第16回ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界 (from Be SUGIYAMANIA 2nd!!)

 いつも久石さんのコンサートレポートということで、この「Be Series!!」を書かせて頂いているのですが、今回は2年前に引き続きまして、ゲームソフトとして大変有名な「ドラゴンクエスト」のコンサートに行って来たことを受けて、「Be SUGIYAMANIA 2nd!!」を書かせて頂くこととなりました。

なお、今回のレポートの内容につきましては、必死に思い出しながら書いてはいるのですが、どうしても思い出せない部分も多々ありまして、一部フィクションになっている部分もあるだろうと思います。その辺りはご了承下さいませ。

また、いつもの通り、こちらのレポートと合わせまして、Be Series本家である「Be HISAISHIST!!」シリーズ(久石譲コンサートレポート)も合わせてお楽しみいただければと思います。

このコンサートの模様はライヴCDとして発売されております。

日時2002年8月28日(水) 18時から
会場池袋・東京芸術劇場
チケット全席指定 S席5,000円 A席4,000円 B席3,500円
出演者指揮とお話 すぎやまこういち
ゲストコンサートマスター 朝枝信彦
演奏 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
その他主催:スギヤマ工房
協賛:(株)エニックス (株)SPEビジュアルワークス
    三井生命保険相互会社
企画・構成:すぎやまこういち
制作:株式会社クリエイティブ”U”

曲目

交響組曲「ドラゴンクエストIV」 Symphonic Suite DRAGON QUEST IV

    序曲 / 王宮のメヌエット / 勇者の仲間たち(間奏曲~戦士はひとり征く~おてんば姫の行進~武器商人トルネコ~ジプシー・ダンス~ジプシーの旅~間奏曲) / 街でのひととき(街~楽しいカジノ~コロシアム~街) / 勇者の故郷~馬車のマーチ / 立ちはだかる難敵

    INTERMISSION 休憩

    恐怖の洞窟~呪われし塔 / エレジー~不思議のほこら / のどかな熱気球の旅 / 海図を広げて / ピサロ~ピサロが征く / 謎の城 / 栄光への戦い(戦闘~邪悪なるもの~悪の化身) / 導かれし者たち 

Encore
    亜麻色の髪の乙女(オリジナルバージョン) / 花の首飾り / そして伝説へ

前置きは短めに

(前書きですのでお急ぎの方は読み飛ばしを…)

2002年8月28日、東京・池袋にある東京芸術劇場大ホールにてドラゴンクエストのコンサートが行われる。私にとって、ドラゴンクエストコンサートは2度目の鑑賞となる。そして開場となる東京芸術劇場というホールについては、これまで数えると3回目ということになるだろうか。前回は、去年(2001年)12月の久石さんの「Super Orchestra Night」だったわけで、約9ヶ月ぶりに再来したということになる。

それにしても、この日は非常に蒸し暑く、ホテルにチェックインしてから会場にたどり着くまでに一苦労だった。そんな私の苦労は置いておくこととして、早速東京芸術劇場に足を運んだ。

会場内にある長いエスカレーターを上から見おろしたところ

相変わらずだが、東京芸術劇場のエントランスは大きい。特徴づけているのが、ガラス張りの屋根と、長いエスカレーターだろう。エスカレーターは大ホールがある5階の高さまで私たちを運んでくれる。

私が会場に着いたときには、当日券を求める人々が列を作っていた。当日券は本当に残りわずかしかないということで、並んだ人々が全員買えたのかは多少気になるところだ。その後は特に何もなく、時間が流れていく。

そうそう、今回のコンサートからコスチュームプレイは禁止ということになったのだそうだ。2年前はコンサートなのにコスプレをした方が多く、非常に驚いたのを覚えているが、やはり音楽会のメインは音楽。この禁止になったという事は仕方のないことなのだろう。しかし、開場されたあと、ドラゴンクエスト IIのサマルトリアの王子に扮している男性を見かけた。私はその時しか見かける事はなかったのだが、その後いったいどうなったのだろうか。

いつの間にか時間が過ぎ去っており、ふと周りを見渡すと、当ホームページと相互リンクをして頂いているみぎー工房のみぎーさんを見つけた。ご挨拶をして少し話をした後、ホール内に入った。

ホールに入った後、これまた当ホームページの掲示板に良くお越し頂いている雅子さんを見つけ、こちらもご挨拶する。

とにかく、ひと通りのことを済ませた後、いよいよコンサートが始まるのだ。

あでやかな音が奏でられる瞬間…

自分の席に着くと、ステージ上にはコントラバスや、ハープ、ドラム(パーカッション)などの奏者の方々がおり、黙々と練習をしていた。楽器が大きすぎて移動することが出来ないため、仕方がなくステージ上で練習をしているわけだ。聴いたことのあるようなメロディーが流れてきたりしていた。

会場内のステージとパイプオルガン

今回の東京芸術劇場大ホールは現代音楽用のパイプオルガンになっているが、ここのパイプオルガンは回転式で2つのタイプが使えるようになっている。もう一方のパイプオルガンは「Be HISAISHIST!! Volume.5」のレポートに載せてあるので見比べて欲しい。

会場内をいろいろと眺めていると、いつの間にかステージ上には誰も居なくなっていた。それとともに場内にはコンサートの開始を告げる放送が流れる。しかし、まだ会場は少々ざわつき気味ではあった。多くの人がドラゴンクエストコンサートの開始に興奮冷めやらないといったところだろうか。

しばらくすると、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが登場した。拍手で迎えられる。神奈川フィルのメンバーが着席された後、頃合いを見計らって、ゲストコンサートマスターの朝枝信彦(あさえだのぶひこ)さんが入場された。朝枝さんに対して、会場からこれまた盛大な拍手が送られた。

朝枝さんは、何というかバッハを思わせるような髪型、といったような表現をして良いのだろうか、少し長髪でメガネをかけていらっしゃった。そう、少し気になったことがあった。ゲストコンサートマスターの朝枝さんの椅子が、普通のパイプ椅子だったことだ。コンマスの方の椅子というのは、他の方と比べて少しグレイドの高いものを使うものだと思っていたのだが、今回は違っていたのだ。もしかすると、朝枝さん本人がパイプ椅子の方がしっくりくると感じて、敢えて変えなかったのかもしれないが、この辺は定かではない。

朝枝さんは会場に向かい、深く一礼をし、いったん椅子に座った後、すぐに立ち上がり神奈川フィルハーモニーの面々の方に向かってチューニング(音合わせ)を始めた。久石さんのシンフォニックコンサートの場合には、必ずピアノがあるので、コンサートマスターの方がピアノの鍵盤を弾いて音あわせるようになるのだが、今回はもちろんピアノが無く、コンマスの朝枝さんがオーボエ奏者の方と、それぞれの音色のトーンを合わせられ、その後神奈川フィル全員が音あわせをし始める。オーボエとヴァイオリンから始まり、他の楽器に音が派生していく過程は、何か非常に気持ちのいいものがある。チューニングが終わると、朝枝さんは着席をし、指揮者を待つわけだ。

