王宮のピッコロトランペット
ステージ上に神奈川フィルハーモニー管弦楽団のメンバーが現れました。会場から拍手が送られます。それに続いて今回のゲストコンサートマスターである深山尚久さんが入場されました。引き続き拍手が送られます。深山さんが会場に向かって一礼をし、振り返ってチューニングが始まります。すると会場の拍手が止み、徐々にホール内の照明がステージ上だけを残して暗くなっていきます。深山さんはオーボエ奏者に音を出す指示を出し、その音に他の奏者が合わせていくような形になります。ひと通りチューニングが終わると、ちょっとした静かな一瞬が訪れます。
すると時期が満ちたのを確認してから、すぎやまさんが登場されました。より一層強い拍手が会場を包みます。すぎやまさんは会場のいろんな方向に向かって笑顔で会釈をされると指揮台に挙がり、譜面台に置かれてあったタクトを手にして、いつもの最初の曲が始まります。
・序曲のマーチ Overture
トランペットの勇壮なファンファーレから曲が始まりましたが、このファンファーレ、すごくしびれました。ものすごく音に張りや艶があって、身体に音が迫ってくるような感じでした。開演前に聴いたところだと、前回のコンサートと較べて1人トランペット奏者が増えたということで、より一層トランペットの厚みが増した形で、本当にググッと来ました。本当にカッコ良かった! 今回の序曲のマーチを聴いて、改めて思ったんですが、僕個人の感想としてはこの「V」の序曲のマーチが、シリーズ通しての序曲の中で一番良いなあと感じました。マーチだから特に力強くなっているし、本当に心が躍り行進し出したくなるような気持ちになります。
そんな形で、最初の曲が気持ちよく演奏されていたんですが、この演奏で「今日は本当に楽しめそうだ」という気持ちになりました。最初良ければ全て良しとよく言いますけど、僕にはそんな予感がしました。いや、予感というより確信に近いような感覚でしょうか。
そういえば、この曲のラストの部分なんですが、CDに入っているバージョンと若干アレンジが変わっていたような気がするんですが、気のせいでしょうか。曲の最後で少し吹き上がるような感じになっていて、それがまたちょっぴり雄大さを醸し出していたように思います。
序曲のマーチが終わり、盛大な拍手が送られます。するとすぎやまさんはマイクを持たれて開口一番「ようこそいらっしゃいました〜」としゃべり始められました。神奈川フィルハーモニー管弦楽団のみなさんや、今回のゲストコンサートマスターの深山尚久さんの紹介をされていました。深山さんは「交響曲イデオン」の時のコンサートマスターだったそうで、現在(2003年)から数えて22年前(1981年の出来事だそうです)、当時大学生だった深山さんは「紅顔の美少年だった」そうです。「だった」ってのがちょっとネックかも知れませんが(笑)、すぎやまさんと深山さんはそれから長いつきあいをされているんだとか。
その後、次に演奏される曲の紹介がありました。続いては「ドラゴンクエスト・モンスターズ」シリーズの曲が3曲演奏されるということで、モンスターズを遊んだことのある方もいるだろうけれども、もしかしたらまだ遊んだことがない方は、ドラゴンクエストの形を踏まえて曲を作っているので、こんな曲もあるんだなというのを感じながら聴いてみてくださいといったことをおっしゃってました。
実は僕もモンスターズは全く遊んだことがないし、音楽も聴いたことがなかったので、どんな感じなのかなあと心待ちにしていました。そのモンスターズの曲がこれから3曲続けて演奏されます。・天空の世界 (ドラゴンクエスト・モンスターズ 2より) 本邦初演
オーボエとハープの音色が印象的な楽曲でした。ハープがバックでなめらかに、そして流れるような音色を醸し出す一方、オーボエがメインメロディを吹いていくといった形でした。ゲーム上ではおそらくフィールドに流れる曲だと思いますが、天空をイメージして、静かに流れるような感じなのですが、でも、ちょっぴり寂しげなそんな曲だったように思います。
ふと、よく考えてみると、このドラゴンクエスト・モンスターズシリーズの楽曲は、次に演奏される「テリーの世界」を除いてこれまで演奏されたことが無いんですよね。この日いらっしゃった2,000人の観客は貴重な体験をしたということになりますね。・テリーの世界 (ドラゴンクエスト・モンスターズ 1より)
「天空の世界」とは一転して、明るい曲が流れてきました。クラリネットが楽しげな音色と弦楽器のピチカートがものすごく印象に残っています。のどかで、そこら中を飛び回っている少年テリーの様子が目に思い浮かぶようです。ちなみにこの曲は1999年の名古屋のコンサートでアンコール曲として演奏されたことがあるようですね。・追憶の旅路 (ドラゴンクエスト・モンスターズ キャラバンハートより) 本邦初演
