驚きのアンコール

    すぎやまさんがマイクを持たれたとき、この後何が起こるのか固唾を飲んでいた観客側は一気に静まりかえってしまいましたけど、「急に静かになっちゃったねぇ〜」とのすぎやまさんのひと言で再びドッと沸き上がりました。
    そして、早速すぎやまさんはアンコールをやると口にされ、再び僕を含め観客全員が沸き上がります。「曲名は……………言わない!」と去年のアンコール最後の曲に引き続き、曲名をベールに包みつつ、すぎやまさんはさっとオーケストラの方に向いてタクトを振り上げられます。観客側はどよめきやら茫然自失やらさまざまな反応が…(笑)

・????
    「序曲のマーチ」の説明の時に少し書いたんですが、去年はトランペットが3管(要するに3人)だったけど、今年は4管(4人)でものすごく伸びやかに演奏されてるという話をたまたま聞くことができたんです。
    この時、勘のいい僕は確信してしまいました(笑)。というよりも、去年のコンサートに来ていた人は「この曲をやるだろう」と思っていた方がかなりいるだろうと思いますけど。何せ、すぎやまさんは去年のコンサートで「金管のみなさん、楽譜を用意しておきますので、次回よろしくお願いしますね!」と言っていましたから、僕はずっと「演奏するものだ」と思ってました。
    でも、やっぱり驚いた方は多かったようです。最初のトランペットの勇壮なるファンファーレが流れ出した後、その曲に気づいて演奏中にも関わらず、「おぉ〜〜!?」という観客からの反応、どよめきが起こりましたから。
    そう、突如演奏されたこの曲は、「東京&中山競馬場 G1競走ファンファーレ」だったんです。通常、競馬場で手拍子に乗って流される曲が、コンサートで勇壮でゆったりと演奏されました。しかし、ファンファーレの終盤から、もう我慢しきれなくなった観客が拍手をし始めちゃいましたが…(笑)

    演奏が終わり、拍手が一段落すると、「いやぁ〜 こんなに盛り上がるとはねぇ〜 きっと悲喜こもごもの思い出がみなさん、あるんでしょうねぇ(笑)」とすぎやまさんはしゃべり始められました。
    その後すぎやまさんはいろいろとしゃべり始められました。東京競馬場や中山競馬場で使われているファンファーレや入場行進曲などなどは全てご自身で作られたとか、またこの競馬のファンファーレはドラゴンクエストIIIの作曲で忙しい中、書き上げたなんて話もされていた記憶があります。ちなみに、このファンファーレがいつ作られたものか調べがつけられませんでした。ファミコンのドラクエIIIなのか、あるいはスーパーファミコンのドラクエIIIなのか… いろんな情報を総合すると、おそらくファミコン版の1987〜1988年の頃なのかなあと思います。誰か、知っている方がいたら教えてください(汗)。あとはファンファーレのテンポが、競馬場だと手拍子につられて速くなってしまっているけれども、本来はもうちょっと遅いテンポをイメージしていたことなどなど。だから、本来のテンポでファンファーレを演奏してみたかったのだとか。

    また、いろいろ調べてみたんですが、競馬場での手拍子とか歓声ってあまり良くないみたいですね。馬は繊細な生き物だそうで、ちょっとしたことでパニックになったりするそうです。ましてやあの狭いパドックの中に閉じこめられた状態であの一種狂気に満ちた手拍子と歓声(ちょっと言い過ぎかも知れませんが…)では確かにそうかもなと思います。この際、ファンファーレを本来のテンポで演奏して手拍子しづらくさせてやるってのはどうでしょうか?(笑) しかもG1のファンファーレは変拍子なので特に手拍手しづらいし。静かにたたずむ観客が、競馬場で勇壮に演奏されるファンファーレを耳にし、みんな固唾を飲んで一斉にパドックが開かれるところを注目する様子、想像してみたいような気がします。自分たちのリズムを狂わさない、そんな猛者の集まる演奏者のみなさんはいないんでしょうか?