そして、いよいよタクトを持ったすぎやまこういちその人が入場してくる。見た目はスラッとされた気の良いおじさんというような出で立ちだが、その中身たるや、すごいものを持っているのはすでにご存じの通りだろう。その人に、ものすごい拍手が会場から浴びせられる。”浴びせられる”といった表現が非常に適しているのではないかと個人的には感じられた。すぎやまさんはタクトを持って、会場の右手、正面、左手それぞれにちょこちょこと笑顔を浮かべながら会釈をされる。

会場の拍手が落ち着くと、すぎやまさんは指揮台に向かわれた。と、その前にまた、ふと気になったのだが、指揮台のとなりに、一つ黒いパイプ椅子が置かれていた。コンサート中に使われることは無かったのだが、おそらくすぎやまさんが体力的に厳しくなったときを考えて、置かれているものだろうと推測される。すぎやまさんは現時点(2002年)で御歳71歳。このお歳で、コンサートをスタンディングでフルに指揮をされる姿は、非常にパワフルだなと思わされる。

会場が静まりかえった瞬間、すぎやまさんの右手のタクトがスッと上がり、いよいよ最初の曲が始まった。

・序曲 Overture
ドラゴンクエストを一度はプレイされた方にはお馴染み、そしてドラゴンクエストをやられた事が無い方も一度は耳にされているであろうという曲、「序曲」が流された。2年前のコンサートの際は、すぎやまさんがサッと指揮を始められたせいなのかは定かではないが、トランペットが奏でる序曲のファンファーレが思い切り音割れを起こしていたのだが、今回は力強い響きのあるメロディを奏でてくれた。いつ聴いても、すぎやまさんのファンファーレはすごく栄える。ファンファーレは短いフレーズに、いろんなものを凝縮させるという非常に難しいものだと思うのだが、それぞれが非常にいい味を出しており、この序曲のファンファーレも非常にすばらしい。

私の座っている席位置の関係で、ヴァイオリンの音色が綺麗に聞こえてくるのだが、ヴァイオリンの非常に細かい音色の動きも非常にすばらしく綺麗に聞こえてきた。

そしてすぎやまさんの方に目をやると、左手で何かものを投げるような仕草でシンバルに合図を送っている姿が印象的だった。

導かれし者たちへの賛歌

もちろん、「序曲」が演奏された後に、盛大な拍手が送られたことはいうまでもないが、若干拍手のタイミングが早かったような感じがあった。もう少し、「序曲」の余韻を楽しんでいたかった気分があったのだが… この点は、観客の皆さん、すでに感極まっている部分があるだろうから仕方がないことなのかもしれない。…いや、「かもしれない」ではなかった。最初の曲にもかかわらず、全く拍手が鳴りやまない。すぎやまさんが、マイクを持ってしゃべろうとしてもなかなか鳴りやまず、それほど拍手が鳴り響いていた。

「どうもありがとうございます!」

拍手を制するように、すぎやまさんは第一声を発した。会場から、また多くの拍手が寄せられる。

「1階席から3階席まですべて埋まり、本当にうれしい限りです!」

周りを見渡すと、ほとんど空席がなく、チケットが完売されたようだ。すぎやまさんも喜び、会場も喜び返して拍手をすると言ったところか。

「それではまず、今日、演奏してくれるオーケストラの皆さんを紹介しましょう! 神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんです!」

会場から、神奈川フィルの皆さんに対して大きな拍手が送られる。

「そして、ゲストコンサートマスターは朝枝信彦さんです!」

朝枝さんに対しても盛大な拍手が送られる。その間、すぎやまさんと朝枝さんがガッチリと握手をされていた。「今日もどうぞよろしくお願いしますね」というようなやりとりでもしていたのだろう。

「それでは早速、曲の方に行きたいと思います! ……ん?」

すぎやまさん、何かに気づかれたようだ。

「はいはい、待ってますから、早く席に着いてくださいね~」

時間内にホールに入れることができなかった方が若干名いらっしゃったようで、すぎやまさんはその方々に気づいて、招いていたわけだ。

「では、『王宮のメヌエット』、そして『勇者の仲間たち』を続けて2曲お送りします」

すぎやまさんは、そういわれた後すぐにタクトを手に、指揮を始められた。

・王宮のメヌエット Menuet
王宮の優雅さを表すように、3拍子のゆったりとした弦中心の曲になっている。城の中の赤絨毯の上で、王子や姫たちがワルツを踊っている風景を思い浮かべてもらえると良いだろう。この曲の途中で、ゲストコンサートマスターの朝枝さんのソロが少し入ってきた。朝枝さんは、体全体を動かしながらヴァイオリンを弾かれており、非常にうまく、その音色は本当に綺麗だ。体全体を使って演奏されるのは、個人的には非常に好きで、音のみならず、画としても目に飛び込んでくる。その聴覚と視覚をフルに使って感じることができるものが好きなため、朝枝さんの演奏振りは非常に嬉しかったし、また楽しかった。これぞ、音像が結びつくといったところだろうか。

・勇者の仲間たち Comrades
この曲は、勇者と仲間になるべき、いわゆる「導かれし者たち」をフューチャーしたテーマ曲を一つにまとめた曲だ。

(間奏曲)
これは、ゲームの導入時に流される曲で、ドラムと弦のピチカートで、軽快に音色を響かせていく。

(戦士はひとり征く)
屈強な戦士が、果てしなく広がる壮大な荒野の中をただひとりで、歩み行く場面で流れる。決して力強い曲ではなく、この旅がどこに行き着くのか分からない一抹の不安を抱きながらのものだ。ホルンが柔らかくメロディを奏でることによって、その微妙な心情をうまく表現している。ホルンの後、弦楽器系統がメロディを奏でて、その不安をうち消しながら前に出ていこうといった感じが受け止められる。

(おてんば姫の行進)
日々、武術の修行に明け暮れている一国の王女が、おてんば振りを発揮して、お供のものと一緒に力試しの旅に出る場面で使われる音楽。トランペットが軽快に音を響かせ、そのトランペットの音色が踊っているに聞こえる。途中からオーケストラ全員での演奏に切り替わるが、それがまた非常に勇壮で、おてんば王女に不安はなし、というようなものが表現されているのではないだろうか。

