コンサート前半

15:04
    会場に入ったときから東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の皆さんが舞台裏で練習されていて、その音が私たちにも聞こえていたのですが、その中にも、私たち久石ファンにはおなじみの「Sonatine」など、披露される曲目のメロディーが時折聞こえてきていましたが、程なく時間が経つと音あわせをする楽器の音も無くなり、しばし静寂の時を迎えました。ただ、皆さんちょっと浮き足立っているのか、ちょっとざわついた感じもありました。

15:05
    そんな中、会場の照明が少し暗くなりました。本当に始まる、そんな感じを観客の全員が持った瞬間だと思います。会場が完全に静かになりました。

15:06
    すると、舞台にサリン事件共助基金の副委員長であり弁護士の木村晋介さん、そして今回の司会を務めるテレビ朝日のアナウンサー、堀越むつ子さんが出てこられました。会場から拍手が巻き起こりました。まず、今回のチャリティーコンサートの『サリン事件から丸5年、基金活動を知ってもらおうとチャリティーコンサートを開いた』という目的を話され、その後、堀越アナウンサーより、サリン事件共助基金で集めた、被害者の方々のアンケートの結果について話されました。事件の被害を受け、今もめまいや精神的な苦痛などの後遺症に苦しんでいる様子などが切々と語られました。また木村弁護士も、通常病院のカルテは5年保存が原則ということですが、サリン事件の被害に遭われた方のカルテはそれ以上の期間を保存して欲しいということを話されていました。また、今回のチャリティーコンサートの会場には麻木久仁子さんや、今回のコンサートの呼びかけをした永六輔さん、松本サリン事件の被害者である河野義行さんなどが来られているということです。会場で手渡されたパンフレットによると、今回のチャリティーの呼びかけ人は21人もの方がおり、それだけ「サリン事件」の重大さみたいなものを感じます。そして、今回の収益金の使い道についての話をされると、木村弁護士と堀越アナウンサーは退場されました。

15:13
    すると音楽の準備が始められ、照明も明るくなり、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の方々が入場してきました。その中のヴァイオリン奏者の中に外国人の方がお一人いて、白髪の姿がかなり目立っていましたが、そんなことは特に関係ないですね(笑)。で、東京シティ・フィルのヴァイオリン奏者のお一人(たぶん、フィルのキャプテンみたいな人だと思います)が立ち上がり、ピアノの鍵盤を弾いて、それに合わせて一斉に音あわせが行われました。それも30秒くらい経つと音あわせも終わり、会場が完全なる静寂に包まれました。本当に物音がしません。

15:15
    全く音の無い会場に、「コツコツ」と足音が舞台袖から聞こえてきました。久石さんと指揮者の金洪才(キム・ホンジェ)さんがやってきました。会場中から盛大な拍手が送られます。久石さんは舞台中央で、真正面を見ながら深々と一礼をされました。そうするとすぐにピアノの前に座りました。いよいよ一曲目です!

    「水の旅人メインテーマ(作曲・編曲 久石譲)」が始まりました。よくよく聞いてみると久石さんのソロアルバム「地上の楽園」の『HOPE』という曲が、この水の旅人のテーマだったんですね。水の旅人のテーマは一度、98年の日本テレコムのコンサートをラジオで聞いただけだったため、メロディーは頭に残っていたのに何の曲なのかそれまで全然思い出せませんでした。どこかで聞いたメロディーだなあと思い、ずっとなんだろうなあと思っていたんですが、この日をもってこの疑問は解消しました。で、肝心の曲の方は、出だしがゆっくりとやさしい入りでした。徐々に演奏にも力が入ってきて、オーケストラならではの迫力のある演奏に変わってきました。ただ残念なことに、このときのピアノに備え付けてあったマイクのヴォリュームが低かったのか、ちょっとピアノの音が弱めでした。ただ、久石さん自身は東京シティ・フィルの奏でる音を非常に気に入っており、演奏中にちょっと手を休める場面でも笑顔でオーケストラに聞き入り、また音楽の抑揚を身体で表現していました。もちろん、ピアノを弾く場面でも、曲に入り込んでエモーショナルに弾くというスタイルは何ら変わりありませんでした。演奏が終わると椅子に座りながら、観客に向かい一礼し、また東京シティ・フィルの方々にも拍手を送られていました。

水の旅人 大林宣彦監督の映画作品。一寸法師がタイムスリップして現代にきてしまい、偶然あった子供とさまざまなことに遭遇するという話。
地上の楽園 久石氏のソロアルバム。1994年の作品で非常に制作に苦労したもの。ダーク感のある作品で、氏の中では異色の一枚。


    1曲目が終わると間髪いれず次の曲が始まりました。「水の旅人 For You(作曲・編曲 久石譲)」です。フルートとチェロのソロがかなりある楽曲で、久石さんのピアノは出だしで伴奏に徹し、中盤では「WORKS I」とアレンジを変えてピアノがソロで出てくる場面もありましたが、最後はフルートとチェロで終わるといった感じになっていました。この曲でも久石さん、満足のいく表現が出来たようで、椅子から立ち上がり、ソロを披露したフルート奏者の方、チェロ奏者の方に拍手を送っていました。ソロのお二方も立ち上がり、客席に向かって一礼をされました。もちろん会場は拍手のあらしです。

