍手が送られる。

「そして、最後の曲になります「Kids Return」、以上4曲を聴いていただきたいと思います」

にしても、久石さんは「Last Summer」とおっしゃっていた『千と千尋の神隠し』の曲だが、これは「One Summer’s Day」なのではないだろうかなとちょっと首を傾げてしまった。もしかすると他の曲のタイトルとごちゃごちゃになってしまったのだろうか。あるいは改題したのか。その辺は分からない。

・One Summer’s Day(あの夏へ)
久石さんの紹介にもあったとおり、ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲った宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』の冒頭に流れる、ピアノのメロディが綺麗な曲だ。前回のコンサート「SUPER ORCHESTRA NIGHT」でも演奏されたもので、アレンジはその時とさほど変わりがなかったが、ちょっと短めにアレンジされており、途中から曲調がアップテンポに変わるところはカットされていた。

・HANA-BI
北野武監督作品「HANA-BI」からのメインテーマ。この映画はヴェネチア国際映画祭のグランプリ金獅子賞を受賞しており、曲をどこかで耳にしている方も多いのではないかと思う。最初は静かでゆったりとした感じなのだが、徐々にメロディに力が入ってきて、サビの部分だと迫力満点の曲に変貌する。最近、良く思うことだが、この曲に限らず、一度映画などで作られた曲をアレンジしてコンサートなどで演奏されるたびに、なぜか曲のテンポが速くなってきているような気がするのは気のせいだろうか。この「HANA-BI」もサビの部分は非常にテンポが速くなっており、その分だけ、演奏するのに難易度が上がってくるのではなかろうかと思うのだが…

・Quartet Main Theme
久石譲初映画監督作品「Quartet」からメインテーマだ。元々サントラでは、映画自体が弦楽四重奏の内容を扱ったもののため、この曲は弦楽四重奏(※4)、まさにカルテットの曲になっているが、今回はオーケストラで演奏される。この曲も前回のコンサート「SUPER ORCHESTRA NIGHT」で好演された。出だしはまさに弦楽器でカルテットを組む出だしから、ピアノの音色が入ってくるスタイルになっている。にしても、弦楽器だけの演奏からオーケストラへと移り変わるだけでこれだけ曲の印象が変わるものなのだろうか。サントラでのバラネスクカルテットの演奏も本当に素晴らしいが、オーケストラアレンジされた新日フィルの演奏も素晴らしい。

※4 弦楽四重奏
第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロの4つの弦楽器による演奏形態のことを言う。さまざまな室内楽編成のなかでももっとも調和のとれた響きと豊かな表現力を備えており、余計な要素を削ぎ落とした音楽の一種の完成型でもある。(参考:Lycosディクショナリ・小学館「大日本百科全書」より)

・Kids Return
北野武監督作品「Kids Return」のメインテーマ。この曲も「SUPER ORCHESTRA NIGHT」でトリを飾った曲だ。「SUPER ORCHESTRA NIGHT」で初めてオーケストラアレンジされたこの曲は非常に好評を博し、当初今回のドコモ東北コンサートでは演目に入っていなかったが、急遽追加されたようだ。本当にこの曲は素晴らしい。非常にビート感の聴いた曲で、サビの部分の、弦楽器を中心とした壮大な音量は最後にふさわしいと言っても過言ではない曲だ。弦楽器と金管楽器、木管楽器のバランスも素晴らしく、おそらく、この曲はこれからのシンフォニックコンサートでは定番になる曲ではないだろうか。そして、曲のラストは大音量で「ジャーン!!」と会場内をオケの音色が響き渡る。


もちろん、それぞれの曲に拍手が送られたことは言うまでもない。この後、久石さんは舞台袖とステージを何度か行き来していたが、その間、会場からの拍手は途切れることはなかった。

そして、最前列を占拠してしまった僕らの中で花束を用意していた方が久石さんに花束を贈った。大きな花束を渡してひと言伝えた方や、時間がなくて造花を渡された方や…(笑) ちなみに私は今回は渡さなかった。地方だから花束を渡す方が少ないだろうと思ってしまい、少し恥ずかしさが先行してしまったからだ。ただ、傍目から見ているとやはり羨ましい。

