フィナーレは何だ!?
会場から大きな拍手が起こっている。普通の場合、アンコールは2曲なのだが、突然すぎやまさんがマイクを手に、客席の方に向かれた。
「やっぱり、ドラゴンクエストのコンサートなので、締めはやっぱりドラクエでないと!!」
そう、まだアンコールがあったのだ! 会場内の誰もが「アンコールは2曲だろうし、これで終わりかな」と思われていたのではないだろうか。それがすぎやまさんのひと声で覆ったのだから、場内沸かないわけがない。
「普通は一度、舞台袖に戻って、再び出てきてアンコールをやるものなのですが、もったいつけないで、この今の勢いに乗って演奏しようと思います!」
この前の2曲のアンコールは、すぎやまさんはとりあえず舞台袖に戻っていたのだが、会場内のノリが非常に良く、すぎやまさん自身も絶好調だったようで、勢い余ってすぎやまさんがマイクを手にしてしまったのだろう。
「最後の曲のタイトルは言いません! 最初のメロディを聴いたら、誰でも分かる曲です。分からなかったらドラクエファンのモグリですよ!!(笑)」
そういわれて、すぎやまさんはタクトを取った。どの曲を演奏されるのだろうか。モグリ、という表現をされているのだから、よほどの名曲が演奏されるはずだ。
・そして伝説へ Into the Legend (ドラゴンクエスト III そして伝説へ…より)
本当に最初の数小節で誰もが分かる名曲が演奏された。トランペットの勇壮なメロディから入る曲。これまで長い冒険の旅をしてきた主人公たちが、最後に大魔王との激闘の末、勝利を収めて帰ってきたのだ。しかし、その大魔王の魔力によって開かれていた異世界との繋がりが絶たれ、その異世界からやってきた主人公たちは故郷に戻る術を無くしてしまった。主人公たちは、それにうすうす気づいてはいたのだが、自分たちの使命を守るため、故郷の家族と永遠の別れを心に決めていた。しかし、やはり大魔王を倒した後、頭の中に駆けめぐるのは家族のことだった。『故郷に残してきた母は元気だろうか。出来れば、父の最後の言葉を伝えてやりたかった』など、いろんな想いを抱いていただろうと思う。そんなイメージができる、すばらしい楽曲なのだ。勝利を収め、街に帰ってきたときの様子は、勇壮なトランペットの音色で。そして、ふと感じた故郷への想いは、フルートからヴァイオリン系統へとつながるメロディへ続いていくわけだ。そしてその後は、故郷は忘れきれないだろうが、前へ進み出さなければいけないとの想いで、オーケストラ全体が壮大なスケールでメロディを奏でてゆく。
この曲には、個人個人、種々さまざまな想いがあるであろう。それにしても、この曲には私自身、少し目が潤んでしまった。曲が使われる背景についてはもちろんだが、私はこの『ドラゴンクエスト III そして伝説へ…』には深い思い入れがある。当時、私はファミリーコンピュータを持っておらず、友人と一緒に遊んでいたときに、この作品を知った。その時に、このイマジネーションを起こらせるゲームとその音楽に魅了されていったのだ。
そしてまた、私は2年前のコンサートに来ていたのだが、その時のアンコール曲はドラクエ Iの『街の人々』と、ドラクエ IIの『この道わが旅』だった。そう考えると、2年越しで「ロト編完結」と言った意味合いも私の中にはあったのだ。
演奏自体は、トランペッターの方が、最後の力を振り絞って演奏されていたと思うが、さすがに何度か音をはずされていた。この辺は、多少仕方ない部分があると思う。それだけ、力強く吹き込まなければならないメロディがあり、体力的につらかったのだと思う。
スケールの大きな『そして伝説へ』の演奏が終わった。音の余韻が無くなる時まで静寂が会場を包んでいたが、音が無くなった瞬間、ドッと会場から拍手がわき起こった。曲に対しての拍手というだけではなく、今日のコンサートに対してのものもあったろう。非常に強く、長い間拍手がされた。その間、すぎやまさんは客席に向かって会釈をされ、ゲストコンサートマスターの朝枝さんとガッチリ握手をされた。その後、何度かすぎやまさんがステージと舞台袖とを行き来していたわけだが、拍手が全くヴォリュームダウンしない。すぎやまさんは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団を称え、客席に対して彼らに拍手をお願いするジェスチャーをされ、またフィルのメンバーに対して親指を立てられ、「素晴らしかった」という仕草もされていた。
すぎやまさんが退出された後、ゲストコンサートマスターの朝枝さんが、客席へと深々とお辞儀をされ、朝枝さんに続き、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のメンバーも退出するという流れとなった。そう、コンサートが終わってしまったのだ。
今回、2002年のドラゴンクエストのコンサートはこの会場と、名古屋でも行われた。話に聞くところによると、名古屋のセントラル愛知交響楽団の演奏が非常に素晴らしく、それと比較してしまうと、神奈川フィルハーモニー管弦楽団はどうも…という話も聞かれた。しかし、私は名古屋には出向いていないが、神奈川フィルの演奏も多少のミスはあったものの、なかなかのものだったと思っている。その表れとして、今回の観客の反応にあったと思う。演奏が悪かったら、あんな拍手は起こらない。神奈川フィルの方々には、胸を張って、良い演奏をしたのだと思ってもらいたい。これからもドンドン頑張って欲しい。そして、ホントに今回のコンサートは良い意味で観客を裏切るものだったと思う。まず、新曲「立ちはだかる難敵」と「ピサロ〜ピサロが征く」については、想像以上に素晴らしい出来だったわけだし、そして何といってもアンコールが素晴らしかった。ドラゴンクエスト以外の曲をアンコールで演奏されるとは、普通は夢にも思わないだろう。私はコンサートのアンケートにも書いておいたが、次回のアンコールでもドラゴンクエスト以外のすぎやまさんの名曲を披露して欲しい、そう思っている。
−−−−−−−−−−−
ということで、東京芸術劇場大ホールで行われた第16回ファミリークラシックコンサート・ドラゴンクエストの世界のコンサートレポートはこれにて終了します。非常に長くて読みづらいレポートを、時間を費やして読んで頂いた皆さんに、お礼を申し上げます。また、レポートを書く機会を与えてくださったすぎやまさん、朝枝さん、そして神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。最後に… 非常にレポートが長くなってしまい、おそらく書き間違いや、私の勘違いもいくつかあると思います。もし、それを見つけられた場合はご一報下さると非常に嬉しいです。そういうことで、また次回、お会いしましょう。
初校 2002/09/06 00:00 書き上げ
第二校 2002/09/07 14:45 一部修正
第三校 2002/09/30 23:40 一部修正