高貴なる第二部へ

    さて、早速後半が始まります。ステージ上に神奈川フィルハーモニー管弦楽団のメンバーが現れ始めると会場から拍手が沸き起こります。第一部のVTRを見ているような形で、ゲストコンサートマスターの深山さんがオーボエ奏者の方に向かって音を求められ、チューニングが始められます。

    チューニングが終わり、ホールに静寂が訪れると、その合間を縫ってタクトを持ったすぎやまさんが入場されてきました。再び盛大な拍手が会場内に起こります。

    そんな中、すぎやまさんは第二部冒頭にマイクを持ってしゃべり始められました。ドラゴンクエストのファミリークラシックコンサートをこれまでスタイルを変えずにずっとやってきたけれど、ひとつのことを継続してやっていけば大きな力になるのだなあということをおっしゃってました。さもすると、スタイルを変えながらいろいろやってみたいなあと思うこともあるだろうけど、「継続は力なり」ということわざもあるように、これまでずっと同じようにコンサートをしてきた実績から、今回のコンサートの満員大入りという結果に繋がったのだろうと思います。
    ちなみに、ドラゴンクエストのゲームを創るスタッフたちも同じ思いなんだとか。ドラゴンクエストの世界観を崩さずに新しいものを創っていくことによって、多くの人に受け入れられているのではないだろうかというすぎやまさんのお話がありました。

    第二部は、最後の曲「結婚ワルツ」まで続けて演奏するとすぎやまさんはおっしゃった後、タクトを持ってクルッと神奈川フィルハーモニー管弦楽団の方に向き直って演奏の準備をされ始めました。


・哀愁物語 Make Me Feel Sad
    やさしげだけれどもの悲しい、冒頭のヴァイオリンの音色が非常に印象的な楽曲。再会の場面などに使われていましたが、この「哀愁物語」が使われて一番記憶に残っている場面は、主人公が自分の父親の遺言を読む場面を思い浮かべる方が多いだろうと思います。
    一緒に旅をしていた主人公の父親は人質に取られた息子を守るため、魔物に一切手を出せずに一方的に打ちのめされ、亡くなってしまうわけです。それからどれほどの時間が経ったか分からない後に、父親の手紙を読むわけです。
    そんな場面に、この曲なんです。ゆったりとした弦とフルート、クラリネットの音色は遠い昔の記憶を蘇らせ、また懐かしい気持ちにさせてくれます。ただ、その気持ちの中には「その時にはもう戻れないんだ」という儚さも曲全体から感じられ、ドラゴンクエストの中でもその使われたシーンの影響もありますが、名曲のひとつとして数えられています。
    そんな曲がコンサートの後半の冒頭に演奏されたんです。この時、指揮を執っていたすぎやまさんの手にはタクトは無く、フリーハンドで手を振られていたと思います。それにしても、非常に贅沢でした。改めて聴き直してみたいなあと思う曲です。

・愛の旋律 Melody of Love
    ドラゴンクエストVのゲーム中には、主人公が女性二人から結婚相手を決めるという人生の重大な選択を迫られる場面があります。その悩む場面に流される曲です。
    曲の序盤はフルートソロが心地よく流れて、後半には同じメロディをコンサートマスターの深山さんがヴァイオリンソロで聴かせてくれます。
    この決断は主人公のみならず、相手の女性にも大きな人生の分岐点を迎えさせるわけです。静かな夜に悩む人、ひとり。そして、同じく静かな夜に物思いにふける女性がふたり。自分の気持ちを整理し、相手の気持ちを察し、いろいろと思い悩むさまがゆったりとした曲の雰囲気から感じられました。そして曲の終盤、曲調が強まっていくようなところがあるんですが、そのメロディはいつかは結論は出さなければならないと思い立つ主人公の様子が表されていたんでしょうね。

    「愛の旋律」が終わると、ソロを担当されたフルート奏者の方と、コンサートマスターの深山さんに拍手が送られていました。

・洞窟に魔物の影が〜死の塔〜暗黒の世界〜洞窟に魔物の影が Monsters in the Dungeon〜Tower of Death〜Dark World〜Monsters in the Dungeon
    ゲームをしている最中、幾度となく聴いた洞窟や塔の音楽のメドレーが演奏されました。

(洞窟に魔物の影が)
    ヴァイオリンなどが小刻みに音を振るわせ、その音にフルートなどの木管楽器が加わり、暗がりに広がる怪しさを醸し出しながら、オーボエのソロが流れ出しました。主人公だけで単身、洞窟に乗り込んで見事にやられた記憶がふつふつと蘇ってきました。
    この「洞窟に魔物の影が」という曲は、自分の中ではかなり強い印象を持っている曲です。ドラゴンクエストVと言ったら、なぜかパッとこの曲が頭に思い浮かんできます。なぜなんでしょうか。特に思い入れの強い曲では無いんですが、シリーズ中、一番おどろおどろしい曲だったからかも知れません。でも不思議なことに、そんな曲でもやっぱり綺麗なんですよね。ホントにすぎやまマジックは不思議なものです。

(死の塔)
    この曲も冒頭のオーボエのソロ演奏の音色が印象的です。オーボエ独特の低い音色が流れるようにメロディを上へ下へ歌い上げることによって、地上から高い位置にいるんだなあと感じさせてくれます。その上、同じメロディを弦楽器や木管楽器などが合奏し、音階を流れるように繋げて演奏する、いわゆるグリッサンドの場面が、明るく光が差し込んだ建物の中でも、やはり魔物の気配を感じさせる怪しげな雰囲気を醸し出してくれます。

