冒険の時!(コンサート前半)


    この時期にお決まりで何かをやっているっていうのは誰でも何かしらあると思いますが、最近の僕自身の夏のお決まりと言えば、「ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界」を聴きに行くって事でしょうか。

    ということで、いつものごとながら、今年もドラゴンクエストのコンサートを鑑賞してきました。今回は「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」がプログラムされてました。このIIIはやはりシリーズ中でも人気が高い作品のうちの一つで、ゲーム自体も評価が高いし、また音楽も非常に評価が高いというのは、ちょっとゲームをかじったことのある方であればご存じだと思います。僕自身も、IIIのゲームも音楽も、非常に好きなものが多いです。

    ということで、楽しみにしながら会場である東京芸術劇場(池袋)へ向かいました。今回は当日券もなく、チケットが完売されたそうです。IIIという作品の魅力ゆえの出来事なんでしょうね。回りを見渡すと同年代の方が非常に多い印象も受けました。

    で、前置きはともかく、会場に入ってみました。このホールに何回来たんだろう? 1、2、3… たぶん今回で6回目でしょうか。ずいぶん来たものだなあ、池袋には(笑)。ホールの説明は他のレポートで何度も書いているので、ここでは割愛しますが、とにかく東京芸術劇場と言ったら、大きな回転切り換え式パイプオルガンです。今日もクラシックスタイルのオルガンになってました。現代スタイルのオルガンもかっこいいんですよ。一度、機会があったらみてくださいね! そして天井の高いこのホール、いつもの東京芸術劇場そのものでした。あ、そうそう、天井といえば、天井からマイクがつり下げられていました。マイクが3ヵ所、計6本くらいでしょうか、セットされてました。ライブ盤が発売されるかも知れません。ちょっと期待ですね!!


    いよいよ開演の時間となります。東京都交響楽団(面倒くさいので「都響」と言いますね)の団員の方が入場するとともに拍手がなり始めました。このコンサートのちょっと前に行った久石さんの「World Dream Orchestraコンサート」ではフィルの方々への拍手がなかったんだよなあとちょっと残念に思いながら、都響の皆さんに拍手を送ります。そしてゲストコンサートマスターの深山さんの入場。一層力強い拍手が鳴り響きます。そして、おまじないのようにいつものコンサートで行われる音合わせ(チューニング)です。チューニングが終わって、静かになった会場にすぎやまさんが颯爽と入場されました。割れんばかりの拍手です。そんな中、幾方向かに向かってちょこっと会釈をするような感じのお辞儀をされてから指揮台に向かわれます。いよいよスタートです。

・ロトのテーマ Roto
   
ドラゴンクエストと言えば、この曲となるんですが、よく考えてみると僕はロト編の序曲は生で聴いたことはなかったんだなあということに今、気付きました。知らない人がいるかも知れないので説明すると、ドラゴンクエストは第3作までが「ロト三部作」、第4作から第6作までを「天空編」、第七作以降は…なんだか分かりませんが(笑)、ちょうど第4作から話が全く変わったことから、序曲の前奏的な部分であるファンファーレが変わったわけです。そんなわけで、僕はこれまでは天空編以降のトランペットファンファーレの序曲しかコンサートでは聴く機会がなかったんですが、今回は第3作までに使われたホルンのファンファーレの序曲を聴くことができました。この時点から、「懐かしいなあ」という思いに駆られます。多くの人は、僕と同じような感覚に浸ったことでしょう。そして、なんといっても都響の演奏が素晴らしかった。ファンファーレなども音が安定していてよかったですし。


    いつもの事ながら、盛大な拍手の後の開口一番は自己紹介から。「どうも、こんばんは! すぎやまこういちでございます。」と第一声を発されました。その後、ゲストコンサートマスターの深山さんの紹介と、都響の紹介をされました。特に都響の説明には時間を割かれていました。
    東京に拠点を持つオーケストラはいっぱいあって名前がちょっと違うと、全く違うオーケストラになってしまうという話がありました。「東京フィルハーモニックオーケストラ」とか、いろいろややこしいですからね。すぎやまさん自身、雑誌などの取材の際にロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の話をしているのに、後から記事などを確認してみると「ロンドンシンフォニー」となっていたりするなんてことを苦笑いをされながら話されていました。

    そうなんですよね。オーケストラの名称って微妙なところがあります。僕なんかがよくコンサートで聴かせてもらっている「新日本フィルハーモニー交響楽団」なんかは、「新」を抜いちゃったらえらいことになりますからね(苦笑…「新日本」と「日本」は元々同じオーケストラでゴタゴタがあって分裂してしまったらしいので…)。そう、某有名企業がキャンペーンで「新日本フィルハーモニー交響楽団」のコンサートを開いたときに、「新日本フィルハーモニー管弦楽団」と名称表記しちゃってたこともありました(苦笑…僕のコンレポにあるコンサートでの出来事でした)。