「キャラバンハートではドラゴンクエストIIの曲が多く使われています。そのイメージの統一を考えて作曲しました」とコンサートのパンフレットには書かれていました。そんなことを頭に入れながら曲を聴いていたんですが、この「追憶の旅路」の曲の出だしがこの道わが旅と雰囲気が似ていたように感じます。そんな曲を、オーケストラのみなさんが朗々と歌い上げていました。
この曲は「ドラゴンクエスト・モンスターズ キャラバンハート」のエンディングに使われている曲だそうで、この曲も本邦初演となる曲でした。ただ、僕自身、はじめて聴いた曲で、もう記憶から無くなってしまっており、ちょっと残念だなあという感じです。モンスターズシリーズの曲についても、これからオーケストラにアレンジして演奏していってもらいたいなあと個人的に思ってます。
3曲の演奏が終わって、会場から拍手が起こります。「ありがとう」とすぎやまさんは会場に答えつつ、次の演奏の説明をしていきます。
次の最初に演奏される「王宮のトランペット」では、バロック音楽の語法、文法で曲が作られているんですが、そのバロック音楽の雰囲気を出すためにピッコロトランペットを使って演奏するということをおっしゃってました。何とも、トランペットよりも高くて柔らかい音色を表現できるらしいです。トランペット奏者の方が手にされているピッコロトランペットを頭上に掲げて観客に見せてもらえたんですが、トランペットよりも若干小さめでコンパクトにまとまっている楽器でした。
この話の後、王宮のトランペットと街角のメロディから続くメドレーとの2曲が演奏されました。・王宮のトランペット Castle Trumpeter
曲の冒頭からピッコロトランペットの音色が響いてきました。おそらく過去のCDに収録されたもの(1992年にリリースされたNHK交響楽団が演奏されたものや、2000年にリリースされたロンドンフィルハーモニー管弦楽団が演奏されたもの)と音色が変わっていなかったように思うので、以前からこの「王宮のトランペット」にはピッコロトランペットが使われていたんだろうなあと素人ながら思いました。もしかしたら違うかも知れませんが…(汗)
それにしても、ピッコロトランペットと弦楽器との兼ね合いは非常に綺麗です。互いの音色が、互いにそれぞれこだましているような感じで王宮の広さと勇壮さを醸し出していました。それに、特にピッコロトランペットの音色が非常に素晴らしかったです。澄んだ音色で、ホールの一番奥までも綺麗に響いていたと思います。・街角のメロディ〜地平の彼方へ〜カジノ都市〜街は生きている〜街角のメロディ Melody in an Ancient Town〜Toward the Horizon〜Casino〜Lively Town〜Melody in an Ancient Town
ドラゴンクエストの世界を旅していく中でさまざまな場面に遭遇しますが、その中で繰り広げられる楽曲たちがここに凝縮されています。(街角のメロディ)
この曲は、妖精の村で主に流れた曲だったと思います。非常にのどかなメロディをフルートが奏でていき、バックにリズミカルなドラムの端を叩く「カッカカカカカッカッ」という音(リムショットというらしいですね)が鳴り響き、徐々にヴァイオリンなどの他の楽器が演奏に加わったりなどしながら曲が綴られていきます。(地平の彼方へ)
これはフィールドを歩いているときに流される曲です。オーボエ、フルートがメインを務める曲で、冒頭はオーボエの綺麗なソロを聴かせてくれます。このソロ場面は、ゲームの序盤、主人公自身は幼少時代を過ごしていたため、まだか弱く寂しげな雰囲気のように感じますが、曲の後半から、主人公が成長し仲間が増えるようなことを表現してか、それぞれの楽器がオーケストラの迫力とともに大音響で同じメロディを合奏する様は圧巻でした。(カジノ都市)
いわゆるカジノで流される音楽です。ドラムのリズムと弦楽器のピチカートに乗ってクラリネットが気持ちよくソロを歌い上げ、曲の締めにはトランペットなどの金管楽器が使われていました。曲としてはちょっと短かったですけど、ゲーム好きでカジノに対する想いの強いすぎやまさんならではのノリの良い曲です。(街は生きている)
過去のドラゴンクエストコンサートのレポートにも何度も書いていることですが、「街」を表現するのは非常に難しいと僕は思っています。この『街は生きている』はドラゴンクエストVの街の場面で使用される曲で、ゲームを遊んだことのある方には何度も聴いたことがあると思います。その都度に「ドラゴンクエスト」という背景を持たせながらも、いろんなパターンで同じ「街」を表現するのは、すぎやまさんその人の力の為せる技だと思います。
肝心の楽曲の方は、まずメインメロディをフルートのソロが一度歌い上げると、ヴァイオリンがその後を追ってくるといった形で進んでいきます。このあと、再び『街角のメロディ』が流されて、メドレーが終了しました。
