VOICES

・For You
この曲は大林宣彦監督の映画作品「水の旅人(※2)」のテーマソングで、久石さんの紹介にもあったように中山美穂さんが作詞され、また歌も歌っている。元のタイトルは「あなたになら…」だが、久石さんのソロアルバム「WORKS I」において、今回のタイトルでオーケストラアレンジがなされており、タイトルもそれに合わせたような感じになっている。

曲の冒頭はフルートから入っただろうか、短めの前奏の後、ソリスト蒲原さんのソプラノの歌声が入ってきた。私自身、ソプラノ歌手の方の歌声を生で聴くのは初めてだったのだが、やはりプロの方は声が通る。ただ、やはりオーケストラをバックとなると、さすがにそのままでは声が拾いづらく、マイクが使われていた。ただ、私の席位置だとマイクから通ってきた音が全く聞こえず、生の音が直接響いてきた。最前列の特権というべきか。

※2 水の旅人−侍KIDS−
大林宣彦監督の映画作品。1993年の公開作品。一寸法師のように小さな侍(山崎努)と小さな少年がひょんな事から出会い、様々なことに出会っていくというストーリー。

・Le Petit Poucet
続いての曲は久石さんが初めて海外の映画作品の音楽を担当された映画「Le Petit Poucet(※3)」からで、メインタイトルの曲が披露された。密かにこの曲の歌詞がどうなるのか気になっていたのだが、そのままフランス語で歌われ、コーラスはハミングという形となった。歌詞が全く分からないため、多くの人は半分「何が何やら…」というような感じで聴いていたのかも知れないが、曲自体は良いものだと思う。ただ、この曲のヴォーカルアレンジは、私の印象に強く残っていないのは残念だ。

※3 Le Petit Poucet
フランスの新進気鋭の監督オリビエ・ドーハンの映画を、久石さんが音楽でサポート。フランスの伝統的な童話をモチーフとした映画だそうだ。日本での映画公開は2002年秋頃の予定。主題歌はベネッサ・パラディが美声を響かせている。サントラは現在フランス版が出ており、HMVなどから輸入盤として購入することができる。

・The Princess Mononoke
おなじみ宮崎駿監督映画作品「もののけ姫」からのテーマ曲。「千と千尋の神隠し」同様、日本全国の方にすでに親しまれている映画のため、このテーマ曲を知らない人はほとんどいないはずだ。

この曲は非常に素晴らしかった。何と言ってもコーラスが入ってくると非常に綺麗に感じる。今回のコーラスは全国でもトップの内のひとつに入るほどの安積黎明(元・安積女子)高校も入っているので、非常に上手い。上手い歌声に、上手いアレンジと来れば感動しないはずがない。恥ずかしながら、ちょっと目頭が熱くなってしまった。そのくらい良い曲だった。おそらく、この曲自体がコーラスに非常に合っているのだと思う。短めの味のある歌詞、複雑ではないけれど抑揚のついたメロディ。こういう要素があったからこそ、より素晴らしい曲に感じられたのではないだろうか。

・Asian Dream Song
この曲は1998年の長野パラリンピックのテーマソングで、The BOOMの宮沢和史さんをヴォーカルに迎えての曲だ。NHKのパラリンピック番組で連日流れていたため、ご記憶の方もいらっしゃるかも知れない。また、1999年の日本テレビ『24時間テレビ』で障害者の方たちがオーケストラを組んで演奏した曲でもある。こちらの演奏も非常に感動的で、素晴らしいものだった。

そして今回は、新日フィルと地元合唱団、ソリストという形態での演奏だが、この曲も元々が良いため、非常に好印象だった。基本的な曲の骨格部分は『24時間テレビ』の時のアレンジだったようだが、オーケストラの音色はもちろんのこと、この曲はコーラスもずいぶん全面に出ていたような感じがした。印象に残っているのがコーラスの男性パート。いわゆるバスなのだが、非常にいい感じを受けた。ただ、メロディのリズムがいつもと違うのが、少し気になった。


今回のVoicesは、これまでの久石さんのコンサートにはほとんど観れなかった試みだった。この部分は本当に個人的な感想になってしまうが、楽曲によってコーラスが合う曲と合わない曲があるのではないだろうかと感じた。「The Princess MONONOKE」や「Asian Dream Song」などは素晴らしいコーラスを響かせてくれるが、「For You」や「Le Petit Poucet」はヴォーカルやコーラスがあるよりも、オーケストラで聴かせてもらいたかったという思いが強い。オーケストラとヴォーカル、コーラスが混ざると、そのバランスが非常に微妙なものになってくる。これはレコーディングの場合であれば後から調整が効くものの、生の場合は一発勝負であり、特に音量の調整などで、曲のアレンジの時にオーケストラの音量は絞られてしまうだろう。その辺が少し残念に思えてしまう要因である。

ただ、今回のソリストの蒲原さんは、オペラ界などでの話は私はさっぱり分からないが、普通の一般人にとってはさほど知名度の高くない方だと思う。もしソリストが人気のある歌手などだった場合は、また曲の印象も変わったかも知れない。

とにかくこれにてコンサートの前半は終了。つかの間の休憩に入ることになる。それにしてもいつものことながら、コンサート中の時間は本当に早く過ぎ去ってしまう。ふと演奏中にそれが口惜しい気持ちがよぎるが、それでこそコンサートの価値があるというものなのかも知れない。前半の曲目を思い起こしながら、周りに座っている友人たちと歓談していたのだが、周りの観客から「Le Petit Poucet」の話や、今回の曲目のことがチラホラ聞こえてきて、前半の会場の感じは良好というのが伝わってきた。

 

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