(武器商人トルネコ)
武器を商売道具に、自分の店を夢見て頑張っている太ったおじさんが出てくる場面で使われる一曲。結局は、自分の店を手に入れるものの、伝説の武器を求めるという果てしなき夢を追いかけるようになる。この曲は、コントラバスがメロディを担当するという、非常に印象的な曲。コントラバスが曲の表に出てくることはなかなかないだろうが、おじさんが大きい身体を一生懸命動かし、汗をかいて働いている様子がバスの音でひしひし伝わり、なかなかコントラバスがいい味を出していた。また、開演前、ステージ上でコントラバスの演奏者の方が盛んに練習されていたのもこの曲だったのだ。

(ジプシー・ダンス)
踊り子と占い師の姉妹が、父の敵を探して旅をする場面で、姉の踊り子をフューチャーした曲。この曲は、ゲーム上では二人の姉妹がモンスターと遭遇した場面で使われているが、非常に情熱的な曲で、弦楽器を中心に、激しく、そして早く演奏される。まさに、燃え上がるような激しいダンスを彷彿とさせる。ゲストコンサートマスターの朝枝さんも身体を上下左右に揺らしながら、身体全体で曲を表現されていた。

そして、この「ジプシー・ダンス」の終わり際に朝枝さんのヴァイオリンソロがあった。その演奏は、おそらくCD化されている曲のソロと比べると、雰囲気がずいぶん違っていたような記憶がある。これは表現をされる方によって、多少曲の解釈も変わるため、私たちがこの曲を聞いたときの印象が変わるのであろう。もちろん今回の朝枝さんの演奏は非常にすばらしかった。ちなみにこのソロの間、すぎやまさんはタクトを振られていなかったのも私の記憶の中に残っている。ただ、惜しむらくは、このソロの場面で観客席から、咳が聞こえたこと。静かなヴァイオリンソロの場面で、咳が目立ってしまったように感じた。

(ジプシーの旅)
踊り子と占い師の姉妹の妹である占い師をフューチャーしたもの。鉄琴や弦楽器のピチカートなどで演奏されており、やはり敵討ちの旅ということで、悲壮感漂うような曲が披露された。

(間奏曲)
再び間奏曲で、最後を曲を締めるような形になる。

携帯でのひととき

「勇者の仲間たち」が終わると一斉に拍手がなり始める。また、今回の拍手もかなり力強いもので、すぎやまさんもかなりの手応えをつかんでいるようだった。

「どうもありがとうございます!!」

ようやく、すぎやまさんが第一声を発し始めるところで、拍手がやむくらいなのだから、すぎやまさんがステージ上で満面の笑みを浮かべているのは容易に想像できるだろう。

「えー、それにしても最近はドラゴンクエストの曲を着メロとして使ってくださる方が多くて嬉しい限りです」

そんな話をしたところで、客席から大きな笑い声が… 特に笑いどころではなかったはずなのだが、すぎやまさんは構わず続けて話し始める。

「で、入っている曲をいろんな方に聞くと、これまたおもしろい。多くの曲を使って頂いているようなのですが、特に”デロデロデロ……”っていう呪いの曲が入っているんですよね(笑)」

会場からも笑みがこぼれる。

「恋人からとか、友人などからの着信には『おおぞらをとぶ』なんかの綺麗な曲を設定しておいて、呪いの曲は何に使うのかというと… たいがい仕事の電話の時!(笑)」

この一言には会場大ウケだった。私も笑ってしまった。

「”そんなので良いのか?”と思うんだけどね(笑)。こんなようにいろんな場面で着メロが使われているんですが、そんな中、先日質問を頂きました。着メロのメロディーと、原曲のメロディーのキー(調)が違うようなんだけど、それで良いのかって。間違っているのではないかと、話を頂いたわけです。

そのことについてお答えしようと思います。携帯電話は機種によって、出せる音の範囲、私たちはそれを”音域”と呼ぶんですが、その音域の幅がそれぞれ機種によって違うわけです。そのため、原曲のキーで表現しようとすると、高い音が出なかったり、低い音が汚くなったりもするわけ。だから、機種によってキーを調整するわけです。キーをずらしたとしても、音として確かにズレてはいますが、メロディは全く変わらないわけで、音楽の本質としてもさほど影響がでるというわけではないと思うんです。ということで、機種によって綺麗に聞こえるように調整しているんだと思っていただければなと思います」

この質問については、リンクを張らせて頂いているみぎーさんのホームページ「みぎー工房」の掲示板に質問された内容だったのだが、コンサートでその答えをすぎやまさんが直接答えられたという形になったわけだ。

「それじゃ、次は… 『街でのひととき』と『勇者の故郷から馬車のマーチ』と続けて演奏します」

・街でのひととき In a Town
この曲は主人公が訪れるであろう街々で、様々なことを見たり聞いたりするわけだが、それらをフューチャーする曲で、場面に応じて数曲、作られている。

(街)
街並みを歩いている時に流れている曲。出だしがヴァイオリンで始まりとても綺麗。ヴァイオリンからフルート、チェロへメロディが流れてゆき、ゆったりとして、そしてのどかな街の様子が目に浮かんでくる。

(楽しいカジノ)
文字通り、カジノでスロットやポーカーなどを楽しんでいる場面で流れる曲だ。トランペットやホルンなどが表立って、軽快なメロディを聴かせてくれる。途中でゆったりとした曲調になり、途中で「コン」と音が響くシーンが、独特の雰囲気を醸し出してくれる。そして、フィナーレにスロットなどで大当たりをしたときに流れるファンファーレがにくいほどすばらしい。

(コロシアム)
先ほど、「おてんば姫の行進」の曲説明の際に、姫が力試しに行くと書いたが、その力試しを披露するコロシアムにて流れる曲だ。曲の冒頭はヴァイオリンやフルートなどで、コロシアムへの参加者の気持ちが張りつめている様子を表したような感じになっており、厳かな曲調になっている。そしてその後、決心をつけて前へ歩みだすかのような力強いメロディーを金管楽器が奏でてくれる。

(※すぎやま先生から指摘を受けて直した訂正バージョン)

先ほど、「おてんば姫の行進」の曲説明の際に、姫が力試しに行くと書いたが、その力試しを披露するコロシアムにて流れる曲だ。コロシアムの騒然とした大群衆を表現しており、その喧騒がコロシアムに入るとワッと大きくなる様子が見事に伝わってくる。そして、最後には勝利を表す力強いファンファーレで曲が締めくくられている。

(街)
そして、再び街のテーマで曲を締めくくる。前回のドラゴンクエストのコンサートレポートで書いているのだが、すぎやまさんの「街」を表す曲は、目立つ曲ではないものの非常にメロディアスで良い曲が揃っている。こういう、普段なかなか気にすることの出来ない日常の場面を表すことのできる作曲家は、そういるものではないだろう。

