トトロ組曲

休憩時間があっという間に過ぎて、いよいよ「ジー」というブザーとともに後半を迎える。

ふとステージ上にはピアノのチェアの脇に、譜面台とマイクが設置されていた。何が起こるのかサッパリ見当がつかない。歌を歌うにしては譜面台の位置がピアノからずいぶん離れた位置にある。ああだこうだと想いを巡らせる最中、新日本フィルハーモニー交響楽団の方々が入場され、音あわせをされていた。

まもなく久石さんが登場する。もちろん、会場から盛大な拍手が送られたのは言うまでもない。まず久石さんがマイクを持たれた。

「これから演奏するのは、青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ「となりのトトロ」です。演奏する前に演奏者を紹介します。指揮、金洪才……」
久石さんが、指揮の金さんに続き、新日本フィルハーモニー交響楽団を紹介しようとする直前に、会場から拍手が起こってしまった。久石さんが何かを言いかけていたのを感じ取り、観客からの拍手はすぐにしぼんだ。

「演奏、新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんです!」
ここで改めて拍手が指揮の金さんと、新日本フィルハーモニー交響楽団のみなさんに送られた。

「あの名作を、音楽で楽しんでください!」

・青少年のためのオーケストラ・ストーリーズ 「となりのトトロ」
〜さんぽ〜
なぜ、久石さんのピアノのとなりにマイクがあったのか、この曲を聴くことによって分かった。まず曲の冒頭は各オーケストラの楽器紹介から始まったのだが、曲中などに久石さん自身がそれぞれナレーションを入れていったのだった。曲中に久石さんがしゃべるというのは初めての試みで、非常に面白い。すみだトリフォニーホールでは久石さんではなく、元米米CLUBの石井竜也さんが務めたが、久石さんが演奏しながらナレーションをするというのも、かなりファンとしては楽しめる要素でもある。

「物語を始める前にオーケストラの楽器を紹介します。まずは木管楽器。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットです」
それぞれの綺麗な音色が「さんぽ」のリズムに乗って響いてきます。以下の楽器紹介も同じように進んでいきます。

「次は金管楽器を紹介します。ホルン、トロンボーン、トランペット、チューバです」
太く力強い音色や、あるいは地を渡るような低い音色で、同じように「さんぽ」のメロディーが流れていきます。

「オーケストラの中で最も人数が多いのは弦楽器です。ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスを紹介します」
久石さんの曲で、メインを飾っているのは何といっても弦楽器だ。やはりそれだけあって、弦だけの編曲も非常に上手いし、また新日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんも、本当に綺麗な音色を響かせてくれる。

「オーケストラを彩る様々な楽器の中で、その中心になるのが打楽器です。壮大なクライマックスに向かうときは欠かせません。そして華麗なハープ、ピアノ、チェレスタは様々な色彩をオーケストラに与えます」
それぞれの楽器で「さんぽ」のメロディーが流れる。特に打楽器ティンパニでの「さんぽ」は面白かった。打楽器でメロディを操るというのはあまり見かけないので、少し驚いた。

「最後に言い忘れました。弦楽器のピチカートも大きな魅力のひとつです」
ピチカートというのは、ヴァイオリンなどの弦楽器を弓で弾いて音を出すのではなく、指ではじいて短い音を出すことを言うのだが、案外大きな音が出るものである。

「これで全ての楽器が出そろいました。それでは全員で!」
ここで、オーケストラ揃っての演奏となる。またサントラと違って、井上あずみさんのヴォーカルが入らず、オーケストラの迫力で曲を持っていくところが非常に良い。この曲が普通に終わると、会場内から拍手が起こった。ただ、演出的にいわゆる「トトロ組曲」中は拍手無しで、ずっと続けての演奏を考えられているようだった。拍手はそこそこに久石さんのナレーションが続く。

〜五月の村〜
「それでは物語を始めましょう。お父さんとメイとサツキはのどかな村へと引っ越してきました」
ちょうど、三輪車で3人がオンボロ屋敷に引っ越してくる場面での曲だろうか。のどかななのだが、非常に明るく、元気の出る曲だ。曲が終わった後も拍手が起こったが、やはりここでもそこそこで拍手がやみ、久石さんのナレーションが入る。

〜ススワタリ〜お母さん〜
「新しい家は原っぱの中のオンボロ一軒家。さっそく二人の探検は始まりました」
この曲はサントラで言うと「オバケやしき!」だろうか。弦楽器のピチカートで曲が進みはじめる。

「どうやらこの家はお化け屋敷のようです」
この辺は「メイとすすわたり」あたりの曲から来ているようだ。ただ、オーケストラへのアレンジが大幅に施されており、元の曲がよく分からない。

「暗がりに何かいます。黒くて小さくてトゲトゲしたもの。マックロクロスケです!」
こんな曲、映画で流れていただろうかというような感じで聴いていたのが頭に残っている。サントラで聴き返すと、部分部分で似たようなフレーズが入っている曲が確かにあった。でもどこがどうなっているのかサッパリ分からない。

「サツキとメイはこの古い変な家が好きになりました。二人のお母さんは病院にいます。寂しい。でも二人は元気です。でも、一緒にいたい」
ここはサントラ「おかあさん」の曲がちょっと入ってきた。バイオリンで「おかあさん」のメロディーを弾かれると、心に衝撃が走るような、そんな感じがする。

〜トトロがいた!〜
「ある日、庭で遊んでいたメイは小さなオバケを見つけました。メイは必死になってそのオバケを追いかけます」
ちょうど、映画でメイが子トトロと追いかけっこをしている場面で流れる曲だ。サントラで言うと「小さなオバケ」だろうか。でも、感じとしてはこのサントラの曲とは全然違うような曲のような感じがしたような、しないような、ちょっと微妙な感じだ。

「小さなオバケを追いかけていたメイは、大きな木の根元のほらあなに落ちてしまいました。ふしぎな世界。そこにいたのは大きなオバケ、トトロでした。メイはトトロのおなかの上で一緒に寝てしまいました。」

〜風のとおり道〜
となりのトトロの影の主題曲だと久石さんが公言している「風のとおり道」が始まった。やはりピアノの音色でこの曲が響くと懐かしい気持ちになる。この曲は、東京オペラシティで行われたコンサートでも好演されており、また先日も東京FM「LIVE DEPOT」という番組で大江千里さんとのピアノのセッションで共演されているが、シンフォニックコンサートで披露されるのは初めてか、あるいはかなり久しぶりということになるのではないだろうか。

〜まいご〜
「おかあさんが帰ってこない。おかあさんへ食べさせようと、トウモロコシを持って立ちつくすメイ。病院に向かって走り出しました。その途中、メイは迷子になってしまいました」
この曲はサントラでは井上あずみさんのヴォーカルが入っているが、もちろん今回はオーケストラでの演奏。このコンサート前に、ある程度の曲目は分かっていたのだが、僕を含めた多くの方は、このとなりのトトロで、ヴォーカルが入ったりコーラスが入ったりするのではないだろうかと思われたのではなかろうか。『さんぽ』『となりのトトロ』『まいご』などはヴォーカル曲としても聴き応えのある曲だろうが、その部分を良い意味で裏切られたという感じだ。おそらくだが、子供たちに純粋にオーケストラを楽しんでほしいという久石さんの演出意図があったのではないだろうかと考えることもできる。

「サツキはトトロに会い、メイを探すのを頼みに行きました。するとトトロは答えました」
金管楽器の低い音、ホルン、トロンボーン、チューバあたりの音で、トトロの声を再現していた。映画のトトロの声にかなり似ていて、少し驚いてしまったのを覚えている。

「ねこバスがやってきました、サツキを乗せたねこバスは走り出しました!」

〜ねこバス〜
久石さんのナレーションの最後とオーケストラの演奏が少しかぶってしまい、何を言っているのかよく分からなかったが、アップテンポの曲が始まった。オーケストラにしたこの曲も軽快で非常に楽しい。しかも迫力がプラスされている。

「メイを探しだし、メイとサツキは抱き合いました。その後、ねこバスはおかあさんのいる病院へと走りはじめました」

〜となりのトトロ〜
「病室ではおとうさんとおかあさんが笑いながら話しています。ふたりは窓辺にトウモロコシを置いて帰っていきました」
本邦初公開の『となりのトトロ』は、やはりこれもサントラのヴォーカル曲と同様、軽快なメロディに乗り、オーケストラ全快で楽しげに曲が進んでいくが、場所によってしっとりとした雰囲気へと変わって行き、ピアノをフューチャーした部分も出てくる。全体的には力強く楽しい曲だった。ラストは「バーン」という感じでオーケストラが綺麗に揃って曲を終えた。


会場から拍手が起こる。トトロ組曲として8曲が続けざまに演奏されたが、この曲はどうやらCD化が検討されているということで、実現されればかなり面白いものになるのではないだろうかと期待できる。

 

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