Ashitaka & San(アンコール)

    1、2度くらいステージ上と舞台袖を行き来されてから、久石さんは再びピアノに向かわれました。アンコールの開始です。

鳥の人
    正直なことを言うと、アンコールでナウシカの曲が来るとは思いませんでした。大抵は最初に演奏された「Madness」とか、最近だと「ToToRo」が来るのかなあと思っていたんですが、予想を裏切られました(笑)。でも、最近、ナウシカは聴いていなかったから、返ってちょうどいい選曲かも知れません。それに、今年(2004年)はナウシカの映画化からちょうど20年で、節目の年なんですよね。そういう意味が込められていたのかも知れません。演奏はやっぱり壮大なスケールで奏でられていました。

    ここでも大きな拍手とともに再びスタンディングオベーションが一部で起こっています。久石さんはいたく感激している様子でした。先ほどと同じように一旦舞台袖に戻って、再び姿を現したあと、花束を持った女性お二人が久石さんにそれを手渡して、少しお話されたあと、握手をされていましたよ。

    花束が渡されたあと、アンコール2曲目に突入です。


Kids Return
    疾走感漂う、北野武監督の同名タイトルの映画からのメインテーマです。この曲は弦楽器の激しさが特に伝わる作品ですが、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタのみなさんがこの曲も楽しげに弾かれているのが印象的でした。この曲、リズムが早くて難しいはずなんですけど、やっぱり裏打ちされた技術があるんでしょうねえ。返って、久石さんのピアノの演奏が追いついていかなかったりして…(苦笑:もちろん冗談です!)


    「Kids Return」が終わった後、ビックリしました。スタンディングオベーションが、立つわ立つわで… 全員総立ちです! ステージを観客席がグルッと囲むようなアリーナ形式のホールなんですが、向かい側のパイプオルガンの前に座っている2階席の方々も立っているし、観客の方のほとんどが立っていたんじゃないかと思います。これには久石さん、メチャクチャ感激されていて、僕は最前列だったんですが、ちょっと目を潤ませている久石さんを確認しました。

    何度もアンジェル・デュボー&ラ・ピエタの皆さんとパーカッションの安江さんとともに、幾方向にもお辞儀をしながら、舞台袖に引き上げられていきました。それでも鳴りやまないスタンディングオベーション。再びステージに戻ってきた久石さん、両手を組んで「ありがとう」という表情をされながら、またいろんな方向にお辞儀をされながら、舞台袖に戻られていきました。普通だとこれで終了というところですが、新潟の観客の皆さんは、今回の新潟県中越地震のこともあってか、ぜんぜん拍手とスタンディングオベーションが落ち着きません。

    これは参ったという感じで、再び久石さんがステージに現れたものだから、ものすごい歓声が鳴り響きます。「弱ったなぁ」という表情をされながら、ピアノに座るとマイクを持たれて話されました。

    「今日は、何も用意していないんですよ〜 楽譜も何も用意してなくて… 全然さらっていないんだけど、間違ってもいいんだったら、演奏しようと思います!」

    そんな声に、さらに会場から歓声が上がります。やっぱり久石さん、首をかしげながら、どうしようかというアクションをしており、そんな中、徐々に歓声も収まり、静かなホールへと戻っていきます。ライトもピアノに一つ、スポットライトで浮かび上がっています。


アシタカとサン
    そんな中、演奏されたのは映画「もののけ姫」より、『アシタカとサン』でした。個人的には非常に好きな曲です。しかも、この曲は人間同士や神々との争いにより滅びかけた森が少しずつ再生するシーンで流されている曲で、まさに地震からの再生を、という想いが込められたような曲でもありました。

    久石さんも、全然練習していなかった曲で、楽譜もなく、音を確かめるようにゆっくりとしたテンポでピアノソロを演じられていきます。そのスローテンポが非常に素晴らしかった。個人的に好きな曲でもあり、予定外のアンコール、そして新潟の皆さんの想いと、そして久石さんの潤ませた瞳を目の当たりにして、ものすごく感激しました。コンサートでは涙することは今までなかったんですが、この日ばかりは感激して、少しだけ感極まってしまいました(苦笑)。

    もう、何もかも吹き飛ばしてくれる一曲でした。この日の公演は、開演時間が遅れたり、演奏中に携帯電話が鳴らされたりで、特に前半は無茶苦茶な状況だったので、どうなることやらと思っていたんですが、この「アシタカとサン」を聴いて、それらがなんて小さなことなんだ、なぜそんなことを気にするんだ、ここではもっと大変なことがあっただろうに、という気持ちにさせてくれました。この曲ひとつを聴いて、救われた気持ちになりました。他のみなさんもそんな気持ちになったのではないかと思います。

    本当に、新潟を思い表すいい一曲だったのではないかと思います。

    そんな素晴らしい時間が過ぎ去り、演奏が終わりました。直後、久石さんがマイクを持ってひと言。

    「この曲を、今回の地震で被災された方々のために捧げます!」

    そうおっしゃると、会場から大きな歓声があがり、やがてぽつぽつとスタンディングオベーションが起こり、最終的にはほぼ観客の全員が立っている状況になりました。久石さんも最後には感極まって、涙されていました。逆に新潟から力をもらったことに対して、嬉しかったんでしょうね。あるいはいろんな意味で不安だったのかも知れません。「コンサートなんて開いていいんだろうか」という思いもあったとのことですから、これだけ大変な状況である新潟の皆さんに受け入れられて、万感胸に迫るところがあったのでしょう。

    目を赤くした久石さんが、360度、いろんな方向にお辞儀をされたあと、舞台袖に戻られていきました。

    ……実はそれでも、観客の皆さんは帰しません(苦笑)。拍手が止みません。そうすると、久石さんが「Joe Hisaishi」の刺繍の入った緑色のタオルを手にしながら、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタの皆さんと、パーカッションの安江さんとともにステージに戻ってきて、みんなでお辞儀をされていました。会場にも楽しげに手を振られて、久石さんが客席に向けて「ありがとう!」というような表情をされていました。こちらこそありがとうですよ!!


    そういうことで、新潟公演は無事終了しました。新潟県中越地震もあり、開催も一時危ぶまれましたが、成功裡に終わりました。一観客としても非常に嬉しかったです。新潟へ行ってよかった、そう素直に思いました。

    そうそう。アンコールの最後に演奏された「アシタカとサン」、他の会場では演奏されていないようです。新潟の皆さんに対して、いろんな意味での復興を願って、今回のレポートは終了させていただいます。拙文を読んでいただいて、ありがとうございました。

 

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