    ま、ちょっと脱線してしまいましたが、とにかく本来のテンポでのファンファーレを全て演奏されるということをおっしゃって、すぎやまさんは指揮に向かわれます。もちろんG1ファンファーレももう一度演奏です。

東京&中山競馬場 一般競走ファンファーレ
   
あまり競馬には詳しくないんですが、名前が冠されていないレースで使われるファンファーレのようです。トランペットが4人、同じメロディーモチーフを繰り返すところで、ホルン、トロンボーン、チューバ、パーカッションが変化をつけるような感じになっていて、最後徐々にテンポダウンして、綺麗な金管楽器の音が和音となってホールに響きました。

・東京&中山競馬場 特別競走ファンファーレ
    特別競走はG1からG3までのグレードの高いレース(重賞)以外の名前が冠されているレースのことを言うようです。その出走前に演奏されます。
    トランペットが途中まで一つのメロディーを奏でていき、それにホルン、トロンボーン、チューバ、パーカッションが合いの手を入れるような形でファンファーレが吹き上げられます。

・東京&中山競馬場 重賞競走ファンファーレ
    冒頭はトランペットが単独で小刻みにメロディを奏でていきますが、途中からトランペットのメロディが吹き上がる中、ホルン、トロンボーン、チューバのメロディが吹き下がっていく様は重厚感があります。

・東京&中山競馬場 G1競走ファンファーレ
    重賞の中の重賞、いわゆる最高峰のレースである「G1」の発送前に演奏されるファンファーレで、先ほど一度演奏されたものです。
    競馬場や、競馬のテレビ中継などで耳にされたことがある方は多いんじゃないかと思います。以前にJRA(日本中央競馬会)のCMでも流されていたような記憶もあるので、ドラゴンクエストの「序曲」と並び市民権を得ているファンファーレだと思います。
    このファンファーレもトランペットがメインとなって演奏されますが、さすがに最高峰のファンファーレだけあって、他のファンファーレのエッセンスを取り入れながらのものなんだなあというのに気づきました。まず「特別競走」にある合いの手の部分はもちろん、「重賞競走」のメインのトランペットのメロディが上がる場面で、他の楽器のメロディが下がるところがあります。そして、4分の4拍子から4分の5、4分の2、4分の5と変拍子が繰り広げられるなど、非常に複雑なファンファーレなんだなあと「KING OF TURF 2001」のCDジャケットに書かれてあるスコアを見ながら感じました(苦笑…さすがにコンサートで聴いたときにパッと分かりません。分かれば音楽家になれますね)。
    実際の演奏の方は、出だしのトランペットが少し不安定でしたが、その複雑なメロディを含んだそれぞれの楽器の音色がホール内をこだましました。他のファンファーレもそうなんですが、コンサートホールでこのファンファーレは本当に響きますね。ものすごく音がホールに響き、そして僕らの心にもあわせて響いてきます。これまでテレビの放送やCDでこのファンファーレを聴いてきましたが、やっぱり生は全然違います。本当に勇壮で、気高くて、誇り高いメロディがゆったりと目の前で響き舞っていました。後からCDでファンファーレを聴き直してみましたが、CDよりもテンポが遅くなっているようで、それがまた優雅に聴くことができました。ホントにインパクトがあった演奏だったと思います。

    もちろん、ファンファーレ演奏後はものすごい盛り上がり方でした。何か声をかけられていた方もいたように記憶してます。それこそ競馬場の歓声に近い雰囲気でした。
    すぎやまさんはマイクを持たれて話されはじめたんですが、アンコールでこのファンファーレをやると予想した人はあまりいなかったんじゃないかとおっしゃってました。でも、実は予想していた人はここにいたんですが…(苦笑)
    続けて、もう1曲アンコールをやるという話が出て、またまた拍手が起こります。その曲名をすぎやまさんが口にされたとき、会場から「おぉ〜」という驚きの声が挙がりました。そう、ちょっと僕もこの選曲は不意をつかれてしまいました。