・勇者の故郷~馬車のマーチ Homeland~Wagon Wheel’s March
この「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」は物語が五章構成になっており、最後の第五章で初めて主人公が登場するわけだが、その第五章の旅の途中で流される2曲だ。

(勇者の故郷)
まず、この曲が使われる場面の説明をしておくと、主人公は天空から授かった子供だったのだが、様々ないきさつからそのことを本人には伝えられず、主人公は何も知らずに辺鄙な村に住んでいた。しかし、魔族がその主人公を抹殺しようと村に現れ、村中の住人を片っ端から殺し、主人公の幼なじみも主人公を守るために殺されてしまったのだ。主人公はというと、生まれたいきさつを聞かされた後、将来の村の希望として、隠し部屋に入れられ、何も反抗をすることができず非常に苦い思いをしたのだ。

その後、その魔族に敵を討つために旅をしだすのだが、もちろん孤独の旅で、曲の冒頭には非常に悲壮感が漂うフルートの音色が流れ出す。非常に哀しげながらも、フルートからヴァイオリン、ホルンへとつながる曲の過程によって、主人公が遠くを見つめて、何か決心をしたような、そんなメロディラインを感じられた。

(馬車のマーチ)
主人公を含めて、いわゆる導かれし者たちが揃って旅を始める際に流れる曲。この曲は冒頭、トランペットが勇壮にメロディを奏でるわけだが、音も割れず、綺麗な音色を響かせてくれた。そして、曲の途中からすべての楽器がフルスロットルで音を鳴り響かせる。この重厚なサウンドはやはり生で聴くに限ると素直に感じた。

新曲に挑む

「馬車のマーチ」が終わると、例外なく一層大きな拍手が会場を包む。やはりなかなか拍手がやまない。その拍手の間を縫うようにすぎやまさんは話し始められた。

「どうもありがとうございます!!

えー、テレビゲームも、ファミコンからスーパーファミコン、そしてプレイステーションなどなどと、時代とともに進化してきました。それとともに、ゲームの話が大きくなり、メモリ(容量)も増え、もちろん音楽を入れるデータ量も大きくなったわけです。

そういうことになると、次第にゲームの曲数が増えていくわけですが、あまりにも曲を多くしてしまうと、曲の印象が薄くなってしまいます。『あれ? こんな曲、流れてたっけ?』というようなことになってしまったりとか。

『ドラゴンクエスト I』なんかは曲数が少なかったから、フィールドで流れる『広野を行く』なんて、何度もゲームをプレイしているとメロディを覚えてしまって、口ずさむことができちゃうんですよね。それで、『 III 』あたりで、再びこの曲が流れる場面が来たりすると、『 I 』の情景を思い出してゾクゾクッとくるわけですよ。

で、『ドラゴンクエスト IV』のプレイステーション版を作る際に、新しい曲を2曲作り足したわけなんですが、この曲は僕自身が、必要があるなと考え、納得した上で作った曲なんです。

それでは、その新しく作った曲を前半の最後の曲とします。この曲は初演となります。まだどこでも演奏をしていません。それでは、『難敵に挑む』です!!」

ゲームの進化によって、音楽をいかにするべきかというすぎやまさんのコメントは、その実力の片鱗を感じさせるものだと思う。音楽に使えるデータ量が多くなったら、曲数を増やすか、生の音を使うかと単純に考えてしまいがちだが、計算をして各楽曲が作られているのだろうなと改めて感じさせるコメントであった。

しかし、そのコメントの最後、次の曲の紹介で曲のタイトルを間違われてしまった。『難敵に挑む』ではなくて、正しくは『立ちはだかる難敵』だった。さすがに多くの曲を作り出しているすぎやまさん、他の曲名と混同してしまったのだろう。

・立ちはだかる難敵 Tough Enemy
すぎやまさんがおっしゃったとおり、どこでも演奏されていない、「世界初演」の曲である。ゲーム上では何度か流れたものを聴いた方がいらっしゃるだろうが、生のオーケストラでどのように鳴るのか、非常に興味があった。この曲は、モチーフとして通常の戦闘曲(「栄光への戦い」の中の「戦闘」という曲)を使っており、メロディラインがこの曲を踏襲している。それにしても、ドラムがバンバン効いており、非常に激しい曲だ。そして、曲中にティンパニがメロディを奏でる部分があるのだが、ティンパニがカバーできない音をトロンボーンなどが補うという離れ業をやってのけていた。このティンパニからトロンボーンへメロディが流れていく様は圧巻というしかない。また、ティンパニ奏者の方が、大変かっこよく演奏を決めてくれる。しかしながら、惜しむらくはちょっとパーカッション(ドラム)奏者の方が焦ってしまわれたのか、一部分で音が抜けてしまった部分。生演奏は失敗することもあるわけで、その辺も生演奏の良さなのかもしれない。


そんな若干の演奏ミスがあったわけだが、会場内は大盛り上がりで大きな拍手に沸いている。すぎやまさんはティンパニ奏者の方に向けて両手の親指を立てて「最高だったよ!」というようなジェスチャーをされ、またティンパニ奏者の方にも観客の私たちに対して拍手を促していた。初演の曲で、しかも前半ラストだったということもあり、ティンパニ奏者の方はじめ、神奈川フィルの皆さんや朝枝さん、すぎやまさんに対しての拍手のヴォリュームが一向に下がらない。全く下がらない。大きな拍手の中、一旦舞台袖に退場されたすぎやまさんは、あわててステージ上へと戻って、マイクを持ちひと言。

アンコールは、今はやらないよ~(笑)」

会場から笑い声が響いたが、やっとこの一言で会場の盛り上がりがクールダウンしたかのようだった。ゲストコンサートマスターの朝枝さんと神奈川フィルハーモニーの皆さんを拍手で舞台袖に送り出して、やっと休憩となる。

休憩中はみぎーさんたちと少ししゃべっていた。すぎやまさんがタイトルを間違えてしまったことや、「立ちはだかる難敵」の感想や、前半中のすぎやまさんのコメントについての話題で持ちきりだったと記憶している。

そういうことで、あっという間に時間は過ぎ、後半へ突入と言うことになる。

パンフレットを広げて…

会場のブザーが鳴り、しばらく経つとゲストコンサートマスターの朝枝さんと、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが入場された。そして、さっそくコンサートの最初と同じように音あわせをする。そして音あわせが終わった後、ステージ上にはまた静寂が広がる。

そこに、再びすぎやまさんが颯爽と姿を現す。会場から拍手が送られる。その拍手の中、改めてゲストコンサートマスターの朝枝さんと固い握手を交わす。その後、すぎやまさんはマイクを手にとって、会場に向かって話しかけられた。

「(拍手に対して)どうもありがとう!!