    そうそう、もう一つ都響の話をされていました。都響は「東京都」のオーケストラなんだという点。東京都民のオーケストラということを強調されてました。ベルリンフィルなどの歴史のある有名楽団なんかがもしつぶれることがあったら、その時のベルリン市長は落選してしまうだろうなんて話をしていました。そんな話を枕詞にして、都響は素晴らしい楽団だから、絶対に潰すようなことがあってはならないし、これは政治家の方々は文化的なものに対して頑張って守ってやって欲しいということを話されてました。すぎやまさん、一都民として石原都知事に意見をするような感じでおっしゃってましたよ。ホントに、都響のことを逐一話に挙げられてバックアップするような発言をされていたのが印象的でした。

・まどろみの中で Prologue
   
この曲はスーパーファミコン版にリメイクされたときに追加された曲。クラリネットの音色が響き渡ります。そういえば、ゲームの出だしでいろいろ質問されたよな、なんて思い出しながら聴き入っていました。

・王宮のロンド Rondo
   
この王宮系の曲は、弦楽器が使われることが多かったりするんですが、そのストリングス(弦楽器)の演奏の動きがピッタリ一致しているところが非常に心地よかったです。ストリングスのために書かれたような曲で、途中ヴァイオリンソロをコンサートマスターの深山さんが披露されているところがまた良かったですね。素早い弓裁きは、本当に華麗でした。それにしても、ホント、弓の動きがみんなピタッとはまるから面白いものです。


    「王宮のロンド」の演奏が終わった後、「全然関係のない話になってしまうかも知れないけれども…」という前置きをされてから、プロ野球再編問題の話をされ始めました。その中で、某球団のオーナー(後日辞任してしまいましたが…)が「たかが選手が!」という発言をされたことに対して苦言を呈されていました。この発言は昔の封建制度の考え方そのものだと。そんなことを考えると、「たかが選手」というのは現代に合わないぞ、という事を強くおっしゃってました。

・世界をまわる(街〜ジパング〜ピラミッド〜村) Around the World
    4曲がメドレーで連なる曲。前々からレポートで書いていますけれど、すぎやまさんの「街」を表す曲は非常に素晴らしいんですよ。このIIIでも、街の楽しげな様子がフルートなりストリングスなりの弾む曲調から表現されてます。街の中は、魔物から襲われることはないですからね。一息つけるなあと感じられるような曲のように感じます。

    「ジパング」は一昔前の日本を表した曲で、雅楽がベースになったものです。でも演奏はオーケストラなんですよね。トランペットが音を揺らしながら演奏したり、ストリングスのピチカート、コントラバスのバルトークピチカート、フルートがさも雅楽の篳篥やら横笛のような音色を出したりと、さまざまなものを活用されながらの演奏でした。コントラバスのバルトークピチカートとは、先の弦楽四重奏のレポートの際にも書いたんですが、弦を大きくはじいて指板に当てて雑音を出す奏法です。CDでリリースされているものでは普通のピチカートでの演奏のように聞こえますけど、このコンサートではその部分がバルトークピチカートに変わっていたようです。

    「ピラミッド」は、アラビアの雰囲気が漂う楽曲で、オーボエがそれにうってつけの楽器でしょうね〜 アラビアっぽいって感じがします。調べてみるとアラビアの民族楽器の中にスルナイという管楽器があって、後に改良されて音色が和らげられたものがオーボエになったのだそうです。とにかく、オーボエを中心に独特のメロディを何度も何度も繰り返すことによって、異様な雰囲気を醸し出しているように感じます。

関連 クアラルンプール日本人学校ホームページを参考しました
http://www.jskl.edu.my/pages/introduce-Malaysia.f/pages/11-1-1.html
http://www.jskl.edu.my/index.html


    「村」も街の曲と同様に安心できる感じがしますよね。街の曲では楽しさや朗らかさが出てましたけど、この「村」ではのんびり農村でたたずむという感じがします。

・ローリングダイス Rolling Dice
   
初演が昨年(2003年)の夏の名古屋のコンサートのアンコールで披露され、その後PS2版「ドラゴンクエストV」にそのアンコールされた演奏が流されています。この曲は、すぎやまさんの説明にもあったんですが、サイコロがコロコロコロと転がっていくところを、マリンバで表現されていて、楽しげでサイコロの目がどう出るだろうというハラハラドキドキするような気分にさせられます。昨年のコンサートでは非常にマリンバの音色が全面に出た演奏だったんですが、今回は多少強さが抑えられていて、オーケストラと一体になって、素晴らしい演奏をしてくれました。


    ローリングダイスの演奏が終わった後、またすぎやまさんが話し始められました。
    まず、先ほど書いたようにローリングダイスの曲の説明があったんですが、その後「ドラゴンクエストVIII」へと話題が及びました。なんとそこで、「ドラゴンクエストVIIIの作曲作業は、先週で全て成し遂げたっ!!」と力強く宣言されました。もちろんその発言で会場が大いに沸きます。楽譜も目方で2〜3キロくらいはあるんじゃないかとのこと。

    この後、実は爆弾発言をされているのを、コンサートが終わった後に気付きました。すぎやまさんの口から「今年中の発売に向けて頑張ります!」とのコメントが。スクウェア・エニックスからは今冬発売という情報しか出ていないんですが、やはりファイナルファンタジーシリーズの発売とのバッティングとかの兼ね合いで予想されるように、若干前倒しで今年中発売という線が濃厚なのでしょう。