・Love Song 探して Only Lonely Boy (ドラゴンクエストII 〜悪霊の神々〜より)
    曲が演奏される前、ヴァイオリン、ヴィオラの各奏者の方が全員、弓を手にされていなかったので少し気になっていたんですが、ピチカート奏法(弦を弓ではじいて演奏する方法)で演奏するこの曲が来るとは全く頭にありませんでした。
    ただ、この曲が演奏されるのには、なるほどなあという感じもあります。競馬のファンファーレは金管楽器とパーカッションでの曲だから、オーケストラの華でもある弦楽器が出る幕がない。そうなると、弦が主役となる曲は何かとなった時にこの曲が挙がったんだろうなあという予想がつくわけです。
    それにしても、ピチカートでの演奏でもかなりの音量が出るんだなあということに気づきました。しかもピチカートはおそらく複数の奏者が演奏を合わせるって難しいんだろうなあと思うんですが、ファーストヴァイオリン、セカンドヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスそれぞれが綺麗に音を合わせて演奏してました。この演奏の時はゲストコンサートマスターの深山さんを注目していたんですが、やっぱり華麗に弾かれているんです。お手本となるような演奏で、際立って目立つような動きはないんだけれど、品があるというか。とにかく全体的に凛とした演奏を聴かせてもらったと思います。

    「Love Song 探して」が終わった後、さすがにこの曲で締めないだろうと思った方、大勢いると思います。僕もそのひとりでした。「まだあるよね?」と祈るような願いを持ちつつ、ずっと拍手してましたよ。最後は「ジャーン!」と終わる曲を聴きたいじゃないですか、僕らとしては。でもやっぱり、そこはすぎやまさん。ちゃんと分かっていらっしゃいました。マイクを持たれて、「もうひとつ、戦闘の曲でジャーンとやりましょう!」と、ドラゴンクエストIIIの中ボスの曲『戦いのとき』が紹介されました。

・戦いのとき Grueling Fight (SFC版ドラゴンクエストIII〜そして伝説へ…〜より)
    この曲は、スーパーファミコン用にリメイクされた時に追加された曲で、キーポイントとなる強敵と対峙したときに流れてきます。個人的にこの曲は非常に聴きたかった曲なんです。生で聴くと迫力があるんだろうなあという気持ちをずっと持っていたので、この曲が演奏されると分かったときは「おぉぉ!?」という感じでした。
    …が、舞い上がりすぎてしまい、あまり良く覚えていないんです。ただ、小刻みだけど激しく弾かれている16音符続きのヴァイオリンの音色と、その一挙手一投足の奏者の映像が頭に思い浮かびます。あの小刻みな弓の動きが全て統率されている軍隊のように揃っているんです。この動きは生のコンサートしか味わえないと思います。
    その後、金管楽器や木管楽器、ティンパニが活躍していきます。だんだんクレッシェンドしていくところなどは、全楽器が大音響で演奏していてその音が身に染みるようでしたから。やはり予想どおりの迫力ある曲でした。


    この曲が終わった直後、僕は拍手をしながら「はぁ〜、終わってしまった〜」という感じだったんですが、何かステージ上の様子が変なんです。いや、すぎやまさんがステージ上と舞台袖を行き来していたのは普通なんですが、観客に向かってお辞儀したり、手を広げたりといろいろパフォーマンスをされた後、何かマイクを手に取られたんですよ。あれ、もう終わりだろうに、と僕は思っていたんですが…
    何とも、チケットの発券ミスから席のダブルブッキングが発生したようで、同じ席のチケットを持った方が何人か出てしまったそうです。その方たちの席がすぐに用意できなくて、1曲目の「序曲」を聴くことができなかったようです。その方たちにお詫びをということで、再び『序曲』を演奏したいんだけれど、どうだろうかという話をされました。驚きましたよ。また『序曲』が聴けるなんて毛頭に無かったですから。全然オーケーです! すぎやまさん、ちょっと茶目っ気が出て、フィルのみなさんに対して「過重労働になっちゃうけど、1曲お願いね」と話されたり、「じゃ、最初の序曲が聴けた人は出ていってもらって、聴けなかった人たちだけに聴いてもらおうかなあ…なんてね」という話をされて会場大ウケでした。そんなわけで、初めて、ドラゴンクエストのコンサートで一番最後に流されるであろう序曲が演奏されます。

