パンフレットを広げて…

会場のブザーが鳴り、しばらく経つとゲストコンサートマスターの朝枝さんと、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが入場された。そして、さっそくコンサートの最初と同じように音あわせをする。そして音あわせが終わった後、ステージ上にはまた静寂が広がる。

そこに、再びすぎやまさんが颯爽と姿を現す。会場から拍手が送られる。その拍手の中、改めてゲストコンサートマスターの朝枝さんと固い握手を交わす。その後、すぎやまさんはマイクを手にとって、会場に向かって話しかけられた。

「(拍手に対して)どうもありがとう!!

もう、長い間『ドラゴンクエスト』とつき合っていて、この『ドラクエ IV 』も、もう10年も前の作品となります。そう考えると、本当に長いですね〜

それにしても、このクラシックのオーケストラコンサートというのは、本当に贅沢なものなんです。ロックのコンサートなんかは、とある体育館に2万人くらいの人を集めてやるけれど、クラシックの場合、そうはいかない。それをやろうとすると、PA(※1)を使うようになってしまい、生の楽器の音が聞こえなくなってしまう。大きくしても、今回のように2,000人くらいの観客が限界になってしまうわけです。

でも、クラシックの場合は、1回のコンサートでの観客の方は少ないんだけど、時間をかけて何回も回数を重ねることによって、全体の観客の数を増やすことができるんです。2,000人が集まるコンサートを10回やれば2万人になるわけですし。

ロックとかの場合は横の量(観客数)なんですが、クラシックの場合は縦に、いわゆる時間軸を基準に考えていくことができるのではないかと思っているわけです。

ベートーベンの交響曲第五番『運命』なんかは、これまでの間、何回も演奏されているから、どれくらいの人が聞いたかを考えると途方もなくなります。僕も、少しでもそこに近づいて、何度もコンサートを行い頑張りますので、よろしくお願いします!!」

すぎやまさんの言葉に、会場から暖かい拍手が送られる。

※1 PA (Public Address)
コンサートやイヴェントなどで、会場内に音声がちゃんと伝わるようにする音響機器の事。

「それでは、『恐怖の洞窟〜呪われし塔』から『海図を広げて』まで4曲続けて演奏します。」

・恐怖の洞窟〜呪われし塔 Frightening Dungeons〜Cursed Towers
この曲は、主人公が冒険をしていく先で出会う魔物の巣窟である、薄暗い洞窟や怪しげな塔をイメージして作られているものだ。

(恐怖の洞窟)
オーボエが怪しげなメロディラインを吹いてくれるナンバー。静かな曲なのだが、同時におどろおどろした感じで、どこかで魔物たちが、洞窟内に進入してきた主人公たちをつけねらう様を感じ取ることができるだろう。

(呪われし塔)
「恐怖の洞窟」が終わった直後に続くこの曲は、木管楽器がまずメロディラインを担当しており、同じ音形を何度も繰り返し、それが曲全体の恐ろしさと、圧迫感を誘いだす。

・エレジー〜不思議のほこら Elegy〜Mysterious Shrine
主人公が生まれ育ったと思っていた村で突如の惨劇が起き、幼なじみを亡くした上、自分の出生の秘密を聞かされるという何重ものショックから、強い悲しみの受けている場面で使用されたり、また仲間が戦いの末死んでしまったときに流れる「エレジー」と、旅の途中で出会う神聖な場所などに流れる「不思議なほこら」のこの2曲は、宗教的な側面から考えると非常に似てきそうな楽曲なのだが、実は似て非なる楽曲なのだ。

(エレジー)
出だしは弦楽器全体が揃って悲壮感漂うメロディを奏で、その後オーボエあるいはクラリネットがその後に続いていくような形。美しすぎるメロディに、すばらしい楽器の音色。けれど、それは永遠に続きそうな哀しい時間(ひととき)を表しているのだろう。

(不思議のほこら)
綺麗なヴァイオリンの音色から始まる楽曲。静かな場所に、あるいは目に見えない何かがあるのかもしれない、何かがいるのかもしれないというような雰囲気がある。そういう部分では「恐怖の洞窟」と系列的には似ているのかもしれない。が、全く怪しげな雰囲気ではなく、荘厳かつ不思議な感じがする綺麗なものであった。

・のどかな熱気球の旅 Balloon's Flight
フルートなどの木管楽器が楽曲の冒頭に聴かせてくれる音色は、本当にのんびりとゆったりと、そしてほんわかした旅を表すものとなっている。この曲は、気球に乗って、魔物のいない大空をのんびりと旅するところに流れてくる曲だ。

・海図を広げて Sea Breeze
その名の通り、海図を広げ大海原へ出航する様を描いたような曲。曲の出だしは弦楽器が主体となり、壮大な音の広がりを聴かせてくれ、その広がりが壮大な水平線の広がりをも感じさせてくれる。この曲は個人的には強く印象に残っており、CDとは全く違う感覚を受けた。生で聴くと、左右に音が広がり、イメージを立体化させられたような感じがしたのだ。決してパワフルな曲ではないと思っていたのだが、実際に聴いてみると力強い演奏を朝枝さんはじめ、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが奏でており、その音がひしひしと伝わってきた。

 

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