もう、長い間『ドラゴンクエスト』とつき合っていて、この『ドラクエ IV 』も、もう10年も前の作品となります。そう考えると、本当に長いですね~

それにしても、このクラシックのオーケストラコンサートというのは、本当に贅沢なものなんです。ロックのコンサートなんかは、とある体育館に2万人くらいの人を集めてやるけれど、クラシックの場合、そうはいかない。それをやろうとすると、PA(※1)を使うようになってしまい、生の楽器の音が聞こえなくなってしまう。大きくしても、今回のように2,000人くらいの観客が限界になってしまうわけです。

でも、クラシックの場合は、1回のコンサートでの観客の方は少ないんだけど、時間をかけて何回も回数を重ねることによって、全体の観客の数を増やすことができるんです。2,000人が集まるコンサートを10回やれば2万人になるわけですし。

ロックとかの場合は横の量(観客数)なんですが、クラシックの場合は縦に、いわゆる時間軸を基準に考えていくことができるのではないかと思っているわけです。

ベートーベンの交響曲第五番『運命』なんかは、これまでの間、何回も演奏されているから、どれくらいの人が聞いたかを考えると途方もなくなります。僕も、少しでもそこに近づいて、何度もコンサートを行い頑張りますので、よろしくお願いします!!」

すぎやまさんの言葉に、会場から暖かい拍手が送られる。

※1 PA (Public Address)
コンサートやイヴェントなどで、会場内に音声がちゃんと伝わるようにする音響機器の事。

「それでは、『恐怖の洞窟~呪われし塔』から『海図を広げて』まで4曲続けて演奏します。」

・恐怖の洞窟~呪われし塔 Frightening Dungeons~Cursed Towers
この曲は、主人公が冒険をしていく先で出会う魔物の巣窟である、薄暗い洞窟や怪しげな塔をイメージして作られているものだ。

(恐怖の洞窟)
オーボエが怪しげなメロディラインを吹いてくれるナンバー。静かな曲なのだが、同時におどろおどろした感じで、どこかで魔物たちが、洞窟内に進入してきた主人公たちをつけねらう様を感じ取ることができるだろう。

(呪われし塔)
「恐怖の洞窟」が終わった直後に続くこの曲は、木管楽器がまずメロディラインを担当しており、同じ音形を何度も繰り返し、それが曲全体の恐ろしさと、圧迫感を誘いだす。

・エレジー~不思議のほこら Elegy~Mysterious Shrine
主人公が生まれ育ったと思っていた村で突如の惨劇が起き、幼なじみを亡くした上、自分の出生の秘密を聞かされるという何重ものショックから、強い悲しみの受けている場面で使用されたり、また仲間が戦いの末死んでしまったときに流れる「エレジー」と、旅の途中で出会う神聖な場所などに流れる「不思議なほこら」のこの2曲は、宗教的な側面から考えると非常に似てきそうな楽曲なのだが、実は似て非なる楽曲なのだ。

(エレジー)
出だしは弦楽器全体が揃って悲壮感漂うメロディを奏で、その後オーボエあるいはクラリネットがその後に続いていくような形。美しすぎるメロディに、すばらしい楽器の音色。けれど、それは永遠に続きそうな哀しい時間(ひととき)を表しているのだろう。

(不思議のほこら)
綺麗なヴァイオリンの音色から始まる楽曲。静かな場所に、あるいは目に見えない何かがあるのかもしれない、何かがいるのかもしれないというような雰囲気がある。そういう部分では「恐怖の洞窟」と系列的には似ているのかもしれない。が、全く怪しげな雰囲気ではなく、荘厳かつ不思議な感じがする綺麗なものであった。

・のどかな熱気球の旅 Balloon’s Flight
フルートなどの木管楽器が楽曲の冒頭に聴かせてくれる音色は、本当にのんびりとゆったりと、そしてほんわかした旅を表すものとなっている。この曲は、気球に乗って、魔物のいない大空をのんびりと旅するところに流れてくる曲だ。

・海図を広げて Sea Breeze
その名の通り、海図を広げ大海原へ出航する様を描いたような曲。曲の出だしは弦楽器が主体となり、壮大な音の広がりを聴かせてくれ、その広がりが壮大な水平線の広がりをも感じさせてくれる。この曲は個人的には強く印象に残っており、CDとは全く違う感覚を受けた。生で聴くと、左右に音が広がり、イメージを立体化させられたような感じがしたのだ。決してパワフルな曲ではないと思っていたのだが、実際に聴いてみると力強い演奏を朝枝さんはじめ、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが奏でており、その音がひしひしと伝わってきた。

後半を征く

「海図を広げて」が終わると、会場からこれまた大きな拍手が送られる。指揮を終えたすぎやまさんは、マイクを手に客席に振り向いて話し始められた。

「どうもありがとう!!

次の曲も新曲となります。『ピサロ』という曲です。『ピサロ』というキャラクターはどちらかと言えば悲劇的な人物で、最愛のロザリーを失ったりして、激情に駆られ、悪魔の王として前へ突き進むようになったりするわけです。プレイステーション版の『ドラゴンクエスト IV』が作られる際、このキャラクターに対して新しく曲を作り足す必要があるなと感じて、今回の収録となりました。

それではその『ピサロ』から、プログラム最後の『導かれし者たち』まで演奏します」

そう言い終わると、すぎやまさんはサッとタクトを手にオーケストラの方に向き直った。

・ピサロ~ピサロが征く Pissarro
このピサロという人物は、魔族という身分ではあったけれど、ふとしたきっかけで出会ったエルフのロザリーと恋に落ちた。しかし、ロザリーがとある陰謀により殺されてしまい、それを人間の仕業だと思いこんでしまった彼は、悪魔の王として暴走しはじめるという、悲劇的な悪役だ。その彼をフューチャーした「ピサロ」と、その曲を行進曲風にした「ピサロが征く」の2曲が演奏される。

(ピサロ)
静かな出だしから、オーボエのソロで始まり、そのあとフルートのソロが続いてゆく。最初は穏やかで非常に落ち着いた曲調なのだが、ピサロの心情が揺れ動いてゆく様を表しているかのように、だんだんアップテンポになり、激しい曲調に打って変わる。

そして、「ピサロ」から「ピサロが征く」への曲のつなぎの部分が新たに書き足されており、この部分は非常に静かなメロディながらも、綺麗だったことを記憶している。

(ピサロが征く)
メロディは「ピサロ」と全く一緒だが、アレンジが違う。ホルンあたりで勇壮にメロディを吹き鳴らしており、全体的に力強いものになっている。そして「ピサロ」にあった、激しい曲調に移り変わる部分が、全体的な曲の力強さにうち消され、勇壮な行進曲へと移り変わっているのが非常にうまい。