・序曲のマーチ Overture
    やられました。もうそのひと言しかないです。しかも演奏も申し分なく、完璧でした。曲はもちろん一曲目と全く変わらないんですが、やっぱり最初と感じ方が違いますよね。一曲目でかなり褒めまくっているんですが、最後のこの曲はそれ以上でした。とてもじゃないけれど言葉にできません。
    にしても、本当にこの『序曲』が最後に来るとは思いませんでした。「『序曲』に始まり、『序曲』に終わる」なんて、ホント気持ちいいというか、貴重な経験をさせてもらったなあという感じです。一曲目の説明の時に「最初良ければ全て良し」と書きましたけど、最後もかなり良かったです。ダブルブッキングよ、ありがとうという感じで…(苦笑…運悪くダブルブッキングに遭遇された方には申し訳ないんですが…)
    しかも、アンコールの相場は通常2曲なんですよ。それなのに「東京&中山競馬場ファンファーレ(これは一連の曲として1曲)」「Love Song 探して」「戦いのとき」「序曲のマーチ」と4曲の椀飯振舞い(おうばんぶるまい)ですよ。これまで、さすがにこれまで鑑賞したコンサートの中で、アンコールを4曲やったものは無かったので驚きでした。


    そういうことで、今度こそ本当の終わりなんですが、拍手が全然止みません。すぎやまさんがステージ上と舞台袖を何度も行き来して、会釈したり、ありがとうというジェスチャーをいろんな形でやったり、フィルのメンバーに「よかったぞ」というジェスチャーをされたり、ゲストコンサートマスターの深山さんと握手を交わしたりしていたんですが、それでも止みません。4回ぐらいすぎやまさんは行き来されたでしょうか。さすがにこれはなかなか拍手が止まないぞと見たか、すぎやまさんと深山さんがステージ上で作戦を練られていたようです(笑)。「私が今度退場したら、君が指示してフィルのみんなを退場させるようにね」「わかりました」みたいなやりとりがあったんでしょうか、お二人とも拍手を身体に浴びながら、何やらお互いに目線をあわさずにひそひそと話されていました。この作戦で、フィルのメンバーも退場し、ホール内の照明も明るくなってコンサートが終了したんですが、拍手がなかなか止みませんでした。ホール内に「本日の公演は全て終了しました…」というアナウンスがあってもなかなか止みませんでしたよ。

    今回のコンサートは本当に良かったです。「ドラゴンクエストV 〜天空の花嫁〜」は一見地味なゲームだし、音楽も地味に思われたりするかも知れません。でも、演奏も素晴らしかったし、やっぱりVも実は名曲揃いなんだということを改めて感じさせてくれました。
    それに、もうそろそろ「V」もリメイクされる時期なのではないかなと期待していて、何かもう一度、「V」を遊んでみたいなあという衝動に駆られています。すぎやまさんのいう「家族愛」をもう一度体験してみたいんです。最初に遊んだのは現時点(2003年)だと11年前の中学生の時ですからねぇ〜 もうそんなに経っているんだなあとちょっと、しんみりとなってしまうんですが、その当時、心に抱いていたことを思い起こしながら、スーパーファミコンを引っ張り出してこの作品をやってみたいですね。

    そういうことで、コンサートレポートは以上でした。読みづらい点が多々あったと思います。また、「これ、感想や報告じゃねぇだろ? 単なる曲説明じゃないか!」というご批判も多々あるだろうと思います(汗)。僕の記憶量には限界がございまして、しかもこの時期のスケジュールが非常に厳しくて(仕事はもちろんのこと、久石さんのコンサートも入っていたんです…汗)、集中してレポートが書けませんでした。…が、それなりのものがまとまったと思います。
    また、このレポートを書き上げるに際して、レポートの表紙にも書いてあるとおり、みぎーさんが書かれたコンサートレポートをかなり参考にさせていただきました。この場を借りてお礼いたします。ありがとうございました。
    それと、若干内容の間違いなどがあるかもしれません。その時はどうぞご一報くださいませ。
    ホント、ここまで読んでいただきありがとうございました。また、多くの人たちと一緒にコンサートを楽しむことができればなあと願って、レポートを締めくくらせていただきます。それでは、また次回お会いしましょう!

2003.09.07  01:50 書き上げ
2003.09.07 15:05 一部訂正
2003.09.07 23:20 一部訂正
2003.09.09 23:40 一部訂正

 

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