The Concert Comments
チェリストたちが退場した後、久石ひとり、ピアノの脇に置かれていたマイクを手に持ち、立ちながらしゃべり始めた。
「こんばんは、久石譲です」
この一言にも、また拍手が送られる。
「ここ郡山は、以前に行われたうつくしま未来博の時に何度も行き来しており、非常に縁のある場所です。未来博が開かれているのは夏だったのですが、なぜか非常に寒かったんですよ。会場であれはこっちだとか言って、夜まで会場設営に時間をかけていたんですね。
そんな時に、ちょうど会場は須賀川だったんですけれど、そちらの温泉で良いところが2、3ヵ所、あったんですよ。あ、いや、他の温泉がダメってわけじゃないですけれど…(苦笑) その温泉は…… って、こういう場で言っちゃダメかな(笑)。ま、機会があればインターネットあたりででも紹介したいと思います」
そんな茶目っ気たっぷりの久石の話に会場から笑い声が漏れる。そして、今回のコンサートの説明などに移る。
「今回は、『ETUDE & ENCORE』と題して、先日リリースしたアルバム『Etude』と、すでに去年に発売された『ENCORE』というアルバムをメインにしています。今回は、ご覧のとおりチェロばかりの集めてのコンサートという、珍しい形でのコンサートとなりました。ベルリン・フィルが『ベルリン・フィルの12人のチェリストたち』というもので、チェロだけで楽曲の演奏をしたりしていますが、これだけのチェロとピアノ1台という形態でのコンサートというのは世界初だと思います。また、後半からもチェロとの演奏が出てきますので、お楽しみに!」
当初、チェリスト8人という予定だったものの、10人(郡山は9人)に変更ということになったわけだが、多くの久石ファンは耳を疑ったのではないかと思う。「全会場合わせて、チェリスト8人ということなのか?」「何かの間違いではないか?」 おそらくファンそれぞれ、考えることはあったと思う。しかし、久石譲というパイオニアは、普通では考えられないことにチャレンジし、チャレンジすることによって進化していくのだと思う。パイオニアだからこそ、また、巨匠と呼ばれるからこそ、その地位に甘んじることなく、挑戦し前に進む姿勢が大切なのだろう。
続いて、これから演奏される曲目の説明に入った。
「昨年、『ENCORE』という、僕のベストメロディを集めたアルバムを作りました。その中から4曲聴いていただきます。
まず『Friends』、『Summer』……」
少し間が空く。客席からの何らかの反応を久石は期待していたのかも知れない。
「……『Summer』はトヨタのCMや映画で使われていました。そして、千と千尋の神隠しの…… あれ、何だっけ?(苦笑)」
久石譲が曲名をすっかり忘れてしまったことに、観客は大うけをし、笑い声で会場内が包まれた。また、観客の方から曲名を教えられる一幕も…
「そうそう、千と千尋の神隠しのオープニングとエンディングで使われた『あの夏へ』ですね(苦笑)。お客さんから教えられてしまってはねぇ…(苦笑) そして『HANA-BI』の4曲を続けてお送りします」
ちょっとしたアクシデントはあったものの、4曲の説明をこなした。久石が話している最中、ステージ上のピアノのセッティングが変えられており、ピアノが会場に綺麗に響くように位置が移動されていた。
そのピアノの前に久石は腰を下ろし、楽譜を並べ替えられる。すると、徐々にステージ上の照明が落ちていき、幻想的な雰囲気になっていく。それにつられて、会場内も徐々に静まりかえってゆく。
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