Castle in the Sky
コンサートマスターの豊嶋さんがピアノの鍵盤を弾き、それぞれフィルのメンバーが音あわせに入る。しばらくは様々な楽器の音色が会場内に響くが、程なく会場内の音が消える。それからどのくらい経っただろうか。静まりかえるステージ上に、満を持して音楽家・久石譲が入場してきた。会場から割れんばかりの拍手が起こる。続いて指揮の金洪才(キム・ホンジェ)さんも入場してきた。久石さんは、金さんそして新日本フィルハーモニーのコンサートマスター豊嶋さんと握手を交わし、会場の観客に向かって頭を下げられた。再び盛大な拍手が会場内に巻き起こり、ステージをこだまする。すると、久石さんはさっそくピアノの前に腰を下ろし、楽譜にジッと目をやり、ちょっとした頃合いを見計らって指揮の金さんとコンタクトを取り合い、最初の曲に入っていった。
・Castle in the Skyより… Prologue〜Main Theme
この曲は宮崎駿監督作品「天空の城ラピュタ」アメリカ版のサウンドトラックから、初公開の新曲である。アメリカ版というのも、ディズニーが徳間書店と提携し、スタジオジブリのアニメーションを世界展開させるため、まず「もののけ姫」と「天空の城ラピュタ」をアメリカで公開をしようとしたものなのだ。そのため、アメリカに適するようにラピュタの音楽を、久石さん自身が再アレンジを施した。しかし、「もののけ姫」があまり振るわなかったことと、アメリカ国内のアニメーション映画の興行不振が重なり、アメリカ版「天空の城ラピュタ」は、現在のところお蔵入りになっているのだ。そんな中で、音楽は先駆けての公開となる。
で、トップの曲は、ちょうど映画の冒頭の空中海賊のドーラ一家がタイガーモス号という奇妙奇天烈な乗り物に乗って、ヒロインシータのいる豪華飛行客船を襲う場面からを思い起こしてもらえると良いと思う。
実際の曲の方だが、出だしは全く映画と違う。良く耳を凝らして聞いてみると、映画で聴き慣れたメロディが含まれていたりするのが分かるが、序盤は全く違う曲に感じる。そして途中から、映画でいうところのヒロイン・シータが飛行船から落ちてしまった後に流れるメインテーマ「空から振ってきた少女」の美しいメロディがピアノから流れ出す。美しい。全く美しすぎる。最初の曲で思い切りやられてしまった、そういう感覚があった。思わず涙がこぼれてきそうな、そんな曲だった。
私くらいの年代だと、この「天空の城ラピュタ」という映画作品が好きで、この映画をきっかけに久石さんの音楽も好きになったという方も大勢いらっしゃると思う。私もその一人で、その小学生の時の思い出が蘇ってくるようでもあった。
・Castle in the Skyより… Levitation Crystal
「Levitation Crystal」というのは訳すと『飛行石』のことを言っているようだ。おそらくパズーとシータがドーラ一家に追いかけられるところから二人が地下坑道へ落ちていくシーンに流される部分の新曲ではないだろうかと思う。途中、ドーラ一家と坑夫がケンカをしているシーンに流れる、サントラに収録されているような知っているメロディも流れていた。でもそのような知っているメロディでもアレンジが変わっている。ここ最近の久石さんのオーケストラアレンジは金管楽器なども効果的に使うアレンジが施されており、非常にアレンジがパワーアップし、円熟味が増している。この曲が終わった後、久石さんが客席の奥の方に向かって、手招きをした。ふと後ろを振り返ると客席がぞろぞろと入場してきて、席に着き始めた。おそらく時間に遅れた客が入場できなかったようだ。にしても遅れた客が多すぎるような感じがする。この最初の2曲とも素晴らしいものだったのに、非常にもったいない。
・Castle in the Skyより… Castle in the Sky
映画のタイトルと同じ名前の曲だ。この曲の場面は、ちょうどパズーとシータがラピュタの中のお墓を見つける場面から流れてくる音楽だと思う。ただ曲の後半が大幅に付け足され、全く違った曲になっている。やはりアメリカで公開することを考えてか、ものすごく張りのある曲だ。特に出だしのピアノの音は素晴らしい。ちなみに、「天空の城ラピュタ」の英語題が「Castle in the Sky」で、なぜ「LAPUTA」という文字が抜けているのかというと、このlaputaというのはスペイン語ではあまり良くない表現らしいためで(「くろねこ亭」の情報より)、わざわざ外したようだ。
・Castle in the Skyより… A Huge Tree
これを訳すと「大樹」ということになるだろうか。この曲はおそらく天空の城ラピュタの裏のメインテーマといっても過言ではない曲だと思う。ラピュタに降り立ったパズーとシータが、城に広がる巨木を見上げている時に流れてくるメロディを想像していただけると良いだろう。ただ、やはりサウンドトラックとはまた違ったアレンジが施されている。これほどまでラピュタの曲が変わっていると、既成の楽曲と言うより、明らかに新曲と考えざるを得ない。にしても、本当に全く日本版「天空の城ラピュタ」と曲の感じが違う。特に先ほども述べたが、全体的に金管楽器が効果的に使われている感じがする。久石さんのアレンジも、「ラピュタ」当時を越えて、遥かにパワーアップしているということだろう。早く、このアメリカ版「天空の城ラピュタ」のサウンドトラックが出ることを願うばかりだ。