(暗黒の世界)
    異様に高い音域で演奏されるフルートの音から演奏が始まります。非常に不可思議な世界を表しているような曲です。暗黒だけれど、フルートの高い、いわゆる少し明るい感じがするメロディ。もしかすると魔物たちの叫びあう声が表現されているのではないだろうかと思います。
    そう、この曲は魔物が巣くう魔界を旅する場面で流れてくるんです。魔物が我が物顔で歩き回る様子が、少し明るく強めのメロディとして表されているのかなと感じました。

    その後、再び「洞窟に魔物の影が」が演奏されてメドレーが終わります。
    今回のコンサートはどこからともかく拍手が起こります。この東京芸術劇場でのコンサートでは、第二部の途中から一曲ごとに拍手が沸き上がっていたように記憶しています。名古屋でも第二部では全曲それぞれ演奏が終わるごとに拍手が起こっていました。通常、ドラゴンクエストのコンサートでの第二部は演奏会形式ということで続けて拍手無しで演奏されるものなんだと思っていたんですが、「あれ?」と思わされてしまいました。ま、その時々の観客の反応によって、若干違うんでしょうね。僕個人としては、久石さんのコンサートで一曲ごとの拍手は慣れているので全然問題ないんですが…(苦笑)

・高貴なるレクイエム〜聖 Noble Requiem〜Saint
    いわゆる人が亡くなるなどの悲しい場面で使われるレクイエムと、神聖な場所の雰囲気を表現している曲のメドレーが続けて演奏されます。

(高貴なるレクイエム)
    先ほど「哀愁物語」の場面で、主人公の父親が魔物に殺されてしまうということを書いたのですが、その時に主人公の強い悲しみ、そして自分の無力さを表すかのようにこの曲が流されます。弦楽器がその荘厳な音色を発し、強い悲しみの上にも亡くなった方を弔いの気持ちを表しているんだと思います。
    そして、この曲の最後に鐘の音が鳴らされ、教会で礼拝しているような雰囲気を連想させてくれます。この鐘の音なんですが、いわゆるNHKののど自慢などで使われる鐘の楽器(チューブラーベルと言うそうです)で、実際に生の演奏で聴いたことは今回が初めてだったので強く印象に残っています。会場内を障害物も何もなく一直線に突き進むような、本当に澄んだ音色を醸し出してくれます。この音色だけでも、コンサートで聴く甲斐があったと思わせてくれました。

(聖)
    「聖」とかいて「ひじり」と読みます。これは信仰に身を捧げる高僧や、高僧を目指す修行僧の方を指す言葉なのだそうですが、このドラゴンクエストの世界の場合だと、慈悲深い神父やシスターたちを表現しているんだろうと思います。
    曲の冒頭、オーボエの静かだけれど澄んだ力強い音色が、穏やかで暖かく見守ってくれる神父やシスターたちをみなさんが感じ取っただろうと思います。

・大魔王 Satan
    この曲は、曲目どおり魔物の中の王が出現し、主人公たちが相まみえる場面で流される曲です。曲の冒頭とラストのティンパニが非常に印象的で、このティンパニの音が「魔界の王にして、王の中の王(ゲーム中のセリフより引用)」だという威厳を表しているようです。中盤あたりから続く落ち着いたホルンが奏でる曲調はその強大な力による自信を感じさせてくれます。そして、徐々に曲全体のボリュームが上がっていき、ヴァイオリンやトランペット、フルートなどが活躍しながら、大魔王の圧倒的な激しい攻撃の様を聴いて取れました。
    曲の終了後、大活躍のティンパニ奏者に盛大な拍手が送られていました。

・天空城 Heaven
    伸びやかなクラリネットの音色が印象的なこの曲は、空を見上げて遥か彼方の雲の上をゆったりと流れていく浮遊城をイメージしています。人間が作り上げた構築物という感じではなくて、いわゆる天上界にそびえ立つ巨大な城が浮いている感じでしょうか。クラリネットと弦楽器のゆっくりとした音の駆け引きは、荘厳としていて、優雅な別世界が目に思い浮かびます。
    この曲が終わった後にも、大きな拍手がクラリネット奏者に送られていました。

・結婚ワルツ Bridal Waltz
    プログラム最後の曲は、大抵ゲームのエンディングに流れるんですが、今回のこの「結婚ワルツ」はエンディングのみではなく、「愛の旋律」の曲を説明した中で結婚相手を決めるシーンがあることをお伝えしたんですが、その後の結婚式でもこの曲が使われます。そういった意味では、ドラゴンクエストシリーズのエンディングを飾る曲としては異例なもののひとつだと言えるでしょう。
    トランペットの力強く吹き鳴らす場面から曲が始まり、タイトルどおりのワルツ形式で、弦楽器が若干アップテンポで演奏しているところを見ていると、楽しげな踊りが繰り広げられる様子が目に浮かぶようです。
    指揮のすぎやまさんも、手を円を描くように大きく振りながら、楽しげに指揮をされていました。


    第二部のプログラムが全て終わり大きな拍手が会場を包みました。すぎやまさんは指揮台から降りて、四方八方からの拍手に答えて会釈をされていました。また、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のパフォーマンスにも大満足のサインを送られ、「フィルのみなさんにも拍手を!」といったジェスチャーをされていました。止まない拍手の中、一度舞台袖に戻って、一息をついてから、再びステージに登場。ゲストコンサートマスターの深山さんとガッチリと握手を交わして、すぎやまさんはマイクを持たれました。

 

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