水の旅人「For You」 本文中に書いたように、1997年に発売された「WORKS I」に同曲が入っています。


    そうすると、司会の堀越アナウンサーが舞台袖からあらわれ、演奏が終わったばかりの久石さんと並んで話を始めました。最初に、堀越アナウンサーから久石さんの説明がなされました。宮崎駿監督や北野武監督の映画音楽のことや、長野パラリンピックのプロデューサーをしたことなどなどこれまで久石さんがやってきたことを話されました。

    そして堀越アナウンサーが久石さんに地下鉄サリン事件について、どのように感じたかと聞かれました。

「5年前のことは他人事(ひとごと)ではありませんでした。いつ自分に降りかかるか分からないですし。例えば、ある中年の男性がいるとします。もし結婚しているとすると奥さんがいます。そうすると子供もいる。おじいちゃん、おばあちゃんもいる… 一人の人間にそれだけの人間関係があるんです。一人の人間にそれだけのつながりがあり、いつ自分の事になるか分かりません。とても他人事ではないです。」

そう話されました。そう、いつ自分の身に降りかかるか分からない。そう考えるととても他人事とはいえませんよ。続けて堀越アナウンサーが久石さんに「チャリティーコンサートは今までやったことがありますか?」と聞かれました。

「ないです。私にチャリティーをして欲しいです(笑)。」

    このひと言で会場には笑いが起こりました。ま、コテコテのジョークなんですが(笑)。「とにかく、今回のコンサートを楽しんでいただければと思います。」とそれに続いて話されました。今回、久石さんはパンフレットにも『チャリティーコンサートを決起集会とはしたくない。被害に遭われた方に、少しでも心休まるひとときを提供できれば、と思っています。』というコメントにもあるように、チャリティーコンサートだからといって肩肘を張らずに普段と変わらないコンサートとして楽しんで欲しいという考えが久石さんのお話から感じて取れました。と、ひと通り話された後、久石さんと堀越アナウンサーは退場されました。

    久石さんが話をされていた最中、舞台の配置換えがされており、ピアノが奥に片付けられ、椅子が一つ用意されました。そうすると、緑のドレスを身にまとったチェロ奏者の藤原真理さんと、指揮の金洪才さんが舞台にやってこられました。もちろん、またまた拍手でお二方は迎えられました。今度の曲は「チェロとオーケストラのためのナウシカ組曲(作曲 久石譲/編曲 千住明)」です。久石さんのピアノはなく、藤原真理さんのチェロのソロを楽しむといったおもむきの計5楽章の組曲になっています。

チェロとオーケストラのためのナウシカ組曲 これは、1998年の日本テレコム「Super Sound of Joe HISAISHI」で披露されたものです。このコンサートは東京・福岡・仙台(だったと思います…)を回線でつなぎ3会場をやり取りしながらのものでした。もちろんプロデュースも久石氏でした。


    最初に「風の伝説」、そして「はるかな地へ」「レクイエム」「遠い日々」「谷への道」との順で演奏されていきました。で、よくよく見てみると藤原真理さんは楽譜なしで演奏をしているんですよ。全て頭にインプットをされているようで、さすがプロだなと感じました。普通、楽譜がないと少し不安を感じるのではないかとシロウトなりに思うんですが、そんな不安なんて全然ないのでしょうね。で、藤原真理さんの演奏は本当に抑揚のある音色を醸し出しており、柔らかい音色だなと感じ入っていると急に攻撃的で荒々しい音に豹変したり、またやさしくなったりという感じで、非常に音楽の表情が豊かでした。また、藤原真理さんも久石さん同様、曲に入り込んで身体を前のめりにしながら、あるいは身体を左右に揺らしながら演奏するというのもしばしばでした。何かこう表現したら失礼かもしれませんが、ヨーヨー・マをほうふつとさせるような感じがありました。それにしても、今回の『ナウシカ組曲』の編曲はドラマなどの作曲で知られている千住明さんが行っていて、非常に曲調がソフトで藤原さんのチェロの音色とマッチしており、とても良い感じでした。久石さんのはもっとアグレッシブで、かつハッキリとした曲調で、僕はそっちが好きなんですが、千住さんのもそれはそれで素晴らしいものだったと思います。5楽章の演奏が終わると、藤原さんは指揮の金洪才さんと、東京シティ・フィルのヴァイオリン奏者の方と握手を交わし、客席に向かって頭を下げて退場されました。もちろん、会場の拍手は最高潮に達し、なかなか鳴り止みません。その拍手に答えるように藤原真理さんは再び舞台に現れもう一度深く一礼をして退場されました。

15:50
ということで、以上が前半の曲目でした。これから休憩に入ります。休憩の間、nezさんのフォーラムに来られている方々(渋谷さん、NANAさん、icemanさんなどなど)と舞台そでのすぐ下のところでお話していました。ま、今回のチャリティーコンサートでの目的(募金を渡すことと、久石さんに色紙を渡すこと)に関する話とか、コンサート前半に関する感想などを話していたと思います。とまあ、いろいろ話していると時間があっという間に過ぎ去り、すぐに後半の始まりを迎えることになりました。

 

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