「ピサロが征く」の演奏が終わると、ステージ左側の袖口から、譜面台を持った男性がトコトコと入場してきて、ゲストコンサートマスターの朝枝さんの前に譜面台を設置していった。そして、その前に朝枝さんが立たれ、すぎやまさんが「良いですか?」という感じで問いかけられたのに対して、にっこり笑って「どうぞ」というような返事を返されていたようだった。そう、ヴァイオリンのソロがあるのだ。

・謎の城 The Unknown Castle
この曲は、天空にあるといわれる空飛ぶ城へ主人公たちが行き着いたときに流れる曲だ。非常に荘厳な感じがして、それでいてとある気高い気品あふれる城内をイメージさせるような弦主体の曲になっている。

ゲストコンサートマスターの朝枝さんは、他の弦奏者の皆さんの伴奏に合わせながら、ヴァイオリンソロを弾きこなす。この曲を生で聴いていて思ったのだが、この曲は弾きこなすのがかなり難しい曲なのではないだろうか。非常に音が高く、微妙な音域が多いようで、高音域を弾かれる朝枝さんは、左手をかなり縮めながら、力と感情を込めてヴァイオリンを弾かれていた。その場面は私にとってかなり印象的だった。また、一本のヴァイオリンにて、和音を奏でるというのも非常に感動的だった。そして、ソロ部分が終わった後は、自分の席に静かに戻られて、続きの演奏をされていた。

当初、私が「ドラゴンクエスト IV イン・ブラス II」を中学生あたりの時に聴いて、それだけで満足してしまい(いろいろ作品があるとは当時知らなかった)、その作品に収録されていなかった「謎の城」という曲については、恥ずかしながらつい最近まで知らなかった。しかしながら、今回のコンサートを体感することによって、その記憶の穴は埋め合わされたのではないかと個人的には思っている。

・栄光への戦い Battle for the Glory
大魔王に挑むまでの幾多の戦いを表す楽曲群。「戦闘」「邪悪なるもの」「悪の化身」という3曲で構成されており、通常の戦闘曲、中ボス曲、ラストボスの曲とつながっていくわけだ。また、この戦闘の曲というのは、ゲーム中では流れる頻度の高いもので、ドラゴンクエストをある一面を表している曲だと評しても良いのかもしれない。

(戦闘)
金管楽器と弦楽器が中心となって、オーケストラ全体の迫力が楽しめる曲だ。アップビートで、個人的にはドラゴンクエストの中ではかなり好きな部類に入る曲。本当にテンポが速いのだ。特に木琴(シロフォン)が非常に素速い音色を聴かせてくれる。

(邪悪なるもの)
今度は打って変わって、金管楽器のスローテンポの恐ろしげな曲に変わる。何か、”邪悪なるもの”が徐々に膨れあがっていくさまを表しているような感じだが、常に低音を維持しており、その膨れあがるものを体内に蓄積されていくのを感じる、そんな曲である。

(悪の化身)
そして、その体内に蓄積されていた膨れあがるものが外に放出されたような形で曲が始まる。静かなる激情の始まりといったところだろうか。この曲で表現されている、ゲームのラストボス(ピサロのことなのだが…)は、この時点で自らの意識を失い、自分を制御できずにいた。その部分を表しているのか、一定のリズムで淡々とメロディが流れていくような雰囲気がある。そして、悪の化身が変態し、姿を変えても、力強いメロディが含まれているものの、これまでのラストボスの曲とは違い、「力と力のぶつかり合い」でもなく、「弱き人間どもを血祭りにあげてやる」でもない、大きな抑揚が少ない、何とも不思議なラストボスの曲となっている、と私は思う。

・導かれし者たち Ending
そして、最後の曲である。導かれた者たちが集い、邪悪なるものと対決し、見事撃破するさまを、曲の出だしのホルンやヴァイオリンなどが力強い音色で言い表してくれる。

その後、フルートなどがこれまでの旅を回想するかのように、静かで優しげな旋律を奏でる。そんな形のメロディが何度か繰り返され、その部分が何か仲間たち同士、別れを惜しんでいるかのような感じにも受け取れる。

そして、曲の最後はすぎやまさんの指揮にも熱がより一層入り、その両手とともに、音が鳴り響き、綺麗な音色を響かせ曲が終了した。


「導かれし者たち」のラストは、静かに弦の音色がフィードアウトしていくのだが、その最後の音が鳴り終わるのを待って、会場から大きな拍手が起こった。非常に盛大な拍手だ。すぎやまさんは、客席の方に向き、何度もお辞儀をしたり、あるいは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんに、両手の親指を立てて「グッド!」と表現されたり、ゲストコンサートマスターの朝枝さんと握手を交わすなどをした。

拍手の間、何度か舞台袖とステージを行き来していた。舞台袖では、すぎやまさんはコップを口にして、少し水分を補給されてたようだが、そこから出てきたすぎやまさんをふと見ると、「導かれし者たち」の指揮で、激しい指揮をされていたこともあり、少し髪型が乱れているようだった。それほど、力を込めたものだったのだろう。

そして、ステージ中央ですぎやまさんは、マイクを取られ客席に向かって笑いながらひとこと言われた。

「今度は、アンコールをやります!!(笑)」

会場内からはヤンヤヤンヤの大喝采が起こっているのは、想像に難くないことだろう。

アンコールは何だ!?

すぎやまさんからの「アンコールをやる」という一言を受けて、会場内が盛り上がっているのだが、それに追い打ちをかけるような言葉がすぎやまさんの口から聞こえた。

「今回は、ドラゴンクエストのコンサートで初めてドラゴンクエスト以外の曲を演奏します!!」

この一言には会場内もどよめいた。予想だにしなかったことだったからだ。ドラゴンクエスト以外の曲で、いったい何があるのだろうと思われた方もいらっしゃったかもしれない。

「さあ、何だと思いますか?」

勘の良い方は『たぶんこの曲ではないかな』と気づかれた方もいらっしゃったかもしれない。私も勘が良かった方で、実の事を言うと、コンサート前にはある程度想像がついていたのだ。

「『亜麻色の髪の乙女』やります!」

そう、最近リバイバルでCDが売り出され、大ヒットしているナンバーを演奏するのだ。会場からは『オー!?』というような、どよめきやら歓声やらで、沸きに沸いた。

「この曲、僕の作品だって知ってた?」

すぎやまさんのこのひと言には、「もちろん、知ってますよ~」と受け答えしているような感じで会場内から拍手が起こった。

「この曲を島谷何とかさんって方が、歌われているんですが、そのメロディが…… あー… うん… フルート! ちょっと少しだけメロディーを演奏してくれる? うん、そう。出だしから!」

まず、「島谷何とかさん」という部分で会場から笑いが起こった。その後、すぎやまさんがちょっと考えられた後、フルート奏者の方に少し、メロディを演奏してくれるように頼まれていた。