    それと、作曲作業は終わって、これからPS2の音源に乗せる作業が待っているわけですが、その作業をするサウンドクリエイターの方たちがコンサートに聴きに来ているとのこともおっしゃってました。生の音を聴いて、ゲームに行かして欲しいとのこと。

    そんな発言をされたのち、前半最後まで続けての演奏が始まりました。


・冒険の旅 Adventure
   
多くの人は「待ってました!」というフィールドの曲が流されます。前奏から、ストリングスがハイテンションで音を響かせてくれます。今でも、コンサートマスターの深山さんが全身を使って弓を動かされる様が思い起こされます。そして、その後にトランペットなどによるメロディーが鳴り響く。それを指揮するすぎやまこういちという構図は、生演奏でないと分からないと思います。拳を握って、トランペットなりに指示をするさまは力強くて、その力強さが東京都交響楽団の音色として表され、壮大な大地を力強く歩み出す勇者たちの行進が目の前に繰り広げられている様子が手に取るように感じられました。

・ダンジョン〜塔〜幽霊船 Dungeon〜Tower〜The Phantom Ship
   
おどろおどろしい「ダンジョン」から演奏が始まった。怪しく鳴り響くフルートの音色と、揺れながら響くストリングス。今、NHK交響楽団版とロンドンフィルハーモニー版とを聞き比べてみたんですが、音程が少し変わっているような感じが… 後発のロンドンフィル版の方が音程が低くなって、よりおどろおどろしくなっているような感じです。今回のコンサートでも同じように音程が低く演奏されたと思うんですが、とにかく静かな出だしとなっており、まさに魔物に見つからないように、オーケストラメンバーの身体の動きが少なく、音も小さいなっているのかなというようなことが伺えました。それが徐々に大きくなって、音が鳴り響いていくというような感じになってきました。

    「塔」は、タイトルそのまま、魔物の巣窟となっている塔を慎重に様子を伺いながら詮索するさまが感じられます。「ダンジョン」は地中深くに入っていくさまが感じられ、「塔」は建物って感じを受けるのはなぜなんでしょう。やっぱり音階が高いためでしょうか。高い音を繰り広げつつ、怪しさを醸し出すうまさが光るような曲だと思います。それと、この曲は8分の7拍子や8分の5拍子などの変拍子が入っていたので、すぎやまさんは4拍子に半拍を入れ込んだような指揮をされていたのが印象に残ってます。

    「幽霊船」は、指揮と音の拍子が合っていなくて、「あれ?」という印象を受けたのがかすかな記憶に残ってます。現代音楽の技法を使われているそうで、拍と指揮があっていなくても良いみたいです。でも、これは演奏者は大変でしょうね。しかも同じメロディの繰り返しで、幽霊船の異様な雰囲気を表すところなんかも素晴らしいんですが、やっぱり演奏する方は大変でしょう。何ともなさそうな曲のようにサラッと演奏してしまうところは、プロのプロたる所以なのでしょう。

・戦いのとき Gruelling Fight
    この曲はスーパーファミコン用に移植されたときに新たに付け加えられた中ボス用の曲なんですが、ゲーム中で印象に残っている場面としてはオープニングに主人公の父オルテガが、魔物との戦いに敗れ火山の火口に落ちてしまう一戦を描く場面が思い起こされます。曲の冒頭で小刻みに揺れ動くストリングスの音色と、ホルンとトランペットの重く響く演奏は、人間と魔物の間に漂う一瞬の緊張感を表しているかのようです。特にホルンとトランペットの音色は魔物の声を表しているようで、戦闘の直前のやり取りを感じられます。

    個人的にこの戦闘曲がかなり好きです。この後演奏される「勇者の挑戦」も素晴らしくて甲乙付けづらいくらいです。もし、ファミコン版のドラゴンクエストIIIを作成していた当時にこの曲ができていたら、「勇者の挑戦」とラストボス用の曲を迷ったんじゃないかなと思うくらいです。

 

    そんな感じでコンサートの前半が終了となったんですが、会場の拍手が全然収まらず、前半なのにすぎやまさんがステージ上に一旦戻ってきて、観客に向かって会釈をされていました。前半からこれだけ盛り上がるってことは、観客側としてはそれだけ素晴らしかったという感情のバロメーターなんでしょう。

    そうそう、ちょうど僕は1階席のJ列(10列目)のステージに向かってやや左側の席だったんですが、その前のI列の真ん中のレーンにはドラゴンクエストの蒼々たる面々が揃っていました。中央に堀井雄二さん、ドラゴンクエストのプロデューサーの千田幸信さん、旧ドラクエ課であるスクウェアエニックス第9開発部部長の三宅有さん、そしてドラクエVIIとPS2版ドラクエVのアートディレクションと、PS2版ドラクエVの開発会社の社長でもある眞島真太郎さんもいらっしゃってました。話に聞いたところだと、2階席中央奥にはファイナルファンタジーの音楽でおなじみ植松伸夫さんもいらっしゃっていたようです。

 

  表紙へ戻る 次のページへ