振られるタクトからの導き

「ジィィィィー」

音楽の会場内には似つかないようなブザーが鳴り響き、開演のアナウンスが伝えられる。また、ステージ上は照明が強く輝きだし、明るい空間を作りだしていた。

すると、ステージの両袖からチェリストのメンバーが入場してきた。会場から拍手が送られる。この郡山公演では、元々チェリストが9人にて行われる公演だったため、今回のコンサートの謳い文句「10人のチェリスト」と比べると1人少ない形となっている。ふと、チェリストの方々の服装を見てみた。男性のチェリストは全員ノーネクタイでの登場である。肩肘張らずに曲を聴いて欲しいという一種の演出だろうか。

本日のコンサートマスターである近藤貴志が、ピアノの鍵盤にそっと触れる。そうすると、それぞれのチューニングが始まるわけだ。このチューニングでも、チェロの綺麗なハーモニーを感じ取ることができた。チェロの音色というのはじっくり聴いてみると、本当に優しい音色だというのが分かる。確かに迫力があるけれども、逆に何かを包み込んでくれる、そんな音色でもある。

チェリストたちのチューニングが終わり、コンサートマスターの近藤貴志が舞台袖に向かってちょっと合図をされた。いよいよ、久石譲その人が登場である。

より強い拍手が久石譲に送られる。コンサートの主役の登場だ。その出で立ちは藍色のスーツ上下で、そのスーツには雨だれのような青色の模様が縦に入っている。そしてスーツの下は紺色のTシャツを着込んでいただろうか。久石譲はまず、コンサートマスターの近藤貴志と握手し、また他のチェリストと「今日もよろしく」といった感じで目配せをすると、客席に向きなおし、会場に向かって深くお辞儀をした。

…と、早速一曲目に突入のはずだが、久石譲はピアノの前には座らず、譜面台の前に仁王立ちし、構えの姿勢を取った。


・KIKI 〜映画「魔女の宅急便」より〜
宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」でおなじみである『海の見える街』という曲がチェロによって繰り広げられる。港町をカモメとともに飛ぶ様子がメロディに乗って思い浮かべることができるゆったりとした曲だ。明るい曲調を考えるとチェロに不向きのような気もするが、ゆったりとした雰囲気を出しつつ、久石譲のアレンジよってチェロ向きの曲へと魔法をかけられたと言っても良いのかも知れない。この曲は久石が指揮に徹し、チェリストに指示を送る。

最初の曲が、世界的にも人気が出てきつつあるスタジオジブリの作品で使われたものであり、その上、この映画の監督があの宮崎駿であるため、一般のファンのみなさんにも最初から楽しめたのではないだろうか。小さいお子さんなども来ており、コンサートの最初の曲としては、大成功ではないかと思う。


・谷への道 〜映画「風の谷のナウシカ」より〜
引き続き久石の指揮にて曲が披露される。この曲も宮崎駿監督作品である。曲の方は、元の楽曲でもチェロがふんだんに使われており、全く違和感なく聴くことができた。それにしても、この楽曲に限ったことではないが、チェロのみで演奏されているとは全く思えない。確かに高音部分については、ヴァイオリンと較べてしまうと若干の低さはあるが、それを差し引いて考えても、チェロの表現力には圧倒された。か細く泣くかのような高音部の音色と、バックで支える伴奏の低音部とが同じ楽器で表現されているとはとても考えられない。しかし、それが目の前で繰り広げられているわけだ。

 

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