♪亜麻色の~長い髪を~ 風がや~さしくつつむ~♪

フルートの音色が会場内に響き、それに対して会場から暖かい拍手が送られたのだが、島谷ひとみさんのマキシシングル『亜麻色の髪の乙女』を良く聴いていらっしゃる人は、「おや?」と思われるメロディがあったのではないだろうか。その点については、すぎやまさんがこの後に説明された。

「『♪亜麻色の~長い髪を~ 風がや~さしつつむ~♪』 この『レ・ファ・ミ(さしく)』の部分を、島谷ひとみさんの方は『レ・ミ・ミ』で、同じ音程で歌ってしまってしまっているんですよ(苦笑)。この『レ・ファ・ミ』の部分は、それなりの考えがあって音を変化させていたんですが…(苦笑)」

すぎやまさん、苦笑いされながらも非常に残念そうに、しゃべり続けられた。

「しかも、その曲を耳コピーして楽譜にしているものだから、その間違ったメロディの楽譜ばかりができてしまってね…(苦笑) そこの部分を正しくやってくれたのが、長野でこの間あった例の偽もの…(笑)」

会場はこのひと言に大ウケだった。長野県のとある街で、ビレッジシンガーズのメインヴォーカルである清水道夫さんになりすまし、町のカラオケ大会で堂々と『亜麻色の髪の乙女』を熱唱する様子が全国に放送されていたこともあり、こんな話が出てきたのだろう。ちなみに、この偽者、かなり歌がうまかった。偽者が曲を正しく歌って、商品として出されているものは間違っているというのは、非常に皮肉なものだ。すぎやまさんは、この件に関しては非常に苦い思いをされているとのことだが、そこを笑い飛ばしてくれた部分に、すぎやまさんのパワーを感じる。

「しかし、今日はこの神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さんが、正しいメロディで美しく歌ってくれますので、じっくりと聴いてみてください!」

その一言に、会場から大きな拍手が起こったが、その拍手が鳴りやまないそばから、すぎやまさんは右手に持ったタクトを振りかざし、臨戦態勢に入ろうとしていた。

・亜麻色の髪の乙女 オーケストラヴァージョン
今回のオーケストラアレンジは、ヴィレッジシンガーズが歌っていたオリジナルをベースに組まれており、前奏は綺麗な弦の響きから始まった。会場に来ている若い多くの観客にはあまり聞き慣れないものだったはずだが、それにしても美しい音色を響かせてくれる。すぎやまさんのオーケストラアレンジは、オリジナルを超え、よりなめらかに、より優雅に、そしてより優しい音色で、私たちにそのメロディを届けてくれるのだ。しかも、そのメロディがちゃんと主張している。そして、神奈川フィルの方々が、身体全体を動かしながら演奏を行うことによって、目からもその音を味わえる。

これまで、ポップスの曲をオーケストラにするのはすぎやまさん自身、あまりやられていなかったのではないかと思うが、ヴォーカルが入った曲とはまるで違うと言っても良いほど、それほどのインパクトを受けた。アンコールにしては非常に贅沢な曲だった。


「亜麻色の髪の乙女」の演奏が終わり、会場からひときわ大きな拍手がわき起こる。すぎやまさん、会場に頭を下げながら、舞台袖へ戻られていく。もちろん、すぐにステージ上に戻ってきた。

「続いて、もう1曲、ドラクエ以外の曲をやろうと思います!」

このひと言に、また会場から大きな拍手が。

「さあ、何の曲だと思いますか?」

会場から、「恋のフーガ」とか、「学生街の喫茶店」といったすぎやまさんの代表曲を挙げる声がかかる。そして、もう1曲、声がかかったのだが、すぎやまさんがその声を良く聞き取れずに…

「えっ? 何?」

と聞き返すと、大きな声でこんな返事が…

「競馬!!」

会場内、この一声に、非常に沸いて、笑い声も聞こえた。すぎやまさんの中央競馬のファンファーレはまさに代表曲にふさわしいのだが、それをストレートに「競馬!!」と表現されたので、笑いのツボを刺激された方も多かったのではないだろうか。すると、すぎやまさんは神奈川フィルの方に向かってひと言…

「金管(楽器)のみなさん、今度譜面を用意しておきますので、次回お願いしますね!(笑)」

これまた、会場内大いに沸いた。次回のコンサートではもしかしたら競馬のファンファーレを聴く事ができるかもしれないというわけだ。

「うーん、それにしてもみんなハズレですね~」

ちょっと残念そうにすぎやまさんが言葉を発した直後、会場内の女性たちが一斉に…

「花の首飾りっ!!」

と、大きな声を声をかけた。

「おっ!? 当たり!!」

すぎやまさんはやっと答えが出てきて、少し嬉しげな様子だった。

「そう、『花の首飾り』をやります。この曲は、去年あたりに井上陽水さんが歌ってくれたので知っている方も多いかなと思います。この曲も30年くらい前の曲で、ドラクエともども、僕の作曲してきた曲は長生きしているわけです。僕も、曲に負けないように、長生きしていければなあと思っています!」

もともと『花の首飾り』はザ・タイガースが歌ったのがオリジナルなのだが、その後井上陽水さんが同曲をカバーし、CMの挿入歌になっていたのだ。そのため、純粋なドラゴンクエストファンでも、耳にしていた方も多い曲だろう。

にしても、本当にすぎやまさんの楽曲は息が長い。いや、息が長いというと失礼かもしれない。本当にすばらしい曲というのは、時代を越えて愛されるものであり、常に息づいているものだろう。時代の流行を押さえるのではなく、時代の流れを読み、本質を押さえながら作曲されているからこそ、長く愛されるものだと私は考えている。そんな曲を作り続けているすぎやまさんには脱帽だ。それと、年齢については、先ほども述べたことではあるが、体調に気をつけながら、これからもどんどん頑張って頂きたいと思う。まだまだ、すぎやまさんの曲を聴きたい、聴き足りないファンが大勢いるわけで、これからもパワフルに活動される事を切に願っている次第だ。

「それでは演奏しましょう!」

すぎやまさんは、そういわれてフィルの方に向き直った。

・花の首飾り オーケストラヴァージョン
この曲も非常に美しかったのだが、私の記憶力が乏しくもうすでに思い出す事ができない。どうも、ゲストコンサートマスターの朝枝さんのソロの部分があったようだ。そう言われると、その記憶が少しだけ戻ってくるような気がする。それでも、やはり『亜麻色の髪の乙女』の時にも書いたように、ポップス系の曲をオーケストラにすると、メロディが非常に立っているのに、優しげな音色になるのだなという発見があったのが印象に残っている。

もちろん、この『花の首飾り』の演奏が終わった後にも、大きな拍手が会場から起こったのはいうまでもないだろう。

フィナーレは何だ!?

