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ラピュタの曲が一通り終わると、ひときわ盛大な拍手が起こった。久石ファン以外の福島県民の方が多く鑑賞されている中、非常に親しまれている「天空の城ラピュタ」からコンサートが始まり、出だしは好調といった感じだ。久石さんも、満面の笑みを浮かべながら、椅子から一旦立ち上がり、客席に向かってお辞儀をされた。その後、また椅子に座りマイクを持ってしゃべりはじめる。

「こんばんは、久石譲です」

最初の挨拶でまた、大きな拍手が起こる。

「昨年、こちらで行われた『うつくしま未来博』のナイトファンタジアという作品をプロデュースして、この福島とはなじみが深く、この郡山から未来博の会場まで何度となく足を運びました。しかし、これまで福島県でコンサートを行ったことが一度もなく、今回の郡山でのコンサートが初めてとなります。一生懸命やりますので、よろしくお願いします」

会場からまた拍手が送られた。福島県民の私としては非常に嬉しいことだった。初めて福島でコンサートをやっていただいている訳なので、感謝の気持ちがある。ただ、あわよくば我が地元の市でやっていただきたかったという希望は無かったわけではないが。

そう、福島ではこのようなコメントがされていたが、他の会場では『アメリカ版・天空の城ラピュタ』についての話が出たようだ。どうやら、今年中に映画が公開されるかあるいはDVD化され発売するらしいということをおっしゃっていたらしい。そういうことは、サウンドトラックの発売も近いということだろうか。

「これまで、私は子供向きのコンサートをやってきませんでした。しかし、今回は大人も子供も楽しめるコンサートを目指しました。たとえば後半は『青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ』と題して、となりのトトロを演奏します。となりのトトロは今まで、コンサートでは一度も演奏されていませんでした。今回が初めてです。これからやるVoicesもまた初めてやるということで、プログラムの4分の3は全てコンサートでは初めてやるものとなります。そういうことで、今回はすごく一生懸命頑張っているぞというのを感じていただければと思います。」

不思議なことに、これまでまともに『となりのトトロ』をコンサートで演奏されたことは無かったのだ。最近では、2000年に行われた「Piano Stories 200 Pf Solo & Quintet」で『風のとおり道』が演奏されたくらいだった。こんなに印象的な曲が多いにもかかわらず、非常にもったいないというか、忘れた頃に戻ってくる何とやらという感じだ。

にしても、「一生懸命頑張っているぞ」というコメントの場面で普通は拍手が起こっても良さそうなのに、拍手が無かった。やはり久石さんも気になったのか、笑いながらちょっとひと言。

「拍手がないな、拍手が(笑)。」

観客もこういったコンサートに不慣れな方も多くいらっしゃるだろうし、拍手をして良いものか分からなかっただろうと思う。久石さんの言葉で、会場から拍手が生まれる。と同時に、ちょっとした笑いも出た。

「すみません、拍手を強要しちゃって…(笑)」

この言葉にも会場から暖かい笑い声が生まれた。

「まず、この後、Voicesということで4曲、ボーカル曲を演奏します。最初に、『For You』という大林宣彦監督の映画『水の旅人』の主題歌で、中山美穂さんが歌った曲です。本人が作詞されたオリジナルからお送りします。

その後、『Le Petit Poucet』です。これは「レ・ペティ・ポウセット」と書いて、「レ・プチ・プセ」と読みます。海外の映画で、ちょっと怖いですが、元々は童話で、ものすごくファンタジックに仕上がっています。私が初めて海外の映画音楽を担当したもので、フランス映画です。日本語のタイトルでは『親指トム』という名前になっているそうで、この映画の公開は今年の秋あたりということです。それにしても結局最後まで、脚本に何か書かれているのか全然分かりませんでした。フランス語ですから…(笑)

そして『The Princess MONONOKE』は、文字通り「もののけ姫」です。そして前半最後の曲は、『Asian Dream Song』。この曲は長野パラリンピックのテーマ曲になっていたものです。」

と、ここまでこれからVoicesということで、ソロのシンフォニックコンサートで初めての試みのヴォーカル曲の説明をしたところだったが(サリン事件チャリティーコンサートでもオーケストラとボーカルが入ったものだったが、これはソロコンサートではない)、久石さん、ステージを見回してひと言…

「さて、それでは合唱団の紹介を…… と、まだ入場していない…」

ラピュタの4曲が終わった直後から、ステージ奥に地元合唱団の方々が舞台袖から移動していたのだが、まだその移動が完了していなかったのだ。

「それでは、私はしばらく凍った振りをしてますから…(笑)」

この場面で話すことを全て話しきってしまったためか、合唱団の入場を静かに待つような形になってしまった。その間中、トコトコとステージ奥では合唱団の方々が入場してくる足跡が聞こえてきた。そして、入場が終わると久石さんは再び話し始められた。

「安積の合唱部のコーラスは一度聴いているんです。私は昨年、『君をのせて』を聴かせていただいて感動しました。全国大会でも何度も入賞されているということで素晴らしい合唱部です。

それでは、Voicesでコーラスを担当していただく合唱団を紹介します。まず、安積黎明(あさか・れいめい)高校合唱部。そして安積(あさか)高校合唱部。もう一つはFCT郡山少年少女合唱隊の皆さんです。」

それぞれの合唱団に会場から拍手が送られる。

「そして今回、ソリストとして参加していただくのはソプラノ歌手の蒲原史子(かまはら・ふみこ)さんです。」

久石さんの紹介と同時に、ソリストの蒲原さんがステージ上に姿を現した。もちろんの事ながら、会場から拍手が送られている。ステージ上ではソリストの蒲原さんが久石さんと、新日本フィルハーモニーのコンサートマスターの豊嶋さんと握手をされた。その後、さっそくスタンバイされて、曲が始まる。

 

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