久石さんが花束を全て受け取った後、最後に受け取った花束を頭上に掲げ、会場に答えていた。拍手がまたまた強く鳴り響く。そして、久石さんがピアノの前に座ると、その拍手もボリュームを下げていった。

静かな時間。いよいよアンコールである。久石さんはピアノの前で、目をつぶり集中されている。ステージ上のライトも落ち、久石さんとピアノにスポットライトがあたる。いよいよだ……

と思いきや… 会場の奥の方から携帯電話の呼び出しの着メロがなり始めた。久石さんがその音に気づき、渋い顔をしながら会場の方を向く。会場内、全く静かな雰囲気になっていたので、非常に目立つ。会場から笑い声が漏れる。久石さんの曲の着メロだったら良かったのかも知れないが、流れていたのは確か浜崎あゆみさんの楽曲だったと思う。

そして、その着メロを止めようと必死にボタンを押す「ピッ、ピッ!」という音も会場内に響くものだから、会場内は大爆笑である。たまらず久石さんがマイクを持ってひと言。

「ドコモの携帯電話は電源を切りましょう!(笑)」

このひと言に会場内は大ウケで、拍手が起こった。私は見逃してしまったが、久石さんは「決まった!」と思ったのか、小さくガッツポーズをしていたようだ。ただ、この着メロを鳴らした携帯電話、ドコモの携帯だったのかどうかが気になるところだ(笑)。にしてもアンコール前のちょっとしたアクシデントを笑いに変えてしまったが、やはりコンサート中は、携帯電話の電源を切るか、少なくてもマナーモードにはしていただきたいと思う。

一段落した後、改めてアンコールが始まる。

・Summer
北野武監督作品「菊次郎の夏」のメインテーマを、ピアノソロにアレンジした曲で、ソロアルバム『ENCORE』の1曲目に収録されている曲である。この曲は、このコンサートの直前に2回ほどテレビの生番組に久石さんが出演された際に演奏されていたのだが、かなり弾き間違いがあり、少し心配していた曲だった。しかし今回の演奏は大きなミスも無く、綺麗に弾かれていた。ところがこの曲の途中、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスター豊嶋さんが、口にハンカチを押さえながら咳をしているのを見逃さなかった(笑)。ふと、近いところから咳の音が聞こえるなと感じていたが、まさかステージ上からというのは思いも寄らなかった。豊嶋さんも「しまった」というような表情をちょっとされていたようだ。演奏者の方にのど飴を忘れずに、と言ったところであまり意味が無いかも知れないが…

にしても、曲を良く聴いてみると『ENCORE』とは若干、アレンジが微妙に変わったりしているところもあったりするのだ。特に曲のラストの部分などは、CDでは音を綺麗に伸ばしているが、今回のコンサートでは「ジャラジャラジャラジャラ~」という弾き方(名称が分からない)をされていた。

・魔女の宅急便
宮崎駿監督「魔女の宅急便」からの曲だ。話を聞くところによると、いろんな曲が混ざっていたようだ。てっきり「海の見える街」だと思っていたが、全くそうではなかったようだ。サントラだと「旅立ち」のようだが、久石さんのソロアルバム「Symphonic Best Selection」にもオーケストラの曲として収録されており、どちらかというとそちらの方だと言った方が良いのかも知れない。

・MADNESS
宮崎駿監督「紅の豚」からの挿入曲だ。元々はソロアルバム「My Lost City」に収録されていた曲だが、宮崎監督が気に入り、「紅の豚」にも使ってしまったというエピソードの曲で、久石さんお気に入りの1曲だ。この曲は、コンサートで欠かしたことは一度も無いだろうと思う。この曲も「Kids Return」同様、力強い曲で、「ジャーン!」という音とともに曲が始まり、「ジャーン!」という音とともに曲が終わる名曲だ。


「MADNESS」が終わり、最前列を占めていた私たちはスタンディングオベーションをしていたのだが、その後ろの多くの観客の皆さんはどうだったかはよく分からない。2人ほど立っていらっしゃったのは見えたのだが、ほとんどの方は座りながらの拍手だったと思う。地方では仕方がないのかも知れない。特に福島県人はシャイな面があり、また今回のコンサートは抽選ということもあって熱烈なファンが来ているというわけでもなく、スタンディングしての反応はあまりみられなかった。