会場から大きな拍手が起こっている。普通の場合、アンコールは2曲なのだが、突然すぎやまさんがマイクを手に、客席の方に向かれた。

「やっぱり、ドラゴンクエストのコンサートなので、締めはやっぱりドラクエでないと!!」

そう、まだアンコールがあったのだ! 会場内の誰もが「アンコールは2曲だろうし、これで終わりかな」と思われていたのではないだろうか。それがすぎやまさんのひと声で覆ったのだから、場内沸かないわけがない。

「普通は一度、舞台袖に戻って、再び出てきてアンコールをやるものなのですが、もったいつけないで、この今の勢いに乗って演奏しようと思います!」

この前の2曲のアンコールは、すぎやまさんはとりあえず舞台袖に戻っていたのだが、会場内のノリが非常に良く、すぎやまさん自身も絶好調だったようで、勢い余ってすぎやまさんがマイクを手にしてしまったのだろう。

「最後の曲のタイトルは言いません! 最初のメロディを聴いたら、誰でも分かる曲です。分からなかったらドラクエファンのモグリですよ!!(笑)」

そういわれて、すぎやまさんはタクトを取った。どの曲を演奏されるのだろうか。モグリ、という表現をされているのだから、よほどの名曲が演奏されるはずだ。

・そして伝説へ Into the Legend (ドラゴンクエスト III そして伝説へ…より)
本当に最初の数小節で誰もが分かる名曲が演奏された。トランペットの勇壮なメロディから入る曲。これまで長い冒険の旅をしてきた主人公たちが、最後に大魔王との激闘の末、勝利を収めて帰ってきたのだ。しかし、その大魔王の魔力によって開かれていた異世界との繋がりが絶たれ、その異世界からやってきた主人公たちは故郷に戻る術を無くしてしまった。主人公たちは、それにうすうす気づいてはいたのだが、自分たちの使命を守るため、故郷の家族と永遠の別れを心に決めていた。しかし、やはり大魔王を倒した後、頭の中に駆けめぐるのは家族のことだった。『故郷に残してきた母は元気だろうか。出来れば、父の最後の言葉を伝えてやりたかった』など、いろんな想いを抱いていただろうと思う。そんなイメージができる、すばらしい楽曲なのだ。

勝利を収め、街に帰ってきたときの様子は、勇壮なトランペットの音色で。そして、ふと感じた故郷への想いは、フルートからヴァイオリン系統へとつながるメロディへ続いていくわけだ。そしてその後は、故郷は忘れきれないだろうが、前へ進み出さなければいけないとの想いで、オーケストラ全体が壮大なスケールでメロディを奏でてゆく。

この曲には、個人個人、種々さまざまな想いがあるであろう。それにしても、この曲には私自身、少し目が潤んでしまった。曲が使われる背景についてはもちろんだが、私はこの『ドラゴンクエスト III そして伝説へ…』には深い思い入れがある。当時、私はファミリーコンピュータを持っておらず、友人と一緒に遊んでいたときに、この作品を知った。その時に、このイマジネーションを起こらせるゲームとその音楽に魅了されていったのだ。

そしてまた、私は2年前のコンサートに来ていたのだが、その時のアンコール曲はドラクエ Iの『街の人々』と、ドラクエ IIの『この道わが旅』だった。そう考えると、2年越しで「ロト編完結」と言った意味合いも私の中にはあったのだ。

演奏自体は、トランペッターの方が、最後の力を振り絞って演奏されていたと思うが、さすがに何度か音をはずされていた。この辺は、多少仕方ない部分があると思う。それだけ、力強く吹き込まなければならないメロディがあり、体力的につらかったのだと思う。


スケールの大きな『そして伝説へ』の演奏が終わった。音の余韻が無くなる時まで静寂が会場を包んでいたが、音が無くなった瞬間、ドッと会場から拍手がわき起こった。曲に対しての拍手というだけではなく、今日のコンサートに対してのものもあったろう。非常に強く、長い間拍手がされた。

その間、すぎやまさんは客席に向かって会釈をされ、ゲストコンサートマスターの朝枝さんとガッチリ握手をされた。その後、何度かすぎやまさんがステージと舞台袖とを行き来していたわけだが、拍手が全くヴォリュームダウンしない。すぎやまさんは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団を称え、客席に対して彼らに拍手をお願いするジェスチャーをされ、またフィルのメンバーに対して親指を立てられ、「素晴らしかった」という仕草もされていた。

すぎやまさんが退出された後、ゲストコンサートマスターの朝枝さんが、客席へと深々とお辞儀をされ、朝枝さんに続き、神奈川フィルハーモニー管弦楽団のメンバーも退出するという流れとなった。そう、コンサートが終わってしまったのだ。


今回、2002年のドラゴンクエストのコンサートはこの会場と、名古屋でも行われた。話に聞くところによると、名古屋のセントラル愛知交響楽団の演奏が非常に素晴らしく、それと比較してしまうと、神奈川フィルハーモニー管弦楽団はどうも…という話も聞かれた。しかし、私は名古屋には出向いていないが、神奈川フィルの演奏も多少のミスはあったものの、なかなかのものだったと思っている。その表れとして、今回の観客の反応にあったと思う。演奏が悪かったら、あんな拍手は起こらない。神奈川フィルの方々には、胸を張って、良い演奏をしたのだと思ってもらいたい。これからもドンドン頑張って欲しい。

そして、ホントに今回のコンサートは良い意味で観客を裏切るものだったと思う。まず、新曲「立ちはだかる難敵」と「ピサロ~ピサロが征く」については、想像以上に素晴らしい出来だったわけだし、そして何といってもアンコールが素晴らしかった。ドラゴンクエスト以外の曲をアンコールで演奏されるとは、普通は夢にも思わないだろう。私はコンサートのアンケートにも書いておいたが、次回のアンコールでもドラゴンクエスト以外のすぎやまさんの名曲を披露して欲しい、そう思っている。

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ということで、東京芸術劇場大ホールで行われた第16回ファミリークラシックコンサート・ドラゴンクエストの世界のコンサートレポートはこれにて終了します。非常に長くて読みづらいレポートを、時間を費やして読んで頂いた皆さんに、お礼を申し上げます。また、レポートを書く機会を与えてくださったすぎやまさん、朝枝さん、そして神奈川フィルハーモニー管弦楽団の皆さん、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。

最後に… 非常にレポートが長くなってしまい、おそらく書き間違いや、私の勘違いもいくつかあると思います。もし、それを見つけられた場合はご一報下さると非常に嬉しいです。そういうことで、また次回、お会いしましょう。

初校 2002/09/06 00:00 書き上げ
第二校 2002/09/07 14:45 一部修正
第三校 2002/09/30 23:40 一部修正

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