導かれし者たちへの賛歌

もちろん、「序曲」が演奏された後に、盛大な拍手が送られたことはいうまでもないが、若干拍手のタイミングが早かったような感じがあった。もう少し、「序曲」の余韻を楽しんでいたかった気分があったのだが… この点は、観客の皆さん、すでに感極まっている部分があるだろうから仕方がないことなのかもしれない。…いや、「かもしれない」ではなかった。最初の曲にもかかわらず、全く拍手が鳴りやまない。すぎやまさんが、マイクを持ってしゃべろうとしてもなかなか鳴りやまず、それほど拍手が鳴り響いていた。

「どうもありがとうございます!」

拍手を制するように、すぎやまさんは第一声を発した。会場から、また多くの拍手が寄せられる。

「1階席から3階席まですべて埋まり、本当にうれしい限りです!」

周りを見渡すと、ほとんど空席がなく、チケットが完売されたようだ。すぎやまさんも喜び、会場も喜び返して拍手をすると言ったところか。

「それではまず、今日、演奏してくれるオーケストラの皆さんを紹介しましょう! 神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんです!」

会場から、神奈川フィルの皆さんに対して大きな拍手が送られる。

「そして、ゲストコンサートマスターは朝枝信彦さんです!」

朝枝さんに対しても盛大な拍手が送られる。その間、すぎやまさんと朝枝さんがガッチリと握手をされていた。「今日もどうぞよろしくお願いしますね」というようなやりとりでもしていたのだろう。

「それでは早速、曲の方に行きたいと思います! ……ん?」

すぎやまさん、何かに気づかれたようだ。

「はいはい、待ってますから、早く席に着いてくださいね〜」

時間内にホールに入れることができなかった方が若干名いらっしゃったようで、すぎやまさんはその方々に気づいて、招いていたわけだ。

「では、『王宮のメヌエット』、そして『勇者の仲間たち』を続けて2曲お送りします」

すぎやまさんは、そういわれた後すぐにタクトを手に、指揮を始められた。

・王宮のメヌエット Menuet
王宮の優雅さを表すように、3拍子のゆったりとした弦中心の曲になっている。城の中の赤絨毯の上で、王子や姫たちがワルツを踊っている風景を思い浮かべてもらえると良いだろう。この曲の途中で、ゲストコンサートマスターの朝枝さんのソロが少し入ってきた。朝枝さんは、体全体を動かしながらヴァイオリンを弾かれており、非常にうまく、その音色は本当に綺麗だ。体全体を使って演奏されるのは、個人的には非常に好きで、音のみならず、画としても目に飛び込んでくる。その聴覚と視覚をフルに使って感じることができるものが好きなため、朝枝さんの演奏振りは非常に嬉しかったし、また楽しかった。これぞ、音像が結びつくといったところだろうか。

・勇者の仲間たち Comrades
この曲は、勇者と仲間になるべき、いわゆる「導かれし者たち」をフューチャーしたテーマ曲を一つにまとめた曲だ。

(間奏曲)
これは、ゲームの導入時に流される曲で、ドラムと弦のピチカートで、軽快に音色を響かせていく。

(戦士はひとり征く)
屈強な戦士が、果てしなく広がる壮大な荒野の中をただひとりで、歩み行く場面で流れる。決して力強い曲ではなく、この旅がどこに行き着くのか分からない一抹の不安を抱きながらのものだ。ホルンが柔らかくメロディを奏でることによって、その微妙な心情をうまく表現している。ホルンの後、弦楽器系統がメロディを奏でて、その不安をうち消しながら前に出ていこうといった感じが受け止められる。

(おてんば姫の行進)
日々、武術の修行に明け暮れている一国の王女が、おてんば振りを発揮して、お供のものと一緒に力試しの旅に出る場面で使われる音楽。トランペットが軽快に音を響かせ、そのトランペットの音色が踊っているに聞こえる。途中からオーケストラ全員での演奏に切り替わるが、それがまた非常に勇壮で、おてんば王女に不安はなし、というようなものが表現されているのではないだろうか。

(武器商人トルネコ)
武器を商売道具に、自分の店を夢見て頑張っている太ったおじさんが出てくる場面で使われる一曲。結局は、自分の店を手に入れるものの、伝説の武器を求めるという果てしなき夢を追いかけるようになる。この曲は、コントラバスがメロディを担当するという、非常に印象的な曲。コントラバスが曲の表に出てくることはなかなかないだろうが、おじさんが大きい身体を一生懸命動かし、汗をかいて働いている様子がバスの音でひしひし伝わり、なかなかコントラバスがいい味を出していた。また、開演前、ステージ上でコントラバスの演奏者の方が盛んに練習されていたのもこの曲だったのだ。

(ジプシー・ダンス)
踊り子と占い師の姉妹が、父の敵を探して旅をする場面で、姉の踊り子をフューチャーした曲。この曲は、ゲーム上では二人の姉妹がモンスターと遭遇した場面で使われているが、非常に情熱的な曲で、弦楽器を中心に、激しく、そして早く演奏される。まさに、燃え上がるような激しいダンスを彷彿とさせる。ゲストコンサートマスターの朝枝さんも身体を上下左右に揺らしながら、身体全体で曲を表現されていた。

そして、この「ジプシー・ダンス」の終わり際に朝枝さんのヴァイオリンソロがあった。その演奏は、おそらくCD化されている曲のソロと比べると、雰囲気がずいぶん違っていたような記憶がある。これは表現をされる方によって、多少曲の解釈も変わるため、私たちがこの曲を聞いたときの印象が変わるのであろう。もちろん今回の朝枝さんの演奏は非常にすばらしかった。ちなみにこのソロの間、すぎやまさんはタクトを振られていなかったのも私の記憶の中に残っている。ただ、惜しむらくは、このソロの場面で観客席から、咳が聞こえたこと。静かなヴァイオリンソロの場面で、咳が目立ってしまったように感じた。

(ジプシーの旅)
踊り子と占い師の姉妹の妹である占い師をフューチャーしたもの。鉄琴や弦楽器のピチカートなどで演奏されており、やはり敵討ちの旅ということで、悲壮感漂うような曲が披露された。

(間奏曲)
再び間奏曲で、最後を曲を締めるような形になる。

 

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