My Favorite Songs

拍手が一段落した後、久石さんはしゃべりはじめられた。

「ピアノを弾いているだけでもしんどいのに、ナレーションなんかやるともっと大変なものが世の中にあるんだということを思い知らされました(笑)」

会場から暖かい拍手と微笑みが送られる。確かにピアノを弾き終わって、椅子から半身回転させてマイクの方に向きナレーションを行い、それが終わったらすぐにピアノに向き直って演奏をし始めるという芸当は、観客から見ても大変だろうと思われた。またしゃべりはじめるタイミングを間違うと演奏とかぶってしまうし、また言葉をかんでしまったりするとこれまた演奏との兼ね合いが悪くなってしまう。非常に神経の使う組曲だったのではないだろうか。

「今月の6日に『ENCORE』というピアノのソロアルバムを発売しました。いつも弦を入れたりしていたんですが、ホントにピアノだけのものを14年ぶりに出しました。去年まで映画の監督だとかいろいろ幅を広げすぎたので、原点に戻ろうということで作ったものです。確か、ロビーでも売っているということですので…(笑)」

会場から笑い声と拍手が起こる。確かにロビーにもちゃんとCDと楽譜が置かれていた。この久しぶりのピアノソロアルバムは非常にいい曲ばかりで、いろんな方に買っていただきたい名盤だ。また今年中にこの『ENCORE』と対になったピアノソロアルバム『Piano Stories IV』も制作される予定だということで非常に楽しみである。

「その中から… えー、この後のプログラム少し変わりました。「Last Summer」を。この曲は『千と千尋の神隠し』の冒頭に使われた曲です。それから「HANA-BI」、この2曲。両方とも『ENCORE』にも入っています。しかし今日はオーケストラと一緒なので、一緒に演奏します。

それから3曲目に「Quartet」という映画のメインテーマ。これは先ほども言いました、映画の初監督作品の曲です。この映画のオーケストラシーンなんかも、新日本フィルハーモニー交響楽団のみなさん、それから金先生も一緒に出て頂いてます。よく考えると、新日本フィルハーモニー交響楽団は、私が共演した初めてオーケストラであり、指揮の金さんとも一番はじめに共演した方で、今回のメンバーは本当に大好きな素晴らしいオーケストラであり、尊敬している指揮者です。改めてこのメンバーに拍手をいただきたいと思います」

会場からフィルのメンバーと指揮の金洪才さんに拍手が送られる。

「そして、最後の曲になります「Kids Return」、以上4曲を聴いていただきたいと思います」

にしても、久石さんは「Last Summer」とおっしゃっていた『千と千尋の神隠し』の曲だが、これは「One Summer's Day」なのではないだろうかなとちょっと首を傾げてしまった。もしかすると他の曲のタイトルとごちゃごちゃになってしまったのだろうか。あるいは改題したのか。その辺は分からない。

・One Summer's Day(あの夏へ)
久石さんの紹介にもあったとおり、ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲った宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』の冒頭に流れる、ピアノのメロディが綺麗な曲だ。前回のコンサート「SUPER ORCHESTRA NIGHT」でも演奏されたもので、アレンジはその時とさほど変わりがなかったが、ちょっと短めにアレンジされており、途中から曲調がアップテンポに変わるところはカットされていた。

・HANA-BI
北野武監督作品「HANA-BI」からのメインテーマ。この映画はヴェネチア国際映画祭のグランプリ金獅子賞を受賞しており、曲をどこかで耳にしている方も多いのではないかと思う。最初は静かでゆったりとした感じなのだが、徐々にメロディに力が入ってきて、サビの部分だと迫力満点の曲に変貌する。最近、良く思うことだが、この曲に限らず、一度映画などで作られた曲をアレンジしてコンサートなどで演奏されるたびに、なぜか曲のテンポが速くなってきているような気がするのは気のせいだろうか。この「HANA-BI」もサビの部分は非常にテンポが速くなっており、その分だけ、演奏するのに難易度が上がってくるのではなかろうかと思うのだが…

・Quartet Main Theme
久石譲初映画監督作品「Quartet」からメインテーマだ。元々サントラでは、映画自体が弦楽四重奏の内容を扱ったもののため、この曲は弦楽四重奏(※4)、まさにカルテットの曲になっているが、今回はオーケストラで演奏される。この曲も前回のコンサート「SUPER ORCHESTRA NIGHT」で好演された。出だしはまさに弦楽器でカルテットを組む出だしから、ピアノの音色が入ってくるスタイルになっている。にしても、弦楽器だけの演奏からオーケストラへと移り変わるだけでこれだけ曲の印象が変わるものなのだろうか。サントラでのバラネスクカルテットの演奏も本当に素晴らしいが、オーケストラアレンジされた新日フィルの演奏も素晴らしい。

※4 弦楽四重奏
第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロの4つの弦楽器による演奏形態のことを言う。さまざまな室内楽編成のなかでももっとも調和のとれた響きと豊かな表現力を備えており、余計な要素を削ぎ落とした音楽の一種の完成型でもある。(参考:Lycosディクショナリ・小学館「大日本百科全書」より)

・Kids Return
北野武監督作品「Kids Return」のメインテーマ。この曲も「SUPER ORCHESTRA NIGHT」でトリを飾った曲だ。「SUPER ORCHESTRA NIGHT」で初めてオーケストラアレンジされたこの曲は非常に好評を博し、当初今回のドコモ東北コンサートでは演目に入っていなかったが、急遽追加されたようだ。本当にこの曲は素晴らしい。非常にビート感の聴いた曲で、サビの部分の、弦楽器を中心とした壮大な音量は最後にふさわしいと言っても過言ではない曲だ。弦楽器と金管楽器、木管楽器のバランスも素晴らしく、おそらく、この曲はこれからのシンフォニックコンサートでは定番になる曲ではないだろうか。そして、曲のラストは大音量で「ジャーン!!」と会場内をオケの音色が響き渡る。


もちろん、それぞれの曲に拍手が送られたことは言うまでもない。この後、久石さんは舞台袖とステージを何度か行き来していたが、その間、会場からの拍手は途切れることはなかった。

そして、最前列を占拠してしまった僕らの中で花束を用意していた方が久石さんに花束を贈った。大きな花束を渡してひと言伝えた方や、時間がなくて造花を渡された方や…(笑) ちなみに私は今回は渡さなかった。地方だから花束を渡す方が少ないだろうと思ってしまい、少し恥ずかしさが先行してしまったからだ。ただ、傍目から見ているとやはり羨ましい。

久石さんが花束を全て受け取った後、最後に受け取った花束を頭上に掲げ、会場に答えていた。拍手がまたまた強く鳴り響く。そして、久石さんがピアノの前に座ると、その拍手もボリュームを下げていった。

 

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