あでやかな音が奏でられる瞬間…

自分の席に着くと、ステージ上にはコントラバスや、ハープ、ドラム(パーカッション)などの奏者の方々がおり、黙々と練習をしていた。楽器が大きすぎて移動することが出来ないため、仕方がなくステージ上で練習をしているわけだ。聴いたことのあるようなメロディーが流れてきたりしていた。

会場内のステージとパイプオルガン

今回の東京芸術劇場大ホールは現代音楽用のパイプオルガンになっているが、ここのパイプオルガンは回転式で2つのタイプが使えるようになっている。もう一方のパイプオルガンは「Be HISAISHIST!! Volume.5」のレポートに載せてあるので見比べて欲しい。

会場内をいろいろと眺めていると、いつの間にかステージ上には誰も居なくなっていた。それとともに場内にはコンサートの開始を告げる放送が流れる。しかし、まだ会場は少々ざわつき気味ではあった。多くの人がドラゴンクエストコンサートの開始に興奮冷めやらないといったところだろうか。

しばらくすると、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが登場した。拍手で迎えられる。神奈川フィルのメンバーが着席された後、頃合いを見計らって、ゲストコンサートマスターの朝枝信彦(あさえだのぶひこ)さんが入場された。朝枝さんに対して、会場からこれまた盛大な拍手が送られた。

朝枝さんは、何というかバッハを思わせるような髪型、といったような表現をして良いのだろうか、少し長髪でメガネをかけていらっしゃった。そう、少し気になったことがあった。ゲストコンサートマスターの朝枝さんの椅子が、普通のパイプ椅子だったことだ。コンマスの方の椅子というのは、他の方と比べて少しグレイドの高いものを使うものだと思っていたのだが、今回は違っていたのだ。もしかすると、朝枝さん本人がパイプ椅子の方がしっくりくると感じて、敢えて変えなかったのかもしれないが、この辺は定かではない。

朝枝さんは会場に向かい、深く一礼をし、いったん椅子に座った後、すぐに立ち上がり神奈川フィルハーモニーの面々の方に向かってチューニング(音合わせ)を始めた。久石さんのシンフォニックコンサートの場合には、必ずピアノがあるので、コンサートマスターの方がピアノの鍵盤を弾いて音あわせるようになるのだが、今回はもちろんピアノが無く、コンマスの朝枝さんがオーボエ奏者の方と、それぞれの音色のトーンを合わせられ、その後神奈川フィル全員が音あわせをし始める。オーボエとヴァイオリンから始まり、他の楽器に音が派生していく過程は、何か非常に気持ちのいいものがある。チューニングが終わると、朝枝さんは着席をし、指揮者を待つわけだ。

そして、いよいよタクトを持ったすぎやまこういちその人が入場してくる。見た目はスラッとされた気の良いおじさんというような出で立ちだが、その中身たるや、すごいものを持っているのはすでにご存じの通りだろう。その人に、ものすごい拍手が会場から浴びせられる。"浴びせられる"といった表現が非常に適しているのではないかと個人的には感じられた。すぎやまさんはタクトを持って、会場の右手、正面、左手それぞれにちょこちょこと笑顔を浮かべながら会釈をされる。

会場の拍手が落ち着くと、すぎやまさんは指揮台に向かわれた。と、その前にまた、ふと気になったのだが、指揮台のとなりに、一つ黒いパイプ椅子が置かれていた。コンサート中に使われることは無かったのだが、おそらくすぎやまさんが体力的に厳しくなったときを考えて、置かれているものだろうと推測される。すぎやまさんは現時点(2002年)で御歳71歳。このお歳で、コンサートをスタンディングでフルに指揮をされる姿は、非常にパワフルだなと思わされる。

会場が静まりかえった瞬間、すぎやまさんの右手のタクトがスッと上がり、いよいよ最初の曲が始まった。

・序曲 Overture
ドラゴンクエストを一度はプレイされた方にはお馴染み、そしてドラゴンクエストをやられた事が無い方も一度は耳にされているであろうという曲、「序曲」が流された。2年前のコンサートの際は、すぎやまさんがサッと指揮を始められたせいなのかは定かではないが、トランペットが奏でる序曲のファンファーレが思い切り音割れを起こしていたのだが、今回は力強い響きのあるメロディを奏でてくれた。いつ聴いても、すぎやまさんのファンファーレはすごく栄える。ファンファーレは短いフレーズに、いろんなものを凝縮させるという非常に難しいものだと思うのだが、それぞれが非常にいい味を出しており、この序曲のファンファーレも非常にすばらしい。

私の座っている席位置の関係で、ヴァイオリンの音色が綺麗に聞こえてくるのだが、ヴァイオリンの非常に細かい音色の動きも非常にすばらしく綺麗に聞こえてきた。

そしてすぎやまさんの方に目をやると、左手で何かものを投げるような仕草でシンバルに合図を送っている姿が印象的だった。

 

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