もちろん拍手が鳴り響きます。すぎやまさんは笑顔で振り返り、マイクを持たれてしゃべり始められました。ドラゴンクエストシリーズのうちで一番好きなのはどれかと聞かれることがあるそうで、すぎやまさんの中ではどれも好きだから返答に困るそうなんですが、強いて上げると「V」の物語が好きなんだそうです。親子三代に渡る壮大なストーリーで、家族愛が感じられるからと。最近、暗いニュースが多いけれども、その原因を考えると家族愛が薄らいできているのではないかとすぎやまさんは考えられているようです。親子の繋がり、人と人との繋がりを大切にして欲しいとのアピールもありました。そんなこともあって、今回のコンサートは「ドラゴンクエストV」を披露することになったのだとか。
それでは第一部を締めくくる残り2曲の演奏となります。・空飛ぶ絨毯〜大海原へ Magic Carpet〜The Ocean
「ドラゴンクエストV」での乗り物に乗った場面を表している曲を収めたメドレーです。(空飛ぶ絨毯)
ドラゴンクエストの世界でこの「V」で初めて登場した乗り物がこの「空飛ぶ絨毯」でした。スィーッと低空を絨毯で飛び回るさまを木管楽器とハープの速いテンポの演奏と、それを支える弦楽器の演奏で表現されていました。
途中で、空を飛ぶ絨毯の軽やかさを表すかのように弦楽器のピチカートに乗ってオーボエやフルートのソロがあるんですが、その後、徐々にテンポが遅くなり、ピッコロやフルート、チェロがその摩訶不思議な力を表すかのようにゆったりとした曲想をたどっていきます。(大海原へ)
雄大な海を大きな帆船で進み行くようなイメージの曲です。実にゆったりとした曲で、チェロがメインメロディを奏でていきます。すぎやまさんは両手で大きく指揮をしていきます。
ティンパニが「ダダダダダダダン!」とクレッシェンドで演奏される場面は、帆船に打ちつける波しぶきを連想させてくれます。そう、雄大に進む帆船のイメージとそこに打ちつける波のイメージが重なりあって、より想像をかき立てられます。・戦火を交えて〜不死身の敵に挑む Violent Enemies〜Almighty Boss Devil is Challenged
ゲーム中でモンスターと対決する時に使われる楽曲のメドレーが演奏されました。(戦火を交えて)
こういった激しい戦闘の曲は、CDで聴くのと生で聴くのとに大きな差を特に感じます。迫力が身に染みて感じることができるのは生だけです。ちなみに、この曲の曲想は他のドラクエシリーズの戦闘のシーンに流れる曲の中で数少ない、主人公側を励ましてくれるような応援歌みたいになっているように僕は感じていました。
スネアドラムに乗って、木管楽器と金管楽器が交互にメインメロディのやりとりをした後、ヴァイオリンとティンパニと激しい演奏が続いていくような感じになっていきます。(不死身の敵に挑む)
ティンパニが非常に激しく打ち鳴らされ、トランペットなどの金管楽器が大音響とともに吹き鳴らされる楽曲です。曲自体はゲーム中に、その先の分岐点ともなる強敵と相まみえる際に流されます。
本当にティンパニが大活躍の曲で、オーケストラの大音響と途中途中に怪しげな木管楽器たちのメロディが組合わさり、ラストは大音響とともに終わるのかと思ったら、音が静まると同時に「ボーー…」という摩訶不思議で恐ろしげなヴィオラとチェロの静かな音色で締めくくられました。
といった感じで今回のコンサートの第一部が終了しました。が、拍手が全く鳴りやまずに、すぎやまさんが焦って舞台袖からステージへと小走りで駆け寄る場面もありました。もちろん、前半からアンコールなんてやるわけないですからね。とにかく、フィルのメンバーを退場させて、会場の拍手がようやく落ち着きました。
にしても、若干、コンサート用に曲順がアレンジされていましたが、「序曲のマーチ」の勢いに押されたせいか、細かいことを気にせずに第一部を楽しむことができました。若干演奏的に荒いところもあったとのことなんですが、僕は全くそんなこと気づかず、非常にノリノリだったようです(笑)。
ちなみに、今回のコンサートで気づいたんですが、シンバルを叩く人ってその曲目によって変わるんだなあということに気づきました。ステージ中央奥やや左よりにドラムス担当の方(いわゆるパーカッションの方)とティンパニ奏者の方がいらっしゃったんですけど、「大海原」などのティンパニが格好良く演奏している場面ではドラムスの方がシンバルを、「不死身の敵に挑む」ではティンパニも演奏していましたが、ドラムスが常に鳴り響いているため、間を縫ってティンパニ奏者の方がラストのシンバルを打ち鳴らすような感じでやっていたのが分かりました。休憩時間中、ちょっとホワイエで友人と話をしていましたが、そんな中、周りをふと見てみると、喫煙所にはドラゴンクエストのシナリオとゲームデザインを担当している堀井雄二さんがいらっしゃいました。他にもグラフィックスを担当されている真島真太郎さんなどもいたりとドラゴンクエストのスタッフの方を多く見かけられました。スタッフの方が多く来ていましたよ。