久石さんはまた舞台袖を何度か行き来された後、最後に客席に向かって深くお辞儀をされた後、コンサートは終演した。しかし、私たちのコンサートはまだ終わってはいなかった。最後に、久石さんを出待ちするというのが残っていたのだ。

ちょっと市民文化センター内を彷徨い、外に出るのに手間取っていたが、文化センターの裏口に回ると、すでにタクシーやハイヤーが用意されていた。僕らが着いた直後に、久石さんは黒い服装に黒い帽子をして出てこられた。出待ちをするということで、とりあえず色紙とマジックを用意していたのだが、マネージャーの方が「ゴメンなさい! 電車の時間があるので…」ということで、サインはお預けになってしまった。

裏口から出てくる久石さんの姿が… (Photo by Tomoin Shibuya)

しかし、久石さんが「握手しよう、握手!」ということで、みんなに握手をしてくれた。乗り遅れそうになった私だが、何とか握手をしていただいた。「頑張って下さい! ありがとうございます!」と、何か訳が分からなくなって、いつもの事ながらろれつが回らなくなっていたのをまた覚えているが、しっかりと握手をしていただいた。それだけでも本当に嬉しかった。サインは次回に持ち越そうと思う。いつか、直接サインをもらおう!!

そうそう、ひとつ残念だったのが指揮の金洪才さんがいるのに気づいていたのに、サインをもらいに行けなかったこと… 指揮の金さん、あまり目立っていなかったので、他の方が全く気づかなかったらしい。そう、なぜか知らないが金さんの後ろ姿と、私の後ろ姿が似ているらしい。私自身もちょっと似ているなと思ったりしている。そんなことは余談だが…

………………

コンサートの直後、郡山に宿泊するファン仲間とともに飲み屋へ。いろんな話題で盛り上がっていましたが、このコンサートの後にアメリカのジュリアード音楽院にピアノ修行ということで留学される祐司さんに送る曲ということで、飲み屋備え付けのカラオケで、少し歌ってきました。「もののけ姫」… 声が出なくて歌えず… 何か送る曲を探して、徳永英明の「夢を信じて」を歌いました。祐司さんに送った色紙にも『夢』と一文字だけ書いたので、ちょうど合っているかなあと思っての選曲。この曲、実をいうと『ドラゴンクエスト』つながりの曲で、アニメ・ドラゴンクエストの主題歌になっていたから分かっていたくらいで、曲自体が流行っていたのか、いなかったのかは全然知りませんでした。話を聞くと、そこそこのヒット曲だったらしく、ちょっと驚いてしまいました。誰も知らないかなあと思っていたからなおさら。そういえば、もんぐさんが歌っていたあの戦隊モノの曲は何だったのでしょうか… タイトルはすでに忘れてしまったけど、あれは本当に面白かったです。歌詞を上手く変えていたし…

飲み屋から出た後、ホテルで朝までいろいろしゃべって(みんな、同じホテルに予約を取ったため)、結局睡眠時間は3~4時間かな? みんな、朝はテンションが低かったのが印象的。特に夜、テンションが高かった人が揃ってテンションが低かったので面白かった(笑)。

次の日は郡山見物という予定だったが、去年(2001年)の夏のうつくしまナイトファンタジアを似たメンバーで来ており、その時に見物はすでに終わらせていたので、行くところがない。郡山周辺は多少百貨店とかのお買い物スポットはあるんですが、あとは何もないんですよ。そのため、ちょっと開成山公園の様子を見た後、ボウリング場で、ボーリングとビリヤードをやってきました。結果は… ご想像にお任せしましょう。

………………

そんな感じで、今回のドコモ東北「久石譲with新日本フィルハーモニー交響楽団スペシャルシンフォニー」は幕を閉じる。にしても、郡山は本当に寒かったが、コンサートは逆に暖かかったのが印象的だった。また、同じようなコンサートをやっていただきたいと切に願って、レポートを締めようと思う。

初校 2002/04/07 22:25 書き上げ

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