後半開演〜BROTHER

前半と同じようにステージ両袖から新日本フィルハーモニーのメンバーが入場し、コンサートマスターが音あわせをする。そして落ち着いたところへ久石さんが登場。大きな拍手に迎えられる。

久石さんは会場に向かって頭を下げられた後、サッとピアノの椅子に座り、また前半の始まる前と同じようにジッとピアノの鍵盤の一点を見つめていた。コンセントレーションを上げようとしているのだと思う。短い間、そういう仕草をされた後、金さんに「ハイ!」とうなずきながら合図を送った。いよいよ、後半が始まる。

・Drifter…in LAX BROTHERより
最初はパーカッションから。席の関係で、どのような感じに音を鳴らしているのか全く確認ができなかったが、サントラに収録されているパーカッションとは若干趣が違うような感じがした。リズムは同じなのだが、楽器が微妙に違うような音。ただ、やはりかっこいいアレンジになっているのは明らか。「ドン・パンパ・トン・ドン・パンパ・トン」というようなパーカッションのリズムに乗って、メロディがピアノや、トランペット、フルートなどが奏でていたと思う。全体的にはサントラと同じように静かでゆったりとした曲調だ。

・Wipe Out BROTHERより
『Drifter…in LAX』から間髪入れずにこの曲に入った。というより、私としてはずっと一つの曲のような感じがしており、途切れ目がよく分からなかったのが正直なところ。この曲の序盤では、久石さんのピアノが和音を奏でながら、リズムを刻むというような感じで終始伴奏に徹するような感じだった。

・Raging men BROTHERより
また、この前の曲と続くような形で、パーカッションの大音響がホール内に響く。この部分はリズム感があって本当に格好良い。パーカッションに続いて弦楽器が短いリズムを刻んでいく。この部分はサントラよりも、不協和音が強調されている感じで、これがまた、素晴らしい。何かが起こるのではないかといった緊張感を感じさせるような、そんなアレンジだ。

そして、急に「パン、パン」とクラッカーのような大きな音が場内に響く。不覚にも驚いてしまい、何だったのだと首を傾げた。自分のいる席ではオーケストラ全体を見渡せないため、せっかくの演出が全く確認できなかった。他のコンサートの状況を見る限りでは、パーカッションの方が銃を構えていたらしい。その銃声の直後、久石さんのパワフルなピアノの音がブチッと切れたような感じになった。私自身、音楽に詳しいわけでもなく、また誰もスコアを見たことがある訳がないので、確認が取れないが、このブチッと音が切れたのが狙いだったのか、それとも単なるミスなのかが気になった。

・I love you...Aniki BROTHERより
続いて、ピアノからメインテーマが奏でられる。コンサートヴァージョンということで、ドラムが入ってきて非常にノリがある、格好良いナンバーにあがっていた。そして、静かに曲が終わりを告げる。

この4曲は間をおかずにつなげて演奏されていた。そのため、曲間の拍手も無く、聴いている私の感覚としては4曲が繋がって、ひとつの曲が演奏されたように感じた。続けて聴くと、また格好良いものがある。この「BROTHER」の曲は好評で、非常に評価が高かったパフォーマンスだったと、コンサート終了後にさまざまな方から話を伺った。このことからもどれほど良かったのか、ある程度想像できるであろう。私自身、もう一度聴き直したいと思う。

4曲が演じ終わった後、もちろん会場内から割れんばかりの拍手がわき起こった。久石さんがフィルのパーカッションや、ホルン、フルートの方々などに立つようにうながし、それらソロパートを担当された方々にも大きな拍手が送られた。拍手が一段落した後、久石さんはマイクを持たれ、再びしゃべりはじめた。

「北野武監督の『BROTHER』から続けて4曲をお送りしました。この『BROTHER』は、映画にピッタリ合った音楽を作ることができて個人的には非常に満足している作品です。ただ、映画に合う音楽というのと、このようにコンサートで演奏されるような音楽というのは、基本的に違います。今回の『BROTHER』も全て書き直しました。」

サントラでも十分格好良いのに、それにまた手直しを加えるというのはものすごく大変な作業なのではないかと思う。自分で作ったものを再びアレンジする。これは簡単そうで、実は非常に難しいものなのだ。一度、自分の中で完成型ができあがっているものを壊して、再構築させていかなければならない。以前にTBS系列で放送された「情熱大陸」にて久石さんがフィーチャーされたことがあり、苦しみながらスコアを書かれている様子が映されていた。次の日の朝方までかかってやっと曲が完成したところが放映されていたが、ちょうどこの『BROTHER』のアレンジをされていたらしい。

そんな話をされた直後、ふと久石さん、下を向いて「う〜ん」を考え込まれた。何だろうか、と気になった瞬間、ふと顔を上げて再びしゃべり始められた。

「3年前にオーケストラでコンサートをやったのですが、オーケストラと較べてピアノの音が小さく、仕方なくPA(※3)を使いました。しかし、今回、それを使わないでやるため、弾き方を全く変えました。あ、このマイクはPAではなく、レコーディング用のマイクですよ!」

※3 PA (Public Address)
要するにコンサートやイヴェントなどで、音声がちゃんと伝わるようにする音響機器の事。
http://www.twomix.co.jp/club_tm/what_pa.htmより

そう、コンサートの序盤に気にかかっていたことがこれで分かった。いつもよりも力の入った演奏は、PAを使わないためのものだったのだ。オーケストラに負けないピアノの音を出すのは至難の業。それを成し遂げるために、ピアノの弾き方を変え、そして力の入った演奏をしていた。ただそのせいか、コンサートツアーの最中に、左手の小指を痛めてしまうといったアクシデントもあったようだ。この日のコンサート中も、左手を気にされていたようで、オフィシャルサイトのダイアリーにもこのコンサートの後半から痛み始めたようで、痛みをこらえながら演奏をしていたらしいと後日、書かれてあった。

話している最中、ふとピアノに備え付けられてあったマイクに目をやり、あわててPAではなく、レコーディング用だとおっしゃっておられたのだが、そうするとこのコンサートのCD化もあり得るのだろうか。売り出すのであれば、もうひと公演くらい、保険をかけるような形でレコーディングしていても良いと思うが。また、記録用のカメラも備え付けられていたようだが、こちらはスタッフの方々の確認用のような感じで、会場内を見た限り小さなカメラ1台しか見あたらなかった。

「とにかく、一からピアノの弾き方を直したわけですが、音は大きくなったでしょうか?」

久石さんは新日本フィルハーモニーの方々へ顔を向けて伺っていたが、間髪入れず客席の方から拍手が起こる。また、「大きくなってるぞ!」というようなかけ声もかかっていた。久石さん、この反応には嬉しかったようで満面の笑みで答えていた。

「えー、とにかく50代で…… 昨日で51才になったのですが……」

そう言い出すと、会場からまた盛大な拍手が送られる。かけ声のような音も会場内に響いていた。ちょっと恥ずかしそうに久石さん、笑っている。

「50代になっても、やればできるってことを言いたかっただけです(笑)。」

このひと言に、またまた盛大な拍手が送られた。歳を取ったら、なかなか思うように物事が進まなくなるというのは良く聞く話だが、やっぱり『やればできる』のだろう。私自身、まだまだ先があるのだが、なかなか行動に移せず、耳の痛い話でもある。やはり、久石さんの曲を聴いている我々も一生懸命やならければならないなと思